13.黒札で遊ぶ
里長の家で食事をご馳走になったおろくとダイダイは、遅くならないうちに帰ることにした。
「近道で送りますよ」
「たまには山を歩きたいからいいよ」
「麓に降りたらもう夕方でしょう。町まではとても」
心配する理吉に、おろくは帯の間から黒札の包みを取り出した。
「これでひとっとびさ」
「鳥の出てきた魔法の紙ですね」
「あはは。こいつはただの黒札だよ」
おろくは悪戯っぽく笑う。
「おろくはどんな絵でも魔法に変えちまうんだ」
「へええ」
「まあ、自分で描いた絵だけなんだけどさ」
「黒札は手作りなのですか」
理吉は、一々感心する。なんだか目つきが甘ったるくなってきた。
「おろくさんは、大変な才能の持ち主なのですね」
声も甘い。おろくも嬉しそうだ。
「なんだい、恥ずかしいねえ」
ダイダイは、つぶらな瞳をキョロキョロと動かして、2人を交互に見ていた。
「おろくさん、その黒札というのは何でしょう」
「理吉っつぁん、知らないのかい」
「理吉は山降りたの初めてなのかよ」
理吉の質問に、おろくとダイダイが驚く。
「はい。おつなが攫われたのを追いかけて」
「そいつぁ難儀だったねえ」
「おろくさんのお陰で逃げ出せました」
2人の間に、また甘い空気が流れる。
ダイダイはオレンジ色の細長い尻尾をパタンパタンと床に打ち付けながら、鼻に皺を寄せていた。
「黒札かい。聞いたことあるよ」
世話好きおばさんが話に入ってきた。
「へえ、ずいぶん小さいんだねえ」
おばさんは、おろくの手元を覗き込んで言う。他の鴉たちも近寄ってきた。
「どうやって遊ぶんだい」
「面白いのか?」
「俺知ってるぜ!町の友達に教わった」
「えっ!まさか、スカンピンになったやつかい?」
どうやらその鴉は、賭場で遊んで擦ったらしい。
「別に賭けなくたっていいんだよ」
おろくは慌てて説明する。
「そうなのかい?」
「ああ。札を集めるだけの遊びだよ」
「集める?」
「札を交換しながら、決まった組み合わせを揃えるんだ。組み合わせによって強さが決まってるよ」
「つよさ?」
「例えばこれは1番強い組み合わせ」
おろくは、黒札の束から何枚か札を抜き出す。七色の色札の同じ色全柄と黒札一枚が揃った8枚。
それだけを見せられても、皆はよくわからない。
「やってみるかい?」
「やりたい」
「賭けないなら」
おろくが床に座って札を山にすると、理吉が心配そうに尋ねた。
「帰りが遅くなりはしませんか」
おろくは理吉の気遣いに少し頬を染め、軽く首を振る。
「山歩きは早々に切り上げて、さっさと帰れば大丈夫さ」
「やはり送りましょう」
気遣わしそうな理吉に微笑むおろくを、ダイダイはちょっと爪を出して突いた。
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