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27話★

 目的地たる生徒会室は中央棟の二階にある。

 俺たちは生徒会室に入室すると、手近な長机に段ボールを置いた。

 生徒会室では、男女三人が何やら書類仕事をしていた。その中には、牧原さんの姿もある。


「えっ、りょ、遼くんっ⁈」

 牧原さんは視界の端に俺たちを映すと、さっきまで目を通していた書類から顔をさっと外した。

「あはは、つい友愛に会いたくなってな」

 遼は牧原さんと目が合うなり、愛しの彼女のもとまで駆け寄る。

「も、もう、遼くんったら……」

 困ったような表情を浮かべる牧原さんだが、その顔は赤い。

「またか……」

 さっそくいちゃつき始めた彼らに苦笑いを浮かべる。


「ごほんっ」

 すると、正面に座っていた男子生徒が咳ばらいをする。

 その音に牧原さんはビクッと肩を震わせた。

「す、すみません。会長」

 彼女は遼から離れ、すぐに自分の仕事に戻る。どうやら、咳ばらいをした彼が、生徒会の会長さんのようだ。

「会長の鈴本響先輩です。そして、その右斜めの席にいるのが会計の細谷真美先輩」

 こっそり櫻木さんが俺に耳打ちしてくれた。


 少しして、作業に一区切りついたのか、会長さんはパソコンから顔を上げて、眼鏡越しに俺たちの姿を映した。

「大道寺君、そして、えーっと、つい先日転校してきた桂君だったかな、二人とも昼休みなのに手伝わせてしまって申し訳ない」

「いえいえ、俺たちが勝手に手伝っただけですから」

「それでも、これは私たち生徒会の仕事だ。本当は私たちだけで業務を回さなければならないのだが、どうしても人手不足でね」

 会長が自嘲気味に嘆息する。

 聞くところによると、副会長が先日から入院することになって、動ける人数が少なくなっているとのことだった。生徒会は少数精鋭で動く組織だから、一人でも欠けると大変なのだという。

 それに、今は体育祭前。生徒会の業務は普段にも増して多量になっている。


 俺は、さきほど櫻木さんが大きな段ボールを運んでいた様子を思い出した。

 この忙しい時期に人手が足りないとなれば、さっきみたいに、櫻木さんが不慣れな体力仕事をしなければならなくなるかもしれない。

 彼女が大変そうに力仕事をする姿を想像したくなかった。


「あ、あの、俺にも生徒会の仕事で何か手伝えることはありますか?」

 自然とそんな言葉が口から出ていた。

「「「「えっ?」」」」

 生徒会室にいた面々の視線が一斉に集まる。遼も驚きの表情を浮かべている。

「い、いや、これは私たち生徒会の仕事だしな……」

「そ、そうですよ。桂くんに申し訳ないです……」

 

 たしかに俺は完全に部外者だ。しかも、先日この学園に転校してきたばかり。

この学園のことなんてあまり知らないし、生徒会の仕事も全く分からない。もしかしたら、手伝いをするどころか、逆に生徒会役員の足を引っ張ってしまうかもしれない。

 しかし、櫻木さんのためにも、何か役に立ちたいと思ってしまった。

 俺は、隣の遼に視線をちらりと向ける。

 俺からの視線を感じると、遼は、にかっと笑った。面白そうじゃん、と俺にだけ聞こえる声で呟く。


「会長、俺にも生徒会の仕事を手伝わせてください」

「りょ、遼くんっ⁈」

「大道寺くんまで……。で、でもこれは私たちの仕事だし、部外者の君たちを巻き込むのはな……」

 会長さんは責任感が強いのだろう。自分たちの都合で、無関係の俺たちへ負担をかけることに、躊躇いを覚えているようだ。

「ま、桂さんや大道寺さんが手伝いたいとおっしゃってくださっているのですから、彼らに手伝ってもらっていただいてもよろしいのではないですか?」

 そのとき、今まで無言を貫いていた会計の細谷先輩が口を開いた。

「真美くんまで……」

 身内から突然の肯定意見が出たことで、会長さんは目を見開いていた。

「見ての通り、私たちは人手が足りていません。それにもうすぐ体育祭もありますから、これからの業務はさらに増えますよ」

 説得的な意見に会長さんは、うーんっと唸る。

 やがて、


「……わかった。体育祭が終わるまで、二人に生徒会の手伝いをお願いしよう。それじゃあ、すまないがよろしく頼む」

 椅子に座ったまま深く頭を下げた。

「い、いえ、俺たちこそ生徒会のこと、まだよくわかっていないので逆に足を引っ張ってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします」


 こうして、俺と遼は体育祭が終わるまでの間、生徒会の手伝いをすることになったのだった。


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