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85話

 お祭り独特の喧騒にもまれながら道を進んでいると、前方に、砂糖でできた綿の渦巻く円柱状の機械が見えた。

 その隣では、小学校低学年ぐらいの男の子が屋台の店主から大きな綿菓子を受け取っている。

「あれって、もしかして……」

 櫻木さんもそのお店に気が付いたようだ。

「うん、櫻木さんが行きたいって言っていた綿菓子の屋台だね。さっそく行ってみようか」

 道行く人にぶつからないようにしながら、お目当ての屋台のもとまで向かう。

 屋台に近づいたことで分かったことだが、この屋台では綿の渦巻いている機械が二つもあった。

 手前の機械では、おなじみの白色の綿が渦巻き、奥の機械では、ピンク色の綿が渦巻いている。

「桂くん、桂くん、見てください。あっちでは、色付きの綿菓子が作られていますよ」

 綿の渦巻く機械に張り付き、興奮じみた声をあげる櫻木さん。

 俺も彼女の隣まで移動する。

「お、あんちゃんの彼女、えらいべっぴんさんだな」

 二人して綿が渦巻く様子を見ていると、屋台のおいちゃんが声をかけてきた。

「あっ、えっと……」

 すぐに否定をしようと思ったが、つい言葉に詰まってしまう。

 櫻木さんは綿菓子に夢中になりすぎて、おいちゃんの声が聞こえていないようだった。

 すると、おいちゃんは、俺が言いよどんだ原因を照れによるものだと思ったのか、

「ハハ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいって。むしろ自慢げにしておけ」

 そう言って、男前な笑みを浮かべる。

 そんなことを言われたら、いまさら「実は彼女ではないんです」とか言えない。

 俺は、他に言うことが思いつかず、苦笑いをするしかなかった。


「で、あんちゃんはどっちの綿菓子が欲しいんだい?」

 おいちゃんが両腕を組みながら尋ねてくる。

 俺は綿菓子に見惚れっぱなしになっている櫻木さんの袖を、ちょんちょんっと引っ張った。

「櫻木さん、綿菓子どっちがいい?」

 櫻木さんは「あ、すみませんっ」と綿菓子に夢中だったことに謝罪すると、

「では、こっちがいいです」

 そう言いながら、色のついていない綿菓子のほうを指さす。

「うん、わかった。……すみません、こっちの白い綿菓子を一つください」

「おうよ、ちょっと待ってな」

 注文を受けると、おいちゃんは四十センチ弱の細長い棒を箱から取り出した。そして、綿が渦巻く機械の中でその棒を動かし、綿を絡みとっていく。


 しばらくして、巨大サイズの綿菓子が完成した。

「はいよ、待たせたな」

 おいちゃんが出来上がったばかりの綿菓子を差し出してくる。

 その綿菓子を櫻木さんは、声を弾ませながら「ありがとうございます」と言って受け取った。

 俺もおいちゃんにお礼の意味を込めて軽く頭を下げる。


「あんちゃんはその可愛い彼女さんを大切にしろよ」

 おいちゃんは俺たちに向けてサムズアップをしてきた。


「へ⁈」


 おいちゃんの言葉に櫻木さんが困惑の声をあげる。その顔はみるみるうちに赤くなっていく。

 やばい、このままだと櫻木さんの思考がフリーズしてしまいかねない。


「あ、ありがとうございましたっ」


 彼女の思考が停止する前に、俺はとっさに彼女の手をとり、屋台を後にする。

 そのとき、背後からはおいちゃんの「がんばれよ~」という声が聞こえてきた。


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