静かな時間
くっそ久々の更新です。慣れない仕事はやっぱ疲れますね。
「『ふぁ〜…』」
修学旅行からの帰り道、リニアの中で出たあくびは二重になって頭に響く。徹夜した時のような気だるさが体にまとわりついていた。
「どうしたアオ?今日は珍しく眠そうにしてるな」
「そういうケンだって眠そうじゃん」
「そりゃ俺らは夜更かししてたからな。アオは昨日もさっさと寝てたじゃねぇか」
「あ〜、まぁね…」
師匠からの教えもあって普段から睡眠時間には気を配っていて、学校に寝不足で向かうことはないように気をつけていた僕があくびをしているのが珍しいのかケンが心配そうに話しかけてくる。
昨日の夜は色々なことがあったおかげで、僕とセラスさんは無事寝不足だった。本に夢中になって気づいたら日が変わっていた時以来気をつけてたから、久々の感覚だった。
…ん?そういえばセラスさんって僕が寝てる時はどうしてるんだろう?一緒に寝てるのかな?
『僕は別に寝る必要ないよ。眠気とかの感覚が共有されてるから眠気は感じるけどね』
セラスさんは僕の考えていることに自然と答えてくれる。朝は頭に響く声に驚いたけど、なんだかんだすぐに慣れた。…それにしても、昨日体は寝てたはずなのになんでこんなに眠いんでしょう?
『そりゃあ心が休めてないからね。ベッドに入った瞬間朝になってて、眠った気がしなくて疲れが取れないって経験ない?』
あ〜なるほど…確かにそんな感覚に近いのかもしれない。寝不足とは言っても昨日僕らの体は窮鼠を倒しに外に出た時以外は眠っていたはずだけど、精神はあの空間でセラスさんと朝まで話していたし眠っていたという実感はあまりない。
『別に寝ちゃってもいいんじゃない?何かあったら起こすよ』
そうは言っても、修学旅行の最後なんですし…せっかくなら起きていたくないですか?
『他の皆も同じ気持ちだろうけど…ほら、眠いのも一緒みたいだよ?』
セラスさんにそう言われて班のみんなを見ると、昨日も夜更かししていたらしいケンや零君はもちろん、流石に疲れが出たのか流奈ちゃん達も眠そうにしていた。
椿さんなんかはだんだん船を漕ぎ始めていた。…うん、それなら僕も寝ちゃおうかな?
『そうするといいよ。家に着いたら色々やることもあるんだし、今のうちに休んでおきな?』
…やること?何かあったっけ?
セラスさんの言葉に思考を巡らせようとするけど、寝不足の頭に限界が来てだんだんと意識がぼやけていく。
『面倒なことはある程度片付けておくから、安心して寝ていいよ』
じゃあ、お言葉に甘えて少し眠らせてもらいます。
『寝てる間は僕が体使ってるからね。…それじゃ葵、おやすみ』
…やっぱり、この声落ち着くなぁ。
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「……はぁ」
葵が眠りについて、班員のみんなも静かになったのを確認してから体の主導権を僕が握る。葵から共有されていた感覚がより鮮明なものになるのと同時に女性のものに変わっていく体に思わずため息が出る。
…髪は葵も長いしなんとかなるけど、顔とか身長とか胸とかはどうしようもないんだよなぁ。
ついブラックホール企業天界の代表取締役への恨み言を漏らしそうになるのをグッと堪えて、膝の上で丸くなっているゆずちゃんを撫でながらナノマシンを起動する。
「にゃ…?」
「君を家に迎えることになったのは僕のせいだからね、根回しぐらいするさ」
「…にゃ」
「…まぁ君は僕の指示通りやってくれればいいからね」
不機嫌そうにしながらも膝で丸まったままのゆずちゃんを撫でながらメッセージアプリを開いて一条先生と家族にメッセージを送る。
…ふん、ナノマシンは慣れれば異能力操作で直接入力できるから手が空いて便利だな。
二つのトーク画面に一瞬で返事が返ってくる。一条先生からは「急にどうしたのかナ?」と、お父さんからは「どういうことだ?」と短く返事が返ってきていた。
それぞれ説明の返事を入力しているところで誰かが近づいてくる気配がする。あ〜…あんまり葵の事を知っている子に顔見られたくないんだよな。
いちいち葵の見た目を貼り付けるのも面倒だし応急処置と思って髪を止めていたゴムを解いて顔のラインを隠して窓から景色を眺めるような体勢をとる。
「お〜いケンタ…って双葉以外寝てるのか?」
どうやら他の班の健汰の友人が遊びにきたようで、僕の体勢とナノマシンが開きっぱなしなのを見て僕が起きていることには気づいてしまったらしい。
「…」
とりあえずあまり顔が見えないように顔だけで少し振り返りながら口元に人差し指を当てる。それだけで僕の意図は汲んでくれたようで健汰の友人は黙って頷いて僕らの席から離れていった。
…意外となんとかなるもんだな。
やり過ごせたことに安心しながら葵が起きた時に対応しやすいような内容を心がけてメッセージのやり取りをできるだけ短く済ませていく。
幸い十分もかからずにやり取りはある程度片付いた。時計を確認すれば地元までの残り時間はまだ1時間以上残っていた。…確か、葵が持ってきて読んでなかった本があったよな。
葵も帰りのリニアで読むつもりだったらしい本はバッグの一番上にしまってあった。葵が最近買ったばかりの本を開き、やろうと思えば一瞬で内容を理解できる本をあえて1ページずつ、1単語ずつ咀嚼するようにゆっくりと読み進めていく。
うん、やっぱり実物の紙の本はいいなぁ。まぁ僕の書庫の本も一応実物だけど。
そんな事を考えながら本を読み進めていると、不意に正面から声が聞こえる。
「…ぅん?あれ…?葵君…じゃ、ない?」
ぼんやりとした様子とあまり回っていない口で流奈ちゃんが僕の方を見ていた。
「大丈夫、まだ眠っていていいよ」
「あぅ…」
開きかけていた瞼が落ちていき、また静かに寝息を立て始める流奈ちゃん。まぁこれで変な夢ぐらいに思ってくれるだろ。
そうして残りの1時間と少しの時間を、読書と誤魔化しに費やして過ごしていった。
健汰の友人A「双葉…だよな?元々女みたいな顔だとは思ってたけど、あんなに可愛かったっけ…?俺にそんな趣味はないはず…!」
寝ぼけ気味の流奈ちゃん「葵くん…?違うのかな…?よくわかんないけど、すっごく綺麗だったなぁ…」
はい、傍観してねぇじゃんとかいうタイトル詐欺的な指摘は一切受け付けておりません。しょうがないね、W主人公だからね。




