21.蜘蛛の巣
泊めてもらう部屋を確認したおろくとダイダイは、理吉とおつなの兄妹と落ち合ってまだ明るい山の中へ出てゆく。
おつなが遺跡に魔法石を返した後で使うための、小さな魔法石を拾いにゆくのだ。そこには、常に沢山の小さな魔法石が転がっているのだという。
「地面に散らばってるのかい?」
おろくが驚く。そういう場所は聞いたことがない。ひとつふたつが転がっている場所はあるのだが。
「そう。でも、草や木や岩はある」
「見えにくい場所にもかなりあるんですよ」
「埋まってるやつもある」
「むしろ、元々は埋まっていて、雨や動物の力で浮き出して来るのだと思います」
雨が降って土が流されたり、動物が通って草や小石が蹴散らされたりして、小さな魔法石は地面にでてくるようだ。
「へーえ。有名な場所なのかい?」
「そうですね。でも、あまり質は良くないので人気はそれほどでもありませんよ」
目的の場所は里から程近く、余裕で日没前に鴉の里へ帰れる場所だという。みな軽装で斜面に生える木々を縫って歩く。ダイダイは魔法生物とはいえ、見た目は猫だ。もともと何も身につけていない。
「ん?なんだ?」
進行方向右手の奥に、何か華やかなものが見える。木漏れ日に蜘蛛の糸がちらちらと光っている。
「ずいぶん大きな蜘蛛の巣だねえ」
「蜘蛛はどこだ?」
蜘蛛の巣は、雲まで届くかと思われる大木の梢からその根元まである巨大さだ。巣は不自然に揺れている。獲物がかかったのだろうか。
「助けて!」
可愛らしい声が細々とおろくたちの耳まで届く。理吉は迷わず声の方へと向かう。おろくも顔を引き締めて後に続き、その足元にはダイダイがいる。おつなは一瞬ためらったが、すぐについて来た。
複雑に絡まり合った枝をくぐり、ようやく蜘蛛の巣のある巨木に辿り着く。そこには、蝶を思わせる羽を蜘蛛の巣にべったり取られた少女がいた。
「動いちゃダメだよ」
とおろくが言えば、ダイダイも、
「絡まって取れなくなるし、何より蜘蛛が早くくる」
それを聞いて青褪めた少女の羽は、揚羽蝶に似ている。色は濃いピンク色である。
水色の柔らかそうな髪を緩く三つ編みにして、前髪は躑躅色だ。透明感のある水色のくりっとした垂れ目が可愛らしさに拍車をかける。
頭には特徴的な鹿角が生えている。角は落ち着いた灰味ピンク。
「鹿角揚羽か。珍しい」
ダイダイが目を細める。
「助けてください」
少女の緑がかった水色の小花が散る薄衣は、大胆に前が開いている。羽があるので、蜘蛛の巣に貼り付いた背中も、おそらくざっくり切れているに違いない。
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