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93話

 八章 第二


 雑踏の中を俺と叶耶は手をつないで歩いていた。

 今日、俺たちが訪れたのは郊外の大型ショッピングモール。

 フロア面積四国最大級、三階建ての巨大な建物に二百近くのテナントが出店している。平日であっても来場者の多いこの場所だが、今日は休日とあってか、建物内はさらに多くの人でごった返していた。


「叶耶は今日、何を買うつもりなの?」


 俺は、上機嫌で隣を歩く叶耶に問いかける。


「えーっと、今日は新しい服を買おうと考えています」

「新しい服?」

「はい。クリスマス付近からまた一気に寒くなる予報になっていましたので、もう少し温かい服を買おうかと。それに、せっかくなら昂輝くんの意見も参考にしてみたいですし」

「えっ、俺の意見を参考にするの⁈」


 正直言って自分はファッションのセンスがあまりないと思っている。普段、服を買うときだって、地味目で落ち着きのある服しか選ばない。そうしたほうがオシャレと言われることもないが、ダサいとも言われないからだ。

 そんな感じで男子のファッションについても詳しく知らないのに、ましてや女子のファッションなんて知る由もない。

 そんな俺が叶耶の服についてとやかく言っていいものか心配になった。


「大丈夫ですよ。昂輝くんはどういう系統の服が好きなのか聞くだけですから」

「いや、でも……」


 そうは言っても叶耶みたいな美少女に変な服を着せることはできない。

 それに、叶耶自身が好きな服を着て笑っていてくれる方がこっちとしては嬉しい。


「ダメです。女の子は好きな男の子の好みに近づけようと頑張りたいんですから」


 叶耶は口元に人差し指を立ててはにかむ。


「うっ……」


 彼女のいじらしく健気な姿勢に言葉がつまる。

 もうこうなっては、彼女のお願いを断れそうになかった。

 自信は全くないが、彼女に恥をかかせないよう努めるしかない。


「うん、わかった。でも叶耶が気に入らないと思ったら俺の意見は無視して。俺は叶耶が自分の好きな服を着て笑顔でいる叶耶が好きだから」

「はい。ですから昂輝くんもどんどん意見を言ってくださいね」

「善処します……」

「ふふ……、あっ、もうお店についたようですね」


 叶耶の声で俺は足を止めた。

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