15モフ目
おむすび回
知らない天井だ、おはようございます。
そういえば第二の街に来たんだったか。
朝食を食べたら早速散策に出ますか。
「行くよ、淡雪」
「きゅい!」
ベルトリスの人通りはかなり少ない。
街の規模自体もパツダより小さいし、プレイヤーもまだまだ移ってきていないようだ。
内陸部だからワタツミの出番はないかなぁ。
とりあえず武器屋、防具屋、道具屋と回ってみるけどめぼしいものがない。
プレイヤーの露店もほとんどないな。
どうしようか。この街、図書館ないんだよな。
久しぶりに冒険者ギルドで依頼でも探してみるか。
「ギルド、ここか?」
貯木場と製材所にしか見えん。
「おう。どうした? そんなとこで突っ立って」
「あ、すいません。ここ、冒険者ギルドで間違いないですか?」
「なんだ兄ちゃん、冒険者か。冒険者ギルドはここで間違いないぜ。ただ、林業ギルドもかねてるがな」
「なるほど」
「入口はあっちな」
通りすがりのたぶんNPCであろうオッチャンに礼を言い、言われた建物に入る。
「いらっしゃいませー」
受付嬢が笑顔で迎えてくれる。
依頼書が張ってあるボードは下地が見えないほど。ここはさぞかし仕事にあふれているんだろう。
受付嬢と僕以外誰もいないけどな!
ものの見事に閑古鳥が鳴いている。
「ぴょー」
窓枠に鳥がとまっている。
閑古鳥 オス
何も語ってはいけない。ささ身はおいしいかもしれない。
……ナニモカタッテハイケナイ。
とりあえず、すぐできるのからやっていこうか。
「まいど! お届けものです!」
「おう、すまねぇな」
ギルドで荷車を借り出し、シンシナティに繋いで配送業者に転身。
荷車に詰めるだけの荷物の依頼をまとめて受け、地図とにらめっこして効率のいいルートを割り出す。
そこから午前中いっぱいかけて荷車一台分を配達し終えた。
シンシナティさんマジ便利。
「さて、午後はどうするか」
依頼ボードを見ながら悩んでみる。
下地はまだ見えない。
「あの、毛皮丸さん。少しよろしいですか?」
「はい?」
受付嬢がおいでおいでしている。
あのうさ耳いいなぁ。ごくり。
「ひっ」
「どうしました?」
「毛皮丸さんを見ていたら何か寒気が」
おっと。迸る熱いパトスを察知されたか。
淡雪さん。僕の足を踏んでねじりこむのはやめようね。
「で、なんでした?」
「あっと、そうでした。もしお時間があるようでしたら、こちらの依頼を受けていただけないでしょうか」
「なにこれ?」
見せられたのはやけにぼろぼr……こほん。年季が入った依頼書。
「読めないんだけど」
「えっとですね。木材の伐採依頼なんですが」
「ですが?」
「対象の木材がモンスターでして」
「なるほど。場所とモンスターの詳細は?」
「この街から東に一日ほどの森になります。対象はウォーキングツリーで、ドロップの原木。数は最低10本からあればあるだけ」
ふむ。植物系の敵が相手なら鉈の攻撃でプラス補正が入るか。
「その依頼受けます」
「ありがとうございます」
「ところでこの依頼最近の物なんですよね? なんで依頼書がそんな状態なんですか?」
すいっと顔をそむける受付嬢。
「……」
あれ?
「聞きたいですか?」
「えっと…はい」
「本当に聞きたいですか?」
なにかとんでもない事情でもあるのか?
ここまで来たら聞くしかあるまい。
「是非に」
「そうですか」
なにやら決意した表情で視線を合わせてくる受付嬢。
いいだろう。覚悟を決めたぞ。どんな思い内容だろうと聞かせるがいい!
「…けました」
「はい?」
「だから、こけたんです転んだんです! この依頼書持ったまま! 泥に足をとられて! それはもう盛大に!」
「……」
「……」
「あー、はい」
「なんですかそのかわいそうなものを見るような生暖かい目は! 普段はちゃんとしてるんですよ!普段は!」
「それでは依頼に行ってきます」
うさ耳受付嬢は残念美人でした。
さて、荷車は継続して借り出してるから、出発するだけならいつでもいけるんだよな。
問題は食料か。
携帯食料を買いあさらないといけないな。道具屋でそろえるか。
買いも買ったり二週間分。
相変わらず日本食に飢えてはいるけど、とりあえず食事に困ることはない。はず。
「米喰いたい」
「そんなあなたに朗報です!」
「うわっ」
あー驚いた。独り言でつぶやいただけのはずなのに背後から返事があってまじびびった。
「えーっと、オラトリオさん?」
「はいはい。運営チームのつかいっぱしり、オラトリオですよー。まずはこちらを進呈!」
有無を言わさずトレードウィンドウからアイテムを押し付けられる。
「これは、おにぎりと味噌汁! それに馬刺し?」
「安心と安定の運営の馬刺しでーっす。
「こ、これは食べちゃっても?」
「もちろん。毛皮丸さん用メンタルケアの一環です。これを原動力に、毛皮丸さんにはいわゆる攻略組とは別ルートを進んでほしいです」
「それは、運営としてアリなのか?」
「まあ、アリです。っていうか、ぶっちゃけちゃいますと、食料生産系のスキルを取ってるプレイヤーがほとんどいないんですよ。プレイスタイルの多様性を求める観点からあまりよろしくない状況でして」
「つまり僕にそのルートを進ませてそっちに進む要素を早めに開拓したいと」
「はい。まさかここまでプレイヤーの皆さんが図書館を利用しないとは思いませんでした。旅行記や特産品リストみたいなのも置いてあるんですけどねぇ」
「で、僕がそっちに行くメリットは?」
「米、みそ、醤油があります」
「なん、だと」
「毛皮丸さんの状況が状況なんでぶっちゃけるってのもあるんですけどね。あと、その土地で生産している分だとプレイヤー全体には回らないんで、それ用のスキルを覚える必要も出てきます」
「……ちとあくどくない?」
「やだなー、そんなことはありませんよ」
「ちなみにどっちに進めば?」
「この街から南西になりますね。何日かかかるんでそこのところはお願いします」
「大丈夫だ。このおにぎりで何日かは戦える」
「じゃ、そういうことでよろしくお願いします」
「あ、待った」
「ほえ?」
消えようとするオラトリオを慌てて呼び止める。
「攻略組はどっちの方に進もうとしてる? あと、このモフりモフられの第二陣の予定とか聞ける?」
「ええっと……」
間があるな。
「答えれなさそう?」
「いえ、許可出ました。まず攻略組ですが、南に進もうとしています。第二陣はこちらで18日後ですね」
「なるほど。ありがとう」
「いえいえ。また何かありましたらご連絡ください」
今度こそオラトリオは消えていった。
「さて」
ぴしゃっ
自分の頬を両手でたたく音に三匹の視線が集まる。
「やる気の出る料理と情報をもらったから、まずは目先の依頼を頑張ってこなしますか」
ドリーの目がうるみつつあったのは気にしてはいけない。
はたいてあげないからね?
「待てこら! 僕のおにぎり!」
街を出て森へと向かう途中。そろそろ野営の用意をしようかと、先にもらったおにぎりで夕食をとっていたときのこと。
最後のおにぎりを食べようと手に取った瞬間、急に手が油まみれになったかのような感触がしておにぎりを取り落した。
おにぎりはそのまま転がりだし、現在シンシナティに乗って走っている状態でどうにかこうにか見失わずにすんでいる。
見た目汚れてないから拾えばまだいけるはず!
邪魔をしてくる雑魚は僕の槍が貫き、シンシナティが蹴り飛ばし、ドリーが踏み潰す。
馬刺し含め、おいしかっただけに許すまじ。
そうこうしているうちに地面にぽっかり口を開けた穴に転がり落ちていく。
洞窟? 望むところだ。
「突っ込めシンシナティ!」
どこのどいつか知らんがコノウラミハラサデオクベキカ。
やがて天井が広くなり、広間に入った。
目を凝らせば何か小さい二足歩行の物が、僕のおにぎりを中心に円を描いて踊っている。
なんだこれ。鳥獣戯画的なネズミ?
そうか。貴様らが僕のおにぎりを奪った犯人か。
シンシナティから飛び降り、気炎を吐きながら槍を突き付ける。
「きーきー」
「ああん? 何を言っているかわからんなぁ?」
「きーきー」
「人のしばらくぶりの日本食を奪いやがって。コノウラミハラサデオクベキカ」
「きーきー」
まだ騒ぐようなので、前に出てきたネズミをかすめるように槍を突き立ててやる。
衝撃でひっくり返ったネズミの腰のあたりの土が湿っぽくなっているようだ。
他のネズミが飛び上がり、そのままジャンピング土下座を決める。
「ネズミ。から揚げにしたら食えるか?」
汗を吹き出し、震え始めるネズミども。
こっちの言うことは理解できているのか?
「きーきー」
ネズミが二匹、金属製の輪っかを引きずってきた。
土の腕輪
土属性の被ダメージを若干減少する。修理不可。
これで許せとでもいうのか。
「仕方がない。今回はこれで勘弁してやる」
「きーきー」
しかたがないので腕輪を受け取り外に出た。
背後には洞窟の痕跡はなかった。
くそう。今日はふて寝してやる。




