51話
叶耶はお風呂を済ませ、自室のベッドに寝っ転がると、近くに置いてあったスマホを手に取った。
『桂くん、今日の勉強会では、ご迷惑をおかけしてしまいすみませんでしたっ‼』
スマホのメッセージアプリにそう打ち込み、送信ボタンを押す。
今日の勉強会では、自分がつい意地を張ってしまったせいで、バランスをくずし、彼にもたれかかってしまった。あのとき、とっさに謝罪とお礼の言葉を口にしたけれど、もう一度、彼に謝っておきたかった。
すると、ちょうど彼もスマホを見ていたのか、すぐに返信がきた。
『大丈夫だよ。それよりも櫻木さんに怪我がなくてよかった。今度からは無理せず頼ってね』
彼のメッセージを見て、自然と心があったかくなる。
『心配してくれてありがとうございます。次からは私も意地を張らず、桂くんのことを頼りますね』
『うん、任せて。それと、今日は一緒に勉強してくれてありがとう。櫻木さんの教えてくれた問題集、とても使いやすいよ』
『それは良かったです。テストまでもう時間も少ししかありませんので、お互い頑張りましょうね』
『もちろん! あ、もしよかったら、明日も一緒に勉強とかどうかな?』
「……えっ⁈」
メッセージの最後を見て、思わず声を上げてしまった。まさか彼の方から勉強のお誘いが来るなんて思っていなかった。
『桂くんから誘ってくれるなんて嬉しいです。もちろん明日もご一緒させてください』
『やったね。それなら明日も同じ場所でお願いします』
彼のメッセージの後に、叶耶は了解のスタンプを押す。その後、彼からも似たようなスタンプが送られてきた。
スマホを置き、ベージュ色の天井を見上げる。
「桂くんもやっぱり男の子なんですね……」
叶耶は今日の勉強会のことを思いだしていた。
バランスを崩して彼にもたれかかったとき、彼の頼もしさを感じてしまった。見た目はそんなにがっしりしている感じがしないのに、自分を支えてくれたときは、びくりともしなかった。
あのときした胸の高鳴りはよく覚えている。
彼の手が温かくて―――、
自分の上からは彼の息遣いが聞こえて―――、
そして、彼は心配そうに自分だけを見つめてくれていた。
「もしかしたら私、桂くんに……」
自分の気持ちが言葉に出てしまいそうになる。
しかし、叶耶はその言葉を出す前にブンブンと首を振った。
まだ、自分はこの気持ちを抱いてはいけない。
自分にはやるべきことが残っている。
そう自分に言い聞かせ、はやる気持ちを落ち着かせる。
「私は頑張らないといけないですもんね……」
ぼそりと呟きながら、叶耶は机に飾ってある色褪せた一枚の写真を見つめた。




