26•エルフの遺跡へ
「キジトリは、病気だった葉絣を助けるために、エルフの秘術目当てで寿太郎に連れて行かれたんです」
森のエルフは、門海に住む人々と少し違った名前をつけられる。今はもう彼らはいないので、理吉とおつなは父とキジトリだけしか知らない。しかし、その事実は幼い頃に聞いていた。
「それで、キジトリは移住出来なかった」
おつなが続ける。
「残ることが決まっていたうちの両親が頼まれたようです」
「よく森に行った」
「ある日、ジュタがキジトリをエルフの森の入口に連れてきたんです」
「お礼たくさん貰ってた」
わがままだけどいい奴。なるほど鬼の寿太郎は、そういう人物のようだ。
「森にはいろんな種族がいるから」
「あの屋敷の連中は、森の住人たちを捕まえては賭け事の賞品にしていたんだ」
「そこへ、遺跡の鍵になりそうな魔法石を持ってる子が来たので」
鹿角揚羽が口を挟む。
「鍵?」
おろくが目つきを鋭くした。
「あいつはいつも古い本をもってたんです。表紙には大きな魔法石で作ったらしいブレスレットを、巨大な扉にかざすエルフが描いてありました。あいつは時々独り言を言うんです。凄い装置が眠っている遺跡の扉を開ける鍵がブレスレットだ、って言ってました。」
ダイダイが鹿角揚羽を凝視する。
「文献があるのか」
「場所も知られてるのかい」
「鴉の里まで攻めてくるかも知れない」
おろくが言ったのは遺跡の話だ。しかし理吉は、おつなが捕まり自分の姿も見られたことで、鴉の里まであの猫耳金属少女が攻めてくるかも知れないと危惧した。
鴉の里は、全く隠されていないのだ。単なる山奥の長閑な里である。あんな兵器に襲われたらひとたまりもない。
「はやく魔法石を採りにいこう」
おろくは提案しながら歩き出す。まだ肩を抱いていた理吉が、肩から離した手を自然に繋ぐ。おろくはまたはっと理吉を見る。
「急ごうぜ」
「鹿角ちゃんさよなら」
ダイダイとおつなはずんずん先に行く。鹿角揚羽は少しだけ不満そうな顔をしたが、すぐに羽を広げて飛び上がる。
「さよなら!ありがとう」
必死で逃げてうっかり蜘蛛の巣に引っかかってしまったのだろう。まだ捕まった愚痴を言いたかったようだが、これ以上話を聞いてくれそうにないと諦めて帰って行った。
鹿角揚羽が去るのを見送りもせず、一行は魔法石を取りに急ぐ。
「里のみんなを遺跡に隠したらどうだい」
「おろくの魔法があれば、エルフじゃなくても入れるみたいだからな」
「かたじけない」
言うなり理吉はおろくの手を離して鴉の姿となり、弾丸のように飛び去った。里の皆を呼んでくるのだ。
その間に、おつなは必要なだけ魔法石を拾う。
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