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98話

 叶耶の言動に違和感を覚えたあの日から数日が経った。

 今日もあの日と同じで午後から雨が降っていた。


 俺は、正面玄関で生徒会の仕事をしていた叶耶を待っていた。

 今日は叶耶と一緒に帰る約束をしている。

 ちらりと校舎の時計を確認した。

 時刻は十八時。そろそろ叶耶がここに来る時間だ。

 あの日からの叶耶はまたいつも通りに戻っていた。もちろん、翌日は一緒にお弁当を食べることもできた。

 もしかしたら、あの日に覚えた違和感は自分の思い過ごしなのかもしれない。本当に彼女はただあそこで眠ってしまったのかもしれない。

 しかし、そう思うことが出来れば楽なのに、どうしてもあの違和感が頭から離れなかった。


 そのとき、階段から叶耶が下りてくるのが視界の端に映った。

 俺は居場所を伝えるように叶耶に向かって手を振る。

 叶耶は俺を見つけると嬉しそうに手を振り返してくれた。

「すみません、お待たせしました」

 靴に履き替えて、俺の隣に並ぶ。

「いや、全然待ってないよ。それよりもお仕事お疲れ様」

「ふふ、ありがとうございます。昂輝くんに早く会いたかったのでいつもより頑張ってしまいました」

 彼女の健気な姿勢に思わず頬が緩んでしまう。


「それじゃあ、帰ろうか」

「はい、……って、雨が降っていますね」

「うん、だから傘を――――」

 俺がそう口にしながら傘を差そうとしたとき、不意に制服の裾が引っ張られた。

「どうかした?」

 叶耶は顔を俯けてもじもじしていた。

「あ、あの……、お恥ずかしながら今日は傘を忘れてしまいまして……」


「……」

「……」


「……叶耶、それ噓だよね?」

 ジト目で叶耶を見つめた。

「……えっ?」

 俺の発言に叶耶がキョトンとする。

「今日の朝、教室で話していた時、叶耶は今日傘を持ってきたって言ってたから。午後からの降水確率が七十%もあるって」

「……あっ」

 どうやら思い出してくれたらしい。

 その瞬間、叶耶はさっきにましてさらに顔を赤くした。

「す、すみません……。そ、その、どうしても昂輝くんの傘に入りたくて……」

 そう言いながら叶耶が前方を指さしたので、俺も彼女がさしている方向に視線を移す。

 視線の先では、一組のカップルが相合傘をして帰っているのが見えた。

「あー、なるほど。あれがしたかったんだ」

「うぅ……」

 俺は傘を広げると、そのまま叶耶の頭上を包むように構えた。

「……えっ?」

「一緒に入ろ? 叶耶の傘を使わないといけないわけでもないしね」

 直後、叶耶の瞳がきらきらと輝きだす。

 彼女はさっと俺に身を寄せてきた。

「昂輝くんのこういうところ、私、大好きです」

 俺も叶耶のこうやって素直に好意を示してくれるところが好きだった。

「それじゃあ帰ろうか」

「はい♪」


 こうして、俺たちは一つの傘に仲良く入りながら帰ることにした。


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