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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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91海里目 新たなる者

 背筋がヒヤリと寒くなるような、恐怖を感じた時に陥るような感覚が俺を襲う。

 その男は、俺の方を見ると不敵に笑った。


「あなた、本当は何者なんですか?」

「何者って、ただの人間ですよ」

「…場合によっては、防衛連盟に攻撃したとみなしてあなたを排除することも出来ます。正直に答えてください」


 おそらく正当な攻撃ではないかもしれないが、それでも可能性を排除するためにはそういう手段を取るのに必要である。

 その言葉を聞いて、男は若干狼狽えたように見えた。

 そして少し考えるような素振りを見せる。


「何か不利になるようなことでもありましたか?」

「…先ほど、防衛連盟とおっしゃいましたか?」

「えぇ。私は防衛連盟の人間ですが」

「そうなると…」


 男は俯き加減で、ブツブツと何かを考えるような言葉を発する。

 それは俺の耳には届かなかったものの、男は明らかに動揺しているように見えた。

 男は考えがまとまったのか、顔をこちらに向ける。


「あなたが防衛連盟の人間であることを信用して、一つお願いがあります」

「…内容によりますが、何でしょう?」

「どうか、私を保護してくれませんか?」

「どういうことでしょう?」


 男は一瞬言葉に詰まったが、意を決したように言う。


「私は帰ってきた者、すなわち『帰還者』なのです」

「帰還者…?」


 俺は初めて聞いた言葉に戸惑いを隠せなかった。

 帰ってきた者って、一体何を示しているのだろうか?


「その様子だと、帰還者が何者か分かってないようですね」

「えぇ、まぁ」

「いいでしょう。これを見たら、きっと理解してくれるはずです」


 そういって男は、左手を出すと指を鳴らす。

 その瞬間、子供たちは文字通り霧のごとく霧散し、消えた。

 それは村の全体にも範囲を広げ、まるで雲の中にいるようになる。

 数秒で煙のようなものが晴れると、そこには初めから村なんてなかったかのように、広い空間が広がっているだけだった。

 俺はあまりの現実離れした光景に、思わず周囲を見渡す。


「どうでしょう。これが私の能力、詐欺師ペテンです」

詐欺師ペテン…」

「そしてもう一つ、偽っていたものがあります」


 男がもう一度指を鳴らすと、今度は男から霧のような煙が出てくる。

 そしてそれが晴れると、そこには先ほどの男と比べて背が低くなった男児がいた。


「これが僕の本当の姿です」


 俺は、何がなんだか分からなくなってきた。


「…一回自己紹介してみよっか」


 俺は男児にそう提案した。


「僕はロアン・デニー、さっきも言った通り詐欺師ペテンの能力を持つ帰還者です」

「俺は防衛連盟理事会直轄独立統合戦術機動部隊司令長官の海原駆です」


 自己紹介を終えたあと、俺は尋ねる。


「ロアン君、君は俺にどうしたいんだ?」

「それは…、僕を防衛連盟に連れて行ってほしいんです」

「理由はあるのかい?」

「…僕は幼いころから、この能力と一緒にいました。この能力があればどんなつらいことでも乗り越えられた。でも、僕はもう自分に嘘をついて生きていくのに嫌気が差したんです」

「なるほど…。理由はともかく、連合艦隊としては君を戦争孤児と認定して保護しなければならないといけないんだな」

「それじゃあ?」

「君を防衛連盟に連れていくよ」


 そういうと、ロアンは安堵したような表情をする。

 しかし、まだ彼が安全と決まったわけではない。

 正直これ以上敵が増えるのは嫌なのだが。


「とにかくこっちに来てくれ。司令部に案内しよう」

「分かりました」


 そういって俺はロアンを連れて前線司令部の方へ戻った。

 司令部に案内すると、物珍しそうにロアンのことを眺める人がちらほらといた。

 一応俺は、司令部に顔を出す。


「おや、どうかしたのかね」


 そこには、まだ帝王陛下がいた。

 俺は事情を話し、ロアンのことを紹介する。


「そうか…。ロアン、大変な思いをしたな」


 帝王陛下は慈悲深いまなざしをロアンに向ける。

 ロアンは相手が帝王陛下だと知ると、背筋を伸ばしてガチガチに固まっていた。


「それで、この子はどうするのだね?」

「現在のところ、連合艦隊の方で保護するつもりです。後のことは状況によって考えます」

「そうか。臣民のことをよろしく頼むよ」

「はい」


 そういって俺たちは司令部を出た。

 そのまま、連合艦隊陸戦隊の本隊に預けようかなとも思っていた時だった。

 どこからともなくアルトさんがやってくる。


「どうしたんだね、その子供は」

「どうしたもこうしたも、拾ってきたっていうのが妥当な表現ですね。ところで、アルトさんも来てたんですね。てっきりテラル島で留守番しているのかと」

「せっかくのバンイ帝国攻略だ、見学しないでどうする」


 そういってアルトさんがロアンのことを見つめる。

 そして一言つぶやいた。


「お前さん、帰還者か?」


 なんと、一目で帰還者であることを見抜いたのであった。


「アルトさん、帰還者のことを知っているんですか?」

「知っているも何も、流浪者がこの世界に来るのと同じように、帰還者の様子を見るのも、もとは俺の仕事だ」

「聞かせてください。帰還者って一体何者なんですか」

「ふむ、では少し説明しよう」


 そういってアルトさんは説明をする。

 帰還者とは、もともとこの世界にいた人間しかなることの出来ないらしい。

 この世界を一本の糸と仮定して、その糸が別の世界の糸とぶつかった時に、移動が可能になるという。その時に異世界とこの世界で人や物が行き来するという。

 そういった瞬間に、この世界にいた人間が異世界に行き、何らかの方法で戻ってきた時に能力を得るのだという。

 その時に得られる能力は、その人間が本当になりたかった姿やコンプレックスを克服した姿になれるような物になっているという。

 そして帰還者の能力は流浪者の能力と干渉することが出来ず、その逆もしかりといった具合らしい。

 ロアンの場合、自分自身に対してコンプレックスを抱いていたことにより、自分の姿を偽るという能力を得た可能性が高いという。


「おそらくこういうことだろう」

「へぇ…」

「本当に分かっているのか?」

「えぇ、分かってますよ。ただ流浪者と何が違うのかなって思いまして」

「そうだな…。さっきも言った通り、帰還者は自分のなりたかった姿に即した能力を得るのに対して、流浪者は自分がなったことがある姿になるのが特徴だ」

「なるほど」

「もっと簡単に言えば、流浪者はポジティブな能力に対して、帰還者はネガティブな能力になりやすい」

「それは結構分かりやすいです」

「そして彼はそんなネガティブな面を最も全面的に出している。自分の姿すら偽れるような能力にな」


 ロアンは自分が見透かされたような感覚を覚えたのか、少し下を向いてしまう。

 そんなロアンを横目に、俺はアルトさんに小声で尋ねる。


「一目見た限りだと普通の少年なんですけど、本当に問題ないか聞きたいんですが」

「それなら問題ない。自制心の強い子供のようだ、自分の立場もわきまえている」


 アルトさんが言うなら問題はないだろう。


「とにかく、ロアンには連合艦隊の陸上部隊がいる場所で待機してもらうから、いいかな?」

「はい、分かりました」


 そういって俺は連合艦隊陸戦隊の司令部にロアンを預けた。

 そんなことをしている間に、前線から部隊が引き揚げてくる。

 どうやらエルフォード統合元帥の命令はちゃんと届いたようだ。

 橋頭堡には歩兵や砲兵、数日も立てば騎兵隊も戻ってくる。

 そして彼らを順次一型タンカーに収容し、防衛連盟に戻る作業に入った。


「今回はなんだか空振りに終わりましたね」


 一足早く「長門」に戻った俺は、艦橋から撤収作業の様子を眺めていた。


「まぁ、仕方ないだろう。まさか帝王陛下が亡命してくるなんて誰も想定出来なかったのだから」

「そういや、今うちで身柄を預かっていますけど、いずれはヒルノ海上国家の方に身柄を送ることになるんですかね?」

「おそらくはな。今のうちに書類を覚悟しておいたほうがいい」

「うげぇ」


 そんなことを話しつつ、俺たちは作業を見守った。

 作業は一昼夜かかり、翌日には全員の撤収を確認する。

 こうして「砂上の突風」作戦は、数名の亡命希望者と帰還者の保護により、作戦中止という決断を下されたのだった。

『物語を1.3倍くらい楽しむための豆知識コーナー』

帰還者

その名の通り、一度この世界から別の世界に渡り、帰ってきた人間のことを指す。その際に得られる能力は流浪者のそれと同じであり、かつ流浪者との能力は干渉しない。

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