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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
ふたりの異能

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事故紹介

遅くなってしまってすいません

 驚愕と困惑が満ちる双葉家のリビングで両膝から床に崩れ落ちた僕に、両親はさらに困惑した様子でこちらに近づいてくる。


 「だ、大丈夫ですか…?」


 「ねーさん大丈夫?」


 「カハッ…!」


 悪気のない凛月の追い討ちに両手も地面についてひんしになる僕。してんしはめのまえがまっくらになった!やるきとひんいが地の底まで落ちた!


 ふふふ…熾天使である僕に膝をつかせるなんて、さすが僕と葵の弟。やるじゃないか…!


 「すいません、もう大丈夫です…」


 心配そうにこちらを覗き込んでくる家族に声をかけながら立ち上がり、再度みんなで食卓につく。葵の膝で丸くなっていたゆずちゃんは僕が出てきた途端に逃げ出そうとしたので、首をつまみ上げて逃げられないように抱え込んでおいた。…やっぱりねこもかわいい…。


 「えっと…」


 凛月に致命傷を負わされた心をアニマルセラピーで癒していると、父がおずおずと話しかけてきた。


 「あ、すいません。改めて初めまして?ずっと葵の中に居たセラスと言います」


 困惑しきった様子の両親に改めて自己紹介をする。僕もどこまで言ったものか迷いながらなので、とりあえず葵が言った通りの情報だけの自己紹介をしておく。


 ていうか自己紹介とか人間時代から苦手なんだよな…。下手にウケ狙いに行って気まずくなったり…。


 「あ、あぁ…葵の父の双葉康太です」


 「同じく母の優華です…」


 「ふたばりつきです」


 「あ、知ってます…葵の中からずっと見てたので。凛月も自己紹介できてえらいね〜?」


 父と母に倣って自己紹介をした凛月の頭を撫でると、凛月は満足そうにふふんと鼻を鳴らして撫でられてくれる。この子は普段表情が乏しい分、ちょっとした変化がすごくかわいいんだよなぁ。


 「…?えっと、セラスさんでよかったかしら?」


 「?はいセラスです」


 おずおずと話しかけてきた母の方を見れば、何かに気づいたような表情をしていた。凛月が安心しきっている様子を見て多少は警戒が解けたのか、父も母も最初よりは大分リラックスしてきたように見える。


 「セラスさん…昔に一度会ったことがないかしら?」


 「あ〜…」


 母の様子を見るに、あの時のことだろうな…。あの時は両親に面倒を押し付けてしまったと言うこともあるし、あまり触れられたくはなかったんだけど…。


 「何?優華は会ったことがあるのか?」


 「あら?あなたは忘れてしまったの?私たちの命の恩人ですよ?」


 まだ気づいていない様子の父に母がそんなことを言う。あぁ…やっぱりあの時のことか。


 もうここまで来たらと諦めをつけて、しまっていた翼と輪を全て出す。


 「!?」「まぁ…やっぱりそうだったのね」「キレー!」


 僕の熾天使としての姿に、三者三様の反応を見せる両親と凛月。そして、母が何を言っているのかわかっていなかった父も僕の姿を見てようやく思い至ったみたいだ。


 「まさか…あの時の!?」


 「…そうです。葵がまだお腹の中にいた時に、2人を襲った仮想体を倒したのは僕ですよ」


 『???』


 脳内で葵が困惑している声が聞こえてくるけど、そうなのだ。僕と両親は顔を合わせるのがこれで二度目なのだ。葵がまだ母のお腹の中にいた時、ぐずった葵のために両親を襲っていた仮想体を処理して両親を治療したことがあったんだ。


 天使としての姿を見せなければバレないかと思っていたけど、母はしっかりと僕の姿を覚えていたようだ。天使の姿を見せた僕に両親が神妙な面持ちで近づいてくる。


 「「あの時はありがとうございました」」


 僕の前に立った2人が、揃って頭を下げる。どうやら自分たちの命に加えて、まだ見ぬ息子の命を救った存在ということもあってかなりの恩を感じていたらしい。母なんかは、それこそ十年以上経った今でも顔を覚えていたぐらいに。


 「気にしないでください。僕としても生まれる前に死にたくはなかったので」


 僕としてはあの時は両親にかけらも情なんてなかったから、葵を死なせないために仕方なくといった感じで助けたわけだし…。そんなに感謝されても、今はしっかりと家族という認識がある分気まずい。


 「それでも…今私たちが生きていられるのはあなたのおかげです。本当にありがとうございました」


 「…まぁ、お礼は受け取っておきます。それと、そんなに畏まらなくても良いですよ?僕は葵の記憶も感情も共有してますから、みんなが僕の家族という認識は葵と変わりません」


 「そう…なのか。なら、葵と同じように話すぞ?」


 「そうしてもらって構わないよ、僕も適当に話すからさ」


 急に口調が砕けた僕に両親は驚くけど、僕としては両親という認識はあっても同時にどうしてもただの人間という認識が拭えない。ただの子供としてはおかしな態度かもしれないけど、これぐらいは許してほしいものだ。


 「…それじゃあ葵に戻るけど、葵が見聞きしたものは僕にも伝わるし、葵とは会話できてるから何かあったら言ってね」


 「あ、あぁ…」


 「こちらこそ、何かあったらいつでも言って良いんだからね?」


 「うん、ちょくちょく出てくると思うからよろしくね」


 これ以上何か聞かれるのも面倒だし、ほぼ一方的に会話を切って葵に替わる。僕が戻って葵が出たことによって体が男に戻りまた家族が驚いている中、葵が僕に話しかけてくる。


 『もう良いんですか?』


 「うん、僕のことは良いから。話したいこともいっぱいあるでしょ?帰ってきたばっかりなんだからゆっくりしなよ」


 『…わかりました。変わりたくなったらいつでも言ってくださいね』


 「うん、それじゃあ」


 こうして適当にも程がある自己紹介でなんだかんだで家族に受け入れられて、これから面倒になる予感を感じながら葵達が楽しそうに会話しているのを聞いて1日が終わっていった。


次は…少なくとも23日になる前にですかね?

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― 新着の感想 ―
[一言] 焦る必要はなく、ゆっくりと行い、適度な休息も忘れずに行ってください。この章をありがとう
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