90話
八章
八章 第一
叶耶がふと目を覚ますと、そこは深い闇に包まれたような真っ暗な場所だった。
そこには自分以外に誰もいない。
何も聞こえない。
自分が立っているのか、座っているのか、横になっているのか、それも分からない。
暑さも感じず、寒さも感じない。
自分の体が、自分の思考がただその場所に存在するだけ。
「こ、ここは……?」
しかし、そんな言葉とは裏腹に、叶耶は何となくこの場所がどこなのか検討がついた。
もちろんここに来るのは初めてだ。でも、この場所のことについては、祖母から聞いたことがあった。
光が一切入ってこず、音も風もない、とても不思議な場所。
「――っっ⁈」
そのとき、背中に悪寒が走った。
何もないこの空間をとても怖く感じた。
まるで、自分を見失うような感覚に襲われた。
ここは危険な場所だ。
本能が必死に警告してくる。
しかし、そこで彼女の意識はぷつりと途絶えた。
***
再び目を覚ますと、今度は自分の部屋だった。体がベッドに沈んでいるところから、今の自分は横になった状態であるらしい。
叶耶はゆっくりと上半身を起こす。
体が重い。
気分は最悪だった。
さっきのは夢?
いや、あれは夢なんかじゃない。
ついさきほどまで、自分は本当にあの場所にいた。あれは全て現実での出来事だった。
そのことを一度理解してしまうと、先ほど感じた恐怖を上回るほどの絶望が感じられた。
目元から大粒の涙が流れ、制服のスカート上で黒く広がる。
「もう時間切れですか……」
その声は蚊が消え入るようにか細いものだった。




