10モフ目
お読みいただきありがとうございます
朝だ。朝だよ。希望の浅田。誰だよ。
朝食を済ませ、テントを片づける。携帯食料では味気ない。我慢するしかないけど、【料理】を覚えるべきか。でも僕の料理は壊滅的なんだよな。
さて。出発だ。ワタツミを送り返して淡雪を召喚する。
「行くぞ!野郎どぐふっ」
淡雪の頭突きとトトの回し蹴りをもらった。
はい、すいません。野郎じゃありませんでした。かわいい女の子でした。
気を取り直して出発する。左右が崖のために正面の森に踏み入れる。
「だあああああ」
走れ走れ必至になって走れ!セリヌンティウスのために! いや、止まると僕が殺られるんだけど!
ラプター オス
小型肉食恐竜。各上の相手でも集団で襲い掛かり倒してしまう。
追いかけられてるのは三匹だけど、そんなの何の慰めにもなっていない!
「ぷう」
ときどきトトが回し蹴りをかましてくれるが、ほとんど効いていない。
肉食恐竜に回し蹴りをかますウサギの図。うーん、シュールだ。
なんて言ってる場合じゃない!符を引き抜いて攻撃を入れる。
「迦具土炎槍!」
手持ちただ一つの遠距離攻撃を食らいやがれ。
「グガアアア」
二匹は回避したけれど、一匹がよけきれずに直撃。この隙を逃がすか!
ひるんでいる間に首に鉈を叩き付ける。返り血を浴びないように気をつけ、首を落としきる。これでまず一匹。
「グガア!」
左右からとびかかってきた二匹をしゃがんでやり過ごす。ぐっ。くそっ。足の爪でひっかけられた。
着地した一匹にタイミングを合わせて淡雪が飛び乗る。そのまま首根っこに噛みついて、ラプターは全く気にしていない。HPも減ってないようだ。淡雪さんェ。
うわっ。淡雪を気にしていたら根っこに足をとられ転んでしまった。肉食恐竜がそんな隙を逃がすわけもなく、僕を踏みつけ喰おうとしてくる。
「手刀!」
「ギャン」
不安定な体勢からでも威力は十分出たようだ。弾き飛ばされたラプターは木に後頭部を打ち付け動かなくなる。
あと一匹。
「きゅいいいい」
悲痛そうな淡雪の叫び声。最後のラプターに咥えられていた。
「淡雪!」
下手に攻撃を加えると、衝撃で淡雪がマミりそう。もとい、胴と首が泣き別れになりそう。消滅するわけじゃないけど、ペナルティがあるし、そんな状況にさせたくない。
頭がだめなら、狙うべきは尻尾。
トトに牽制してもらいながら、鉈を両手に構え尻尾の付け根に一撃。
「グガアア!」
ラプターが吠えたおかげで淡雪は脱出。鉈は尻尾の半ばまで食い込んだけど、ラプターが暴れるために手放す。これは近寄れないな。
「迦具土炎槍!」
再びの呪文。ラプターは煙を上げて倒れる。動く様子はない。
「終わったー」
座り込みたくなる衝動をこらえ、ラプターの死体に解体用ナイフを突き立てる。
小型恐竜のかぎづめ
小型肉食恐竜のかぎづめ。獲物を引き裂くために鋭い。
三匹とも爪しか残さなかった。苦労した割に成果は微妙か。
≪おめでとうございます。プレイヤーがレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
おっとレベルアップか。
プレイヤー:毛皮丸 Lv:6 up
HP:81 up
MP:49 up
STR:14 up
VIT:11
DEX:16
AGI:14
INT:13 up
MIN:11
エチゼンクラゲが大量だったし、まあ妥当なところか。
≪おめでとうございます。従魔:淡雪 がレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
淡雪もきたか。久々な気がする。
ラヌーゴドラゴン:淡雪 Lv:3 up
HP:40 up
MP:15 up
STR: 9
VIT:10 up
DEX: 4 up
AGI: 7
INT: 7
MIN: 6
さすがにまだまだステータスは低いな。
≪おめでとうございます。従魔:トト がレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
トトも来たか。これが初レベルアップだな。
ファーラビット:トト Lv:2 up
HP:21 up
MP:10 up
STR: 9 up
VIT: 5
DEX: 5
AGI: 9
INT: 4
MIN: 4
≪従魔:トト は 気配察知 を習得しました≫
お。モンスターもスキルを習得するのか。
≪おめでとうございます。従魔:トト がレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
うおい。連続レベルアップかよ。上がって悪いことはない、っていうかむしろうれしいけど、忙しいな。
ファーラビット:トト Lv:3 up
HP:28 up
MP:12 up
STR:10 up
VIT: 6 up
DEX: 5
AGI: 9
INT: 4
MIN: 4
淡雪とトトはとりあえず全ステータス10を目標にしよう。
淡雪さん。ポーションをビールみたいに飲むのやめない?
その後に出てきたモンスターはラプターほど強いやつではなかった。
「だから慢心してたかねー」
ヴェロキュラプトル オス
小型肉食恐竜。卵泥棒として誤解されていた。某公園でもおなじみ。
運営に突っ込んでる余裕はない。どう考えても格上です。ってか、ボスだよね。森を抜けるにはたおせって。
「グウゥゥゥ」
向こうはやる気満々。淡雪とトトが怯えていないのが救いか。
「うし。やるか」
「きゅい」
「ぷう」
先手必勝!
「手刀!」
ラプトルの鼻先に叩き込み、気が付いたらパツダの噴水の前で立ち尽くしていた。
「……あれ?」
何が起こった?淡雪とトトがいない。
召喚……できない。
≪デスペナルティーにより召喚に制限がかかっています。≫
デスペナルティー。そうか。一撃でやられて死に戻ったか。
一撃ってことは相手はかなりの格上ってことだ。まさか死ぬこと前提のモンスターってことはあるまい。
所持品。問題なし。所持金。減少なし。ステータス。問題なし。
とするとプレイヤーのデスペナルティーって何だ?
≪デスペナルティーについて:死亡時にプレイヤーには経験値取得90%ダウン。被ダメージ率100%がゲーム内時間24時間課せられます。≫
ヘルプに載っていました。戦闘職には結構きびしいな。従魔の再召喚も24時間か。
くやしいからあの島は攻略したい。でも、この街で出回っている装備、素材は現状ほぼ頭打ち。そのためだけに次の街に行くのもなんか負けた気がするから却下。
沖に出ずに海岸沿いを進むか。
そうと決まれば、図書館に行って情報を仕入れよう。
今僕はワタツミの背にまたがって、夜の海を海岸沿いを南下している。
図書館で思いのほか夢中になっていたのもあるけれど、新しいスキルの有効化のために予定より時間がかかってしまった。
【祝福】と【シールド】。
【祝福】はゲーム用語でバフをかける魔法。【付加】がアイテム。【祝福】がプレイヤーや従魔というふうに済み分けられている。
【シールド】はまあ、防御用の魔法だな。
図書館で入門書を写して広場で練習したんだけど、有効化された時点で入門書が魔法書に変化した。これ、魔法スキル自力習得には【写本】必須ってことだよな? まあ、僕はいいけど。
【シールド】は物理防御用のソリッドシールドを取得した。が。
【祝福】おめーはだめだ。攻撃力アップとか防御力アップとか、そういった戦闘に直接かかわる術を取るつもりだった。だがこいつが僕を狂わせた。
モフモフアップ
嗚呼、こんなにもふわふわもこもこモフモフな淡雪さんが楽しめるだなんて。
嗚呼、なんという抱き心地をなされているのですか、トトさん。
嗚呼、僕はこんなにも魅了されている。
状態異常:魅了
嗚呼、再召喚できるのが楽しみでしょうがないよ。
さて、想像の中の淡雪とトトに魅了されていてもしょうがない。
さーて、夜に未見のいい素材がとれるモンスターがいないかなー。
「きゅ~」
おっと敵か。
崖の下の岩場にうごめく、カメ、か?
苦悶亀 オス
甲羅が人の苦しむ顔のように見える亀。
人面亀!?
「防具の素材によさそうだ。やるぞワタツミ」
「きゅ~」
ワタツミに跳ね上げてもらって大ジャンプ。鉈を両手で構え、落ちる勢いをそのままに亀の首を落とす。
「まずは一匹!」
他の亀の注意が一気にこっちを向いたのが確認できる。
タコ殴りにされる前に槍に持ち替え、手近な亀の頭を貫く。
どうやらこいつらは首をひっこめることができない種類らしい。
「迦具土炎槍!」
連発して数を減らす。
ひの、ふの、おかしい。数が少ない。と思ったら、親方ぁ、空から女の子がぁ!
まあ、メスの苦悶亀ですけどね。降ってきたのは。でも、なして降ってくる?
答えはワタツミにあった。海に逃げた一部の亀を、頭をかんでからこっちに放り投げてた。うん。助かるよワタツミ。今はダメージ喰らうわけにはいかないからね。
苦悶亀の甲羅
人が苦しむ顔のように見える甲羅。丈夫で打撃、斬撃、衝撃に強い。
全部の亀から甲羅が剥げた。鎧を作るにはちょうどいいか。
当然、全部アイテムボックスに格納する。
≪おめでとうございます。従魔:ワタツミ がレベルアップしました。任意のステータスに2ポイント割り振ってください。≫
おっと。今日はレベルアップ祭りだな。
イルカ:ワタツミ Lv:3 up
HP:62 up
MP:31 up
STR:10
VIT:12
DEX: 5
AGI:22 up
INT:21
MIN:15
≪従魔:ワタツミ は 水 を習得しました≫
水?プレイヤーの魔法スキルの【水】みたいなものか?
「ワタツミ、水で何ができる?」
「きゅ~」
ワタツミの開いた口に水球ができ、それが発射された。
「うん。使えそうだ」
攻撃手段が増えたのはいいことだ。
さて、そろそろ野営場所を探しますか。
野営に向いた場所がなかなか見つからず、そろそろ日付をまたごうとしていた。
「きゅ~」
「お、なにかあったか?」
速度を上げたワタツミの先。崖に穴が開いていた。ここも浸食でできた洞窟か。
さすがに砂浜はなく、岩肌しかない。けれども海面より高くなっていて満潮の心配はない、か。
「テントは張れないけど、毛布にくるまれば寝れるか」
「きゅ~」
「そうだな。今夜はここにしよう」
せっかくワタツミが見つけてくれたんだ。
野営の用意を手早く整える。
さて、いろいろあったことだし寝るとしますか。
おやすみ、ワタツミ。




