65海里目 強硬する者
「アルト…クリュース…スラウド…?」
「そうだ。久しぶりだな、海原駆よ」
「え、俺どこかで会いましたか…?」
「会っている。この世界に転生してきた時にな」
そう言われて俺は思い出す。
確かこの世界に来たとき、自分が創造主の能力を持っていることを教えてくれたり、能力が発現した時の光に包まれた謎の人影。あれが彼であったことに気が付いた。
「まさか、あの創造主の宣告をしてた人…?」
「そうだ、よく覚えていたな」
「まさか…」
その後、彼はいろいろと教えてくれた。
かつて自分は異世界との行き来を可能にするための魔法陣を開発していたこと、それを悪用する奴らに狙われていたこと、そして奴らとの戦いの末に大災厄が発生したこと…。
「…というわけで、俺が死んだあと世界に取り込まれてしまい、結果としてこの世界にやってくる流浪者に個々の能力を宣告していっているわけだ」
「…つまりこの世界の神様みたいなものなんですか?」
「神様とは少し違う。こちらからはこの世界に対して一切何もできない。世界を見ることや知ることは出来ても、手を加えることは出来ん。お前さんの感覚で言えば事務員のようなものだ」
「なるほど…」
少し脳内の考えを整理した所で、俺は別の質問に移る。
「それで、その…スラウドさん?」
「アルトでいい」
「では、アルトさん。あなたはなぜ俺の前に現れたんですか?」
そう、元はと言えばアドラス・フォン・シュルツ氏の予言によってここまできたのだ。
「それは、もちろん予言があったからに他ないだろう。だが、それ以外にもある」
「それ以外とは?」
「最近、惑星の反対側でよくないことが起ころうとしている。ちょうどバンイ帝国やクレイル連邦のある地域だ」
「それって…」
「あぁ、現在の状況そのままだ」
状況は一気に悪くなったともいえる発言だ。
「というわけで、これから俺はお主等と行動を共にすることにした。ここも時期に閉鎖することだろう」
「えっ、行動を共にするってこのままついてくるて事ですか?」
「それ以外に何がある?」
アルトさんはきっぱりとそう答えた。
「何、心配する事でもない。いざという時には役に立つぞ、俺は」
「えぇ…」
謎の自信を持たれても困るんだけど。
だがそれを断りきることは出来ずに、結局ついてくることになった。完全に絵面が背後霊になってる。
そんな状態で戻るもんだから「天龍」ではザワザワさせてしまった。
「…カケル司令官、なんだそれは…?」
「あっははは…」
そんなわけで事情を説明すると、ひとまずは納得してくれた。
「なるほど。この背後霊のような人物こそ、アルトゥル教の神格化した唯一神であるアルトゥル=クルーズ=スリュード本人というわけか」
「アルト=クリュース=スラウドだ。間違えるでない」
「あ、あぁ、申し訳ない。それで、その本人が我々に協力してくれるのはありがたいのだが、どうして急にそんなことを?」
「単純に利害の一致といったところだ。バンイ帝国とクレイル連邦のやろうとしていることを阻止したいというだけのな」
「そうか。では今後ともよしなにといったところかね」
こうして連合艦隊は成果という名の神様を拾ってきて、ルート演習作戦は終了した。
テラル島に戻るやいなや、アルトさんがこう切り出す。
「すぐにでもクレバイルへの反攻作戦を実施したい」
突然のことで、執務室はシンと静まり返ってしまう。
「なんだって急にそんなことを?」
「この戦争は、クレバイルが圧倒的な優位に立っている。その現状を打破するために、連合艦隊単体でクレバイルに立ち向かわなければならないだろう」
急に強硬派みたいなことを言い出したな、この人は。
「し、しかしですねぇアルトさん。現状連合艦隊には駆逐艦と軽巡洋艦合わせて6隻しかいないんですよ?そんなすぐにクレバイルへの反攻作戦を実施するわけにもいかないですよ」
「なら直ちに戦力の拡充をするべきだ」
「そうは言われましてもねぇ…」
困ったものだ。このままでは何を仕出かすか分かったものではない。
だが、それと同時にはっきりとわかった事もある。
「確かに反攻作戦の実施は急務です。しかし戦力の整っていない状況では逆に不利になるとの考えも否定できません。そこで一つ、こうするのはどうでしょう」
「なんだね?」
「私はこれから戦力の増強を行います。確実に戦力が整うまでしばらく待ってもらえないでしょうか」
「うぅむ、仕方ない。それで手を打とう」
こうして俺はアルトさんと戦力の拡充について一つの約束を交わしたのだった。
つまりはいつまでもこうしてはいられないということになる。
速やかに次の艦を建造しなければ。
「次はどうしようかなぁ…」
次は軽巡洋艦を量産するか、新たに重巡洋艦を建造するかの二択が選べる。
軽巡洋艦を量産するのならあば、それに新しく駆逐艦を量産したいところだ。だが、駆逐艦や軽巡洋艦の主砲では対艦戦闘はできても、対地攻撃や敵地占領はできるとは限らない。
だからといって重巡洋艦を建造するといっても、その存在感で圧倒出来ても、それにかかるコストがどうにもならなければ意味がない。
どちらにせよ、一長一短であることには間違いないだろう。
そんな中、俺はアンデルトのコンウェイさんに呼び出された。内容は量産型小銃の地味な改良版が出来上がったということらしい。
「これが出来上がったものだよぉ」
そういって渡されたものを見たが、正直俺は驚いた。
これまでなんとか実戦に出せる品質だったものが、最高のものになっていたのだ。もちろん、銃自体の細かな仕様変更によって、まだまだ性能は伸びると考えられるが、現状では最高品質のものになっていたのだ。
「いやぁ、みんな作っていくうちにどんどん慣れていくみたいで、初期ロットと比べ物にならないくらいに性能が向上しているよ」
「それは本当のようですね。正直ここまでなるとは思いもしませんでしたよ」
この品質の向上には目を見張るものがある。俺はそう感じた。
そして次にこう口を開いていた。
「少し相談なんですがね、この辺で良い造船所なんて知りませんか?」
「造船所?なんだって急にそんなことを?」
「いえ、我が艦隊の戦力を増強するには、今の小銃製造のように民間に製造を依頼した方が効率的かなと思いまして…」
「確かにそうだなぁ。…僕はアンデルト周辺のことしか詳しくないんだけど、確か知り合いに造船関係の人間がいたはずだから、ちょっと連絡を取ってみるよ」
「よろしくお願いします」
コンウェイさんは早速通信機を使って、知り合いと思われる人に連絡を取ってくれた。
すると話が早いことに、翌日の昼に同じヒルノ海上国家にあるサージという軍港のある街に行くよう指示を受けた。
翌日、早速指示のあったサージに「白雪」に乗って向かう。わざわざそうしたのは、今後の方針を分かりやすくするためだ。
「ようこそサージへ。私がコンウェイの知人のホルトンです」
そういって港で出迎えてくれた。どうやら彼は、とある造船所の設計主任をしているそうだ。造船所自体は主に、防衛連盟の大型艦艇の建造を担っているとのこと。
ホルトンさんの在籍する造船所の事務室に移動し、話をする。
「…というように、我が艦隊の戦力を拡充するため、この造船所だけでなく、可能な限りの造船所に声をかけて、大規模に建造を行いたいと考えています」
「…無茶言わんでくださいよ」
ホルトンさんには苦い顔をされた。
まぁ、そうだろうな。なんせこれまでにないような大規模事業になることに間違いないんだから。そうなれば現在建造している艦艇を退かさなければならないからな。
でも俺にも考えがないわけではない。
要するに大型艦艇の建造を行わないようにすればいいのだ。




