閑話:路地裏のチーズケーキ攻防
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田吾作とヒサゴはあるケーキ屋の前に立っていた。
かれこれ三十分。二人の前には幾人ものプレイヤーが並んでいる。
最近オープンしたこのケーキ屋はチーズケーキ専門をうたっており、路地裏にあるにもかかわらずすでに女性プレイヤーの間でかなり有名になっていた。
一人、また一人と列がさばけていく。
そうこうしていくうちに田吾作の順番が来た。
「バタースフレとベイクドのライチ一つずつ」
「ありがとうございます」
バタースフレが抜かれた後に、完売と書かれた板が置かれる。
「うちのバタースフレがー」
田吾作は思う。
これは、戦争だ。甘味をめぐる争いにはたとえ身内であっても妥協してはならない、と。
「田吾作ちゃん。半分とは言わない。せめて四分の一わけて」
「だが断る」
「ならば実力で奪うのみ!」
ヒサゴはベルトからナイフを引き抜き、田吾作に向かい投げつける。
が、田吾作はわき道に入り、ナイフは無残にも民家の窓を割る。
ヒサゴは慌てて追いかける。が、田吾作は逃げずに待ち構えていた。手のひらをヒサゴに向けて。
「アクアボール!」
『水』の魔法の一つ。街中であるために、それはヒサゴにダメージを与えなかったものの、ノックバックによる一時の足止め効果を与え、なおかつその後ろの壁際に積まれていた樽を粉砕する。こうなってはもう『たーる』などといって数えてもらえない。
「ヒサゴっつぁ~ん、あーばよ~」
「まとぅえーい!」
二人が走り去った後に、人影が現れる。
ガキーンガキーンガキーン
それは始まりの街。
ガキーンガキーンガキーン
そこは袋小路。路地裏に作られたいこいの広場。
ガキーンガキーンガキーン
それは争う二人の少女。打ち合う二つの武器。
「いくら田吾作ちゃんといえどうちのチーズケーキを奪ったのは許し難し!」
「早い者勝ちだってわかっているでしょうにっ!」
従魔が参加しないプレイヤーオンリーのPvP。
それはスコップを片手に壁を駆け上がる農婦と
「それでも許すまじ!」
曲刀で民家の壁を切り刻む、狼と馬があきれた目で見つめる戦い。
プレイヤー同士が技をぶつけあうデュエルシステム。プレイヤーオンリー、従魔オンリー、スキル制限など、数々の設定を用いることができる。
「天地返し!」
「烈爪!」
地面に叩き付けたそれぞれの武器から、指向性の衝撃波がとびだし、中間地点でぶつかり合う。
「高機動型ファーマーとかどこを目指してるのよあんた!」
「ヒサゴちゃんこそ街中で砂漠迷彩とかあほじゃないの!?」
騒ぎを聞きつけ住民が集まってくる。
「このっ、真一文字!」
両脇の壁をえぐりながら横一線のかまいたちがとぶ。
「守って、サンドウォール!」
石畳が砕けその下の土も乾いて砂となり、真一文字から田吾作を守る。
「おいっ、誰か警備呼んで来い!」
「行ってくる!」
田吾作が距離をつめる。
「この無駄肉装甲をまだ増殖させるつもり!?」
ヒサゴの胸を握りつぶすように掴む。
「いったい!くそぉう、田吾作の胸部装甲はマイナスだからつかめない!」
「誰がえぐれてるっていうのよ!」
「あんたよ!」
その場で膝をつく田吾作。
「す、少しは、少しはあるのよおおおおお!」
慟哭するも現実は変わらない。
「そこまでだ!」
がしゃがしゃと白いプレートアーマーを鳴らして走ってきた騎士数名。
「警備隊およびGM権限において、破壊行為の現行犯で捕縛する!」
「な……」
「GM!」
連行され、牢屋に入れられる二人。
「さんざん街を壊してくれたな。二人には一週間の懲役と、街の補修費の全額弁済が科せられる。なお、懲役はゲーム内時間とし、ログアウト中は加算が停止される」
「そんなぁ」
「しばらくそこでおとなしくしているといい」
GMナイトが去っていくのを見届け、へたり込む二人。
≪称号:破壊工作員 を獲得しました。建造物破壊に補正がかかります。≫
「そんなのいらないーーー」
※運営からのお知らせ。デュエルシステムは近日実装予定です。それまではお互いの合意のもとでPvPを行うにしても、建物等破壊されます。当然破壊行為で犯罪となるのでお気を付けください。




