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40モフ目

お読みいただきありがとうございます

 校舎から、渡り廊下を抜けて体育館にやってきた。

「あからさまだよね」

「これ以上ないよな」

 体育館の半分から向こう側に、面積のいっぱいまで使って魔法陣が引かれている。

 淡雪のMPはすでに回復済みだ。MPポーション頑固おやじのこだわりの拳味で。

「出てくるよ」

 一歩を踏み出したところで魔法陣が光り、空中に巨大な球体が出現した。


おめめちゃん 

イベントボス

千の瞳が球体状に集まった。三百六十度すべてを同時に把握する。


「きもっ!」

「SAN値に効くなぁ」

 フライングアイやジャイアントアイも追加される。

「淡雪、雑魚は任せた」

「ニャコも」

「きゅい」

「にゃ」

 淡雪とニャコが散ったところで、正面に見える、一際大きな目玉が裂け、炎が噴き出してきた。

「うわっち!」

「ブレス!?」

 僕は身を沈めてかわし、クラウチングスタートの要領で接近、下についている目にアイアンクローをかます。

 こめかみじゃないけど、気にしないでおこう。

 ぶちゅんと音を立ててつぶれたそれは、

「寒天の塊とかブドウの巨峰とかをつぶした感じ? 卵な感触じゃないし」

「リアルに例えるの禁止――!」

 痛覚がきちんとあるのか、表現しづらい高周波音と低周波音が入り混じった悲鳴を上げるおめめちゃん。

 けど、目を一つ失った割に、HPは大して減ってない。

 隣にある昆虫の複眼っぽい目も同じようにつぶす。

 ぶじゅっと鈍い音を立ててつぶれた目は、いやな腐臭を立ち昇らせる。

「卵をつぶした感触」

「実況中継いらないから!」

 目二つ分の隙間が空いたところに、僕は腕をねじ込む。

「練ったひき肉に腕を突っ込むとこんな感じ?」

「やーめーれー!!」

 そのままおめめちゃんのなかで迦具土炎槍を発動。

「げふっ」

 僕もダメージを受けたが、おめめちゃんもぼむっと三つほど目を吐き出した。

 飛び出た目がそのままフライングアイとして飛び始める。

「ザコが追加された!」

「でも、本体の目は復活してない! 攻撃続行だ」

 おめめちゃんの傷口からは紫色の液体が滴っている。

「何か来るよ!」

 おめめちゃんが半回転した。

 真後ろにあった目がこっちを向くと、僕は動けなくなった。

 なんだこれ。

 あれ? 声が 遅れて 聞こえて……

 そもそも声が出ていない!?

 口がパクパクどころかぴくぴくするだけ!?

 うわ、麻痺の状態異常とか。どこで食らった? さっきの目か!?

 って、ちょっと待て!

 なんでおめめちゃんが距離をとる。

 そんな、突っ込んでくるとか……。

 うわ、やめろ!

 怖い。

 怖い。

 死ぬ!

 美穂!




 気が付くと、モフナーと淡雪が僕の顔を覗き込んでいた。膝枕?

 あれ? オラトリオさんもいる?

 ってか、ここは。

「いつもの待機スペース?」

「よかった。気が付いた」

「何がどうなった?」

「覚えてる? 目玉のモンスターに突っ込まれた後、全く動かなくなっちゃったんだよ?」

「戦闘時に毛皮丸さんの脳波異常を検知しました。我々運営が到着する前に戦闘は終わっていたので、肝試しのクリア処理をしてこちらに運びました」

 ああ、そうか。

「トラウマ……っていうよりPTSDになるのか?」

 あの恐怖感は覚えてる。

「でも、いままで突進されたことってあるよね?」

「たぶんだけど、麻痺で体が動かなかったことが原因じゃないかな。事故のとき、体が動かなかったから」

「そっか」

 ん?

 モフナーが何か気合を入れてるような、覚悟を決めてるような。

 モフナーの顔が近づいてきて……。

んちゅ

 …。

 ……。

 ………。

「毛皮丸は、悟のことは事故が気にならないように私が幸せにするんだから!」

「……あー、はい」

 うわー、顔真っ赤だ。

「おーあっついあっつい。ってか、独り身にはこたえるわー。砂糖はくわー。あー。経過観察のために毛皮丸さんは、二日ほどここに留め置かれます。って聞こえてませんねー。いちゃつきやがってこんちくしょう!」


 ようやくオラトリオさんのことを思い出した時には、彼女は血涙を流していた。

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