22.鹿角揚羽
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少女は薄布の上から水色の袖なしを羽織っている。陣羽織のような形だ。肩を出して、両腕には薄布を飾っている。
腕に飾る薄布は、二の腕から手の甲まで喇叭型に広がる白地にピンクの小花柄だ。小花は内側に着ている薄布と色違いの同じ柄である。袖口には二段の白いフリルが大きく波を打っていた。
「袖も上着もひらひらしてるから、くっついちゃったのかね」
おろくが蜘蛛の巣に貼り付いた少女を見上げながら、呆れたように言った。ダイダイは咎めるようにおろくを見るが、口は開かなかった。
鹿角揚羽は、全体的にふわふわひらひらしている。髪はふわふわ、服はひらひら、雰囲気もふわふわだ。
三段重ねの白いフリルがついたショートパンツから、ピンクのガーターベルトで繋がった靴下は、腕と同じ色柄の透け素材だ。
これにも白いフリルが付いている。正面にはピンクのリボンが縦に2つ、間隔を空けて並ぶ。紫のサンダルは、足首でリボン結びで止めてある。
「じっとしてるんだよ」
おろくが黒札から1枚取り出す。おろくの紫眼が僅かに金赤色を帯びて光る。鹿角揚羽は恐ろしそうに目を見開く。助けを求めはしたが、集中し始めた魔女の張り詰めた様子に不安を覚えたのであろう。
他のみんなはじっと黙っておろくのすることを見守っている。
おろくは、藍色の花札、メドウセージの絵が描いてある札を取り出す。
「知恵あるものの花だよ」
黄緑色の眼鏡の奥でニヤリと眼を細めて魔法を発動する。
おろくが指先でつまんだ札を一振りすると、藍色の花から少年が飛び出した。
利発そうな顔立ちをした子供である。森のエルフのような緑色の髪をして、藍色の釣鐘型の膝丈ズボンを履いている。茶色のブーツは脛まであり、緑のボタンで留めてある。
メドウセージの少年は、鹿角揚羽の周りを滑らかに移動する。声は出ない。音も無い。表情だけは少し変わる。それから少年は、急に梢を目指して昇って行ってしまった。
「蜘蛛ですか?」
理吉がおろくに囁いた。
「そうみたいだね」
おろくはまた一枚の黒札を取り出す。今度は赤い鳥の札だ。札からは赤い鳥が微かに燃えながら現れる。
メドウセージの少年が、ネバネバ糸だけ全部取り除きながら蜘蛛に向かう。蜘蛛の巣は、獲物を捕らえるネバネバ糸と巣の主の蜘蛛が渡る粘らない糸がある。
少年は、ネバネバだけを集めて鹿角揚羽を救いつつ、蜘蛛を自分の糸でベタベタに絡めてしまおうとしているのだ。
おろくはその後を、赤い火の鳥で焼き捨ててしまうつもりだ。




