106話
叶耶は遊園地のゲート前にいた。柱に背中を預け、足元を見ていた。
数日会えなかっただけだというのに、彼女の姿を目にした途端、心臓が大きく脈打つのがわかった。
こんなにも自分は彼女のことが大好きなんだと思い知らされた。
「……ごめん、遅くなった」
声を掛けると、彼女は顔を上げる。直後、その表情がパッと輝いた。
「来てくれたんですね」
「うん、……この通り、かなり遅れてしまったけど」
ゲート前にある時計はすでにお昼を回っていた。
「そうですね、恋人とのデートに遅れるのは彼氏としてどうかと思います。でも、……こうして来てくれたので許してあげます」
叶耶はそう言うと、再び笑みを浮かべた。
俺も彼女につられて頬が緩む。
「それじゃ、遊園地に入ろうか」
「はい!」
そうして、俺と叶耶は互いに強く手を握り、ゲートをくぐった。
園内に入ると、最初はレストランに直行した。
叶耶が二つのパスタで頭を悩ませていたので、俺と叶耶で両方頼んで、二人で分け合った。そのとき、つい叶耶があーんをしてしまい、周りのお客さんの注目が集まったのですごく恥ずかしかった。
レストランの後は、ジェットコースターに乗った。
意外にも叶耶はこういう乗り物が得意だったらしく、何回も乗るはめになった。俺は三回乗るだけでダウンしてしまった。叶耶はオロオロしながら俺のことを心配してくれた。
グロッキー状態が回復して、お化け屋敷に行った。
叶耶が「ちょっとは克服したんですよ」と息巻いていたが、案の定、すぐに怖がって抱きついてきた。後からわかったことだが、実はお化け屋敷を克服していたわけではなく、密着する口実が単に欲しかっただけだったらしい。その事実を告白するときの叶耶はこれでもかというほど顔を赤く染めていた。
メリーゴーランドも乗った。あれは小さい子が乗るものだと思っていたが、大きくなって乗ってみると童心に返ったようでなかなか面白かった。
俺たちはずっと一緒にいた。
一緒に遊んで、一緒に話して、一緒に笑った。
別れるその時のことを忘れてしまうぐらい、今に夢中になった。
――でも、楽しい時間はいずれ終わりを迎える。
――お別れの時間は必ずやってくる。
気がつけばすでに日が傾いていた。
仲良く手をつないだ二つの影が長く伸びている。
クリスマスイブということでまだまだ来園者は多くいたが、太陽から発せられる赤い光を見ると、どこか切なさや寂しさを覚える。
「昂輝くん、……最後はあれに乗りませんか?」
最後、という言葉に違う意味が含まれていると感じた。
叶耶が指さした先には、この遊園地名物の巨大観覧車があった。
「うん……」
ついその声は暗いものになってしまった。
でも、彼女はそのことを咎めようとしなかった。
おそらく彼女も注意するだけの余裕を持ち合わせていなかった。




