52話★
四章 第三
「それでは、中間テストの終了を祝して―――――乾杯!!」
七海の音頭とともにカチャンッとグラスをぶつける音が鳴り響く。
今日はテスト最終日。
俺たちは最後のテストを終えた後、近くのファミレスへと繰り出していた。その目的は、テストお疲れ様会だ。メンバーは、俺と遼、七海に牧原さん、そして志藤さん。あの時の勉強会メンバーだった。
「ぷはー」
乾杯をした後、一気にジュースを飲み終えた遼がグラスを置く。
「それにしても、よかったなー。まさか、みんなで勉強したところがあんなにもたくさん出るなんて」
「そうねー、いつも山張りをするけど、あそこまであたったのは初めてだったわ」
「おかげでななちゃん、今回は全科目平均点超えそうだもんね」
「うんうん……って、ゆ~ちゃ~ん、わたし、いつも平均点だけは超えてるんだけど~」
「あははは……」
俺たちは今回のテストの話題で盛り上がる。
しかし、一人だけその輪に入っていない人がいた。
志藤さんだ。
「志藤さん、どうかした?」
遼がそんな志藤さんを心配したのか声をかける。
すると、志藤さんはハッとしたように顔を上げた。
「あ、ごめんなさい。ただ、私がここにいてもいいのかなって、ちょっと考えちゃって。ほら、私ってたまたま勉強会にいただけで、部外者なわけだし……」
たしかに、俺は志藤さんと放課後一緒にいることが多いが、遼たちの場合はそうでない。遼たちと志藤さんが話すようになったのは、あの勉強会からだ。
しかし、七海は首を振る。
「いいえ、それは違うわ」
すると、遼もニコッと笑う。
「ああそうだな。俺たちはもう志藤さんと友達になってるつもりでいるし」
牧原さんもコクコクと頷いている。
やっぱり、遼たちは志藤さんが心配しているようなことを気に留めてなかった。本当にいい奴らだ。
「ありがとう、みんな……」
志藤さんは、ちょっぴり目に涙を浮かべている。
そんな彼女を見て、遼たちはやさしく微笑む。
俺も胸の奥が温かくなった。
すると突然、七海がはいっと手を挙げた。
「それならわたし、志藤さんのことを綾女って呼んでいい?」
「えっ、別に構わないけれど……。それなら私も笹瀬さんのこと、七海って呼んでもいいかしら」
「もちろんよ~」
七海がぎゅっと志藤さんに抱きつく。
ちょっ、と志藤さんは驚いていたが、嫌がるそぶりはない。その顔はとても嬉しそうだ。
続いて遼も手を挙げた。
「あっ、それなら俺もッ」
「え、ええ、全然問題―――」
「遼くん???」
志藤さんの返答は底冷えするような牧原さんの声によってかき消された。
同時に周囲の温度が一気に下がる。
牧原さんのメンヘラモードが発動したらしい。
「ごめん、俺は志藤さんのままで呼ばせてもらうわ……」
「ええ、そうね……。私もそれでお願いしようかしら……」
遼は瞬時に牧原さんの機嫌を察知したようだ。結局はもとの呼び方のままになる。 二人ともその顔を引きつらせていた。
すると、さっきまでの剣幕はどこへやら、牧原さんはぱっと笑顔になる。
「それなら、私は志藤さんのこと、あやちゃんって呼ばせてもらうね」
「うん、いいわよ。それなら、私は友愛と呼ばせてもらうわ」
この後、俺たちは今回のテストのことやこの前の体育祭のことなどで大いに盛り上がったのだった。




