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28.旅するおろく





「ここだよ」


 おつなの案内で、真ん中に石のテーブルがある広い部屋に着いた。テーブルにはいくつかの窪みがあった。おつなは淡々と魔法石を外しては窪みに嵌めて行く。


「ん?」


 おろくが目を見開く。


「どうかしましたか?」

「この町の秘密が解ったかも知れない」

「秘密?」


 おろくは黄緑色の眼鏡の奥でニヤリと笑う。

 それから、おろくの目と同じ濃い紫色の札を三枚抜き出す。柄は円三角四角。


「目と同じ、おろくの色だ。一番上手く扱える」


 見守るおつなと理吉に、ダイダイが説明する。

 おつなが魔法石を戻し終わる。おろくは三枚の札を重ねて振る。札が赤紫色に輝いて、円と三角と四角が浮き出た。


 ダイダイ達が固唾を呑んで見守る中で、三つの図形はくるくる回る。それからふらふらとテーブルの上を飛び回る。線がほぐれて、糸のようにぐにゃぐにゃ動く。


 やがて紫色の光の糸は、魔法石を繋ぎ始める。魔法石もテーブルそのものも、紫色に光り始めた。



 町全体から低い音が聞こえ出す。おつなと理吉はきょろきょろと部屋の中を見回す。鴉達が部屋に入って来た。その後ろには、緑がかった金髪の少年エルフがついて来た。


「キジトリ」

「おつな、何が起こってるの?」

「黙ってな」


 ダイダイに睨まれて、少年は口を閉じる。町は鈍い音を立てて揺れ始めた。おろくは薔薇の札を振る。たちまち魔法の蔓が伸びて、皆を支えた。さらに薔薇は芳香を漂わせ、皆を眠らせてしまった。起きているのは、おろくとダイダイだけだ。



「おろく、どうすんだよ」

「ここまで来ちまったらしかたないさね」

「仕方ないっておめえ」

「この船がどこに行くのか突き止めてやるのさ」

「まあ、魔法の濃い土地だろうな」

「そうだねえ」


 おろくとダイダイは、部屋を出て町の高台へと登っていた。町全体には屋根があり、けして外ではないのだが、階層もあれば起伏もある。窓もあるのだ。


 二人は呑気に外を見ながら、鈍い音と揺れの中話をしていた。


「何処にせよ到着したら、俺は本部に(けえ)るぜ」


 魔法連合の本部へは、身分証を使えばすぐなのだ。そこに転移の魔法陣が仕込んである。


「あたしは着いてから考えるよ」


 おろくは帯の間から、またもや黒札を取り出した。それは、橙色のガーベラが描かれた札である。


「これは神秘と冒険の花」


 ダイダイは黙っておろくの手元を見ている。


「猫畜生の忌々しい色だよ」


 少し寂しそうにおろくは言う。ダイダイはやっぱり黙っている。


 おろくはまた一枚札を出す。薄い緑色をした春蘭だ。


「飾らない心を表す花さ。緑の花なんて珍しいのに、威張った風もなく。なんだか素朴だよ」


 おろくは愛おしそうに札を見る。ダイダイはやや耳を伏せ気味にして、その様子を見ていた。


「まあ、何処かに着陸するまで、町の様子でも見て歩こうよ」


 おろくは取り出した札を再びしまって、顔をすっと上げる。そして、ダイダイと一緒に町の魔法装置を見て回る。この船は、古代エルフの魔法文明の証だ。


 エルフ達は来たきり、行ったきりで戻らない。しかしおろくは違った。空間跳躍の魔法がある。それに、黒札の組み合わせで船ごと空間跳躍出来そうだ、と思っているのだ。


 おろくの見立てでは、空の旅はたっぷりと時間がある。ゆっくり街を見て周り、今後のことは到着してから考えることにした。

 なにしろ永住するわけでもなければ、誰かと今生の別れをするわけでもないのだ。


 窓の外では、鳶が輪を描いてぴーひょろと鳴く。空は気持ちよく晴れていた。



さいごまでお読みいただきありがとうございます

予約ミスで最終回手動でしたが、無事投稿完了です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画より拝読しました。 全編を通して、色彩表現が鮮やかで、江戸時代風の風俗や言い回しと、魔法やエルフ、美少女戦闘ロボットといった西洋風のモチーフがシームレスに混在する雰囲気が、キッチュです…
[一言] 企画から参りました。 おお、カッコいい終わり方ですね。 でも、古代エルフの魔法の船で、あっちこっちに旅する様子も読んでみたいな。 楽しい作品を読ませていただき、ありがとうございました。 …
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