替わる日常
タイトルは誤字じゃないですよ
いつもの教室の前の廊下で、僕は先生と一緒に立っていた。教室の中からは慣れ親しんだクラスのみんなの声が聞こえてくる。
「葵君…とりあえず先生が先に説明するから、後から入ってきてもらえるかな?」
「はい…」
困ったような表情でそう言って教室に入っていく先生に、少し申し訳ないなと思いながら僕はいつもより高くなってしまった声で返事をする。
『おはようございま〜す。え〜今日はみんなに…』
先生が教室に入って話し始めた声を聞きながら、僕は窓ガラスに映った自分の姿を見つめてしまう。
可愛らしい服を身に纏った、セラスさんと瓜二つの少女の姿を。
どうしてこんなことになっているか…話は数時間前まで遡る。
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アラームが鳴り響く。目を開いていつものように体を起こして、ナノマシンの操作画面でアラームを停止する。
「…グル?」
隣を見れば、昨日はセラスさんが蒼と一緒に寝ていたみたいで僕の動きに気づいた蒼が眠そうにしながらこちらを見ていた。
「おはよう蒼、セラスさん」
『…』
…?
「あれ?」
とてつもない違和感があった。声変わりを終えても他の人と比べれば高かった声が、さらに高いような…。
不思議に思いながらもベッドがら出て顔を洗おうと寝ぼけた頭で洗面所に向かう。いつもなら二度寝している蒼が起きたまま僕の方を見ていたのを少し不思議に思いながらも部屋を出て洗面台の前に立つ。
「……ん?」
鏡に映った自分の姿に、重かった瞼が一気に開く。そして同時にさっきまで感じていた違和感の正体を嫌でも理解してしまう。
「なんでぇ?!」
思わず出たその叫びは、いつも聞いていたセラスさんそっくりの高い声で響き渡る。…そう。僕の体は、セラスさんの体のままになっていた。
「セラスさん?!ちょっとセラスさん!僕の体戻ってないですよ?!」
『……』
動揺しながらも僕の中にいるはずのセラスさんに声をかけるも、いつもすぐに帰ってくるはずの声が帰ってこない。
「葵〜?どうかしたの〜?」
僕の叫びに最初に反応したのはキッチンで朝ごはんを作っていたお母さんだった。どうやらキッチンの方まで聞こえてしまっていたみたいだ。
昨日はセラスさんに体を渡して僕は眠っていたから、その間に何かあったならお母さんも知っているかもしれない。そう考えてお母さんの声がしたキッチンに駆け込む。
「お母さん!」
「どうしたの葵?…ってあら?セラスちゃんだったの?」
「違うよ!今は葵だよ!」
「…葵ってば女の子になっちゃったの?」
セラスさんの見た目でセラスさんの声なものだから、お母さんはセラスさんが冗談を言っているものだと思ったらしい。少し笑いながらそんなことを言われてしまう。
「違うよ!本当に葵なんだ!起きたら体が戻ってなくて…お母さんは何か知らないの!?」
「あら?本当に葵なの?」
「だからそう言ってるでしょ!」
必死に説明をしてようやくわかってくれたみたいで、お母さんは料理の手を止めてこちらに来る。
「どうしたの?セラスちゃんは何か言ってないの?」
「それが起きた時から返事がないんだ…」
…そういえば朝におはようを言った時にも返事がなかった。本当にセラスさんに何かあったのか?
「お母さん、昨日セラスさんってどこかに行ってた?」
「行ってたというか…私と一緒にお買い物に行ったわよ?」
「え…それだけ?」
「えぇ…疲れてたみたいで帰ってきてすぐに寝ちゃったけど」
…お買い物?それでなんでこんなことになるんだ?
その後もお母さんに詳しく話を聞いても普通に買い物をしただけで、なんの異常もなかったらしい。…セラスさんって疲れるの?天使なのに?
『……』
…普段だったらここまでセラスさんについて考えたり話していればすぐに返事が返ってくるのに、今日は本当に朝からなんの返事もない。本当に何かあったのかもしれない。
「えっと、葵は自分で男の子に戻れないの?」
「…うん、よく考えたら自分で戻ろうと思って戻ったことはないかも」
今まで入れ替わっていた時は、セラスさんにお願いしてセラスさんに替わってもらっていた。自分で体を変えようと思って変えたことはなかった。
「…どうしましょうか?」
「…どうしよう」
今日からまた学校に行かなきゃ行けないのに…班長として修学旅行のまとめとか発表の準備とか色々あるのに…。
「どうする?今日は学校お休みしましょうか?」
「う〜ん…あんまり休みたくないんだけど」
そう言った僕に、お母さんは何かを思い出したように手を叩く。
「…そうだ!お洋服はあるしとりあえずそのまま行ってみたらどうかしら?」
「……え?」
お母さんが何を言っているのか理解できなくて…というか理解したくなくて思わず聞き返してしまう。
「ほら、昨日セラスちゃんと一緒にお買い物に行った時にお洋服をいっぱい買ったのよ。だからそれを着れば学校には行けるんじゃないかしら?」
先生には私も連絡しておくわ、というお母さんの言葉が右から左に流れていくような感覚を覚えながら間抜けに開いたままの口から言葉が漏れる。
「………えぇ?」
『……むにゃむにゃ、あと2億年…』
はい。いや〜大変だなぁ葵くんの体が女の子になっちゃうなんて、いや〜大変大変。
ヒャッホウ新鮮味のあるTSだ楽しいぃぃ!!!




