25•森の住人達
ダイダイは鹿角揚羽が鬼の話をするのを聞くと、鼻を鳴らして立ち去ろうとした。何故か仲良くなったおつなも鹿角揚羽に背中を向ける。
「ほんとでも嘘でもいいよ。鬼の気配はあったからね。見られちゃ困る何かがあったんだろ」
「うん。多分魔法使いじゃなければ、殺そうとはされなかった」
ダイダイとおつなの背中に声をかけるおろくに、おつなは立ち止まって答える。
「どういうことだい?」
「魔法石に気付かないからだろ」
ダイダイがつまらなそうに言う。
「いやそれにしたって」
おろくの戸惑いに、ダイダイが言葉を継いだ。
「おつなはともかく、魔法石は回収したかったんじゃねえか?」
「うん。逃げられなかったら捕り方さんを猫もどきで殺して、魔法石を盗ったかもしれない」
「それが、不思議なんです。お屋敷の裏口を見張っていた人が、自分はお屋敷から逃げながら、追跡妨害の魔法を捕り方さん達に掛けていました」
この言葉には、ダイダイも足を止めた。
「ジンザってヤクザもんが?」
「確かそんな名前でした」
「ふうん」
「おつなさんは理吉さんに助けられてたから、捕り方さんは賭場の人達をお縄にするだけですし。魔法石はおつなさんと一緒に飛んでいってしまったので、捕り方さんを殺しても、あいつにも鬼にも得はないですし」
ダイダイは目を細め、髭を震わせる。
「見た奴全部皆殺しのネタをなんか持ってんだな」
おろくはぶるりと震えて、おつなの立派な魔法石を見た。
「エルフの遺跡とやらが関係あんのかね」
理吉は青褪めるおろくの様子に、思わず近づいて肩を抱く。おろくは一瞬驚いて理吉を見上げたが、心配そうな灰緑色の眼に宥めるように見つめられ、緊張が解けるのを感じた。
大きな緑の翼も、とても頼もしく思えた。その翼が、おろくとダイダイを、そして妹のおつなを救ったのである。
「鬼の寿太郎は、わがままだけどいい奴だよ」
「え?おつな。ジュタが見張りを?」
「うん。せっかく治った葉絣が、捕まってた」
相変わらずおつなの説明は断片的だ。今回も理吉が補足する。
「寿太郎と葉絣は、エルフの森と鴉の山の間にある森に住む鬼の兄妹なんです。」
「知り合いなんだね?」
「はい。実は、遺跡にはエルフの子供が一人取り残されていたんですが」
「えっ、その子どうなったんだい」
おろくがせっかちに聞くと、ダイダイがちょっと爪を出しておろくの足をつっついた。
「その子は無事です。キジトリと言うのですが、まだ遺跡に住んでますよ」
「ええっ?住めるもんなのかい?」
「はい。装置も問題なく動きますし」
「でも、怖いから石は返す」
おつなは、おろくとダイダイの警告を真面目に受け止めたようだ。
「ああ、それはそうしたほうがいいね」
お読みくださりありがとうございました。
続きもよろしくお願いします




