14.おろくとダイダイ
オレンジ色の雄猫ダイダイが、透明な爪を出しておろくの足指を突っついた。
「あたっ!なんだい」
「遊んでる暇なんかねえよな?」
「つまんない猫畜生だよ」
おろくの悪態に、理吉は心配そうに進言する。
「山の夜は危ないですよ。それに、この里がある山は、ただの山でもないのですし」
おろくは札を切りながら逡巡する。
「うーん、言ってもいいかなあ」
「何をですか?」
理吉が好奇心を覗かせた。
「あのさ。あたしゃ今すぐにでも家に帰れるんだ」
「ああ、移動の魔法ですか」
理吉は、まさかおろくがオリジナルの空間跳躍魔法を使えるとは思いもよらないだろう。
一般的な移動魔法で、黒札の絵とおろくの家のゲートとなる魔法陣が繋がっていると思っているに違いない。
「まあ、そうだね」
「勿体ぶるなあ」
「いちいちうるさいねえ、猫畜生は」
安全な帰宅手段があると判り、理吉は少しほっと顔を緩める。だが、まだ不安はあるようだ。
「でも、あの変なものに家が見つけられていたら」
「なに、そんときゃそん時さ」
「どっかに逃げるぜ」
おろくとダイダイは、いたって気楽である。2人は本当になんとでもなるのだ。おろくの便利魔法を使えば、あの熱線を出す金属猫耳少女からでも逃げられる。
「それは」
理吉は眉間に皺をよせる。
つられてダイダイが鼻に皺を寄せる。
「大丈夫だって。さ、黒札しようよ」
おろくが軽い調子で提案すると、成り行きを見守っていた鴉達がおろくの真似をして次々と床に座った。
「こっちの仕事はどうすんだよ」
「鴉の里を調査してんだろうが。今。将に」
「屁理屈こねくり回しやがって」
「これだって立派な魔法文明調査だろ?」
「ちっ」
おろくの仕事は、各地の魔法文明調査である。理吉と出会った屋敷にいたジンザも、どうやらご同業だ。
おろく達調査員の仕事は、定期的に派遣される魔法連合本部職員視察担当者によってサポートされる。
事実上の監査を行う職員もいれば、相棒のような行動を取る職員もいる。
とにかく本部職員が滞在している間に、的確な助言を貰い、それを元にして調査をさらに進めるのだ。
「屁理屈だあ?鴉とエルフの混じりもんまで見つけたじゃないか。充分だよ」
「はあー、知らねえぞ。正直に報告するからな」
「好きにおしよ。こっちのお腹は真っ白さ」
おろくにとってダイダイは、本来格上の存在だ。しかし、2人は妙にウマが合った。
小さな身体で大きな魔法を使えるダイダイ達魔法生物は、おろく達人間の魔法使いよりも遥かに複雑な魔法を使える。
ところがダイダイは、おろくの自由闊達な魔法が気に入っていたのだ。2人は、魔法の趣味が合うのである。
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