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81話

 七章 第二


 夢を見た。

 二年近く前の自分がそこにいた。

 自分は頭を撫でられていた。

 その優しい手は大好きなおばあちゃんのもの。

 小さいときから自分はおばあちゃんに頭をよく撫でてもらっていた。

 高校生になる今だとちょっと恥ずかしいけれど、やっぱりこうして撫でてもらうと心が温かくなる。

 おばあちゃんは、自分の頭に手を置いたままおもむろに口を開く。

「ごめんねぇ、こんなことを叶耶ちゃんに頼んで」

 叶耶はゆっくりと首を振る。

「大丈夫ですよ。私はこうやって、おばあちゃんのお役に立てるのが嬉しいですから」

「……ありがとう。どうか○○のことをお願いね……」

「はい、任せて下さい。おばあちゃん」

 すると、叶耶はおばあちゃんに振り向き、幼い頃から変わらないあどけない笑みを浮かべるのだった。


          ***


 家に帰って、自室で宿題をしていると、スマホの通知音が鳴った。

 スマホに手を伸ばし、画面を見る。

 すると、櫻木さんからのメッセージを一件受信しているのがわかった。


『少し、お話したいことがあるのですが、今お時間ありますか?』


 突然なんだろうと思いながら、「大丈夫だよ」とメッセージを打ち込む。

 数分した後、スマホのコール音が鳴った。


『はい、もしもし』


『あ、桂くんですか。櫻木です』


 櫻木さんの声が電話口から聞こえてくる。

 彼女とはメッセージをやり取りすることが多くなったが、そういえば、こうして電話をするのは初めてな気がする。


『こんばんは、櫻木さん。それで、いきなりどうしたの?』


『えーっと、桂くんって、今週の土曜日に何か用事はありますか?』


『うーん、ちょっと待ってね……』


 すぐさま、カレンダーを確認する。

 櫻木さんに言われた日付の箇所は空欄だった。


『……いや、特にないっぽい』


『本当ですか⁈ それでしたら、その日にお願いしたいことがありまして……』


『お願いしたいこと?』


『はい、その日、近所の神社でお祭りがあるんですけど、私と私の住むアパートの大家である仁科さん夫婦は、そこで屋台を出すことになってたんです。でも、少し前に突然、旦那さんがギックリ腰になってしまったらしくて……。そこで、桂くんに屋台のお手伝いをお願いしたいのですが、どうですか?』


 そう訊かれて、俺は少し考える。

 お店の手伝いとはいえ、櫻木さんとお祭りに行くことができる。こんな機会は滅多にないだろう。


『うん、どこまで力になれるかは分からないけど、手伝わせてもらうよ』


『どうもありがとうございます! それでは、当日のことについては、後ほど連絡しますね』


『わかった。それなら、土曜日はよろしくね』


『はい、こちらこそよろしくお願いします』


 そうして、櫻木さんとの通話が切れる。

「……やった」

 俺は思わずそう声に出して喜び、カレンダーに先ほど決まった予定を書き込むのだった。


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