45海里目 次なる思案
翌日、俺は議会の方に出向いてた。
今日は秋場首相と共同記者会見があり、そのために記者会見の会場へと移動しているのだ。
議会に到着して中に入ると、ちょうど秋場首相と遭遇する。
「おや、海原司令ではないか。奇遇だな」
「秋場首相、今日もお世話になります」
「あぁ。それで、昨日の駐屯地視察はどうだったかね?」
「いやぁ、楽しませてもらいました。今度は第四四四部隊の方を視察したいですね」
「そうか、それはなによりだ」
そういって俺と秋場首相は揃って会見場に入っていく。
会見場はすでに報道関係者が席についていた。
その会見では、ヤーピン皇国と連合艦隊の間で交わされた文書や今後の関係などを聞かれれる。
それが終わると、浜須賀に係留している連合艦隊の元に戻った。ここで観艦式と同時にヤーピン皇国を出国する予定だからだ。
「吹雪」に乗り込んでから少しすると、観艦式の準備が整ったと連絡が入る。
それを受けて、俺は艦隊を事前に渡された資料に書かれていた指示にしたがって、航路に沿って進路を取った。
「面舵、微速前進」
「おもーかーじ、微速前進」
ここから見ると、ちょうどヤーピン皇国海軍所属の艦艇が並んでいた。
資料によれば、浜須賀鎮守府に所属している艦艇が勢ぞろいだそうだ。
「こうしてみると、ヤーピン皇国の艦艇ってなんだか小さく見えますね」
「そうだな。この艦と同じだな」
「それはトーラスさんが大きいだけでは?」
「さぁ、どうだかな。それにヤーピン皇国の艦艇は存在だけでも重要な意味を持っている」
「そうなんですか?」
「あぁ。ヤーピン皇国の艦艇の多くは開戦前のクレバイル技術の多くを保有している。もしクレバイルの艦艇について知りたかったらヤーピン皇国の艦を調べるのが最善の手だろう」
「へぇ」
俺はここで一度納得してしまったが、頭の片隅に疑問が一つ浮かび上がってきた。
「最新型が開戦前のものって少し古くないですか?本物の艦を拿捕したほうが早いような気もしますけど…」
「あぁ…。それについてはだな…」
トーラス補佐官が少し視線を外すと、ためらいを入れつつも話してくれる。
「実のところだな、何度か拿捕しようとしたという報告は上がっているのだが、12年前に成功して以来、全てが失敗に終わっている」
「最後に拿捕したのが12年前って…」
「記録や報告によると、拿捕しようと敵艦に乗り込んだところで突然艦が爆破するという現象が確認されているようだ」
「爆破ですか?」
「あぁ。様々な方法を用いて確保しようとしたそうだが、結局はうまくいかなかったらしい。そのため数年前から拿捕に関しては止めるように通達が入っていたのだ」
「そうなんですか…」
「純粋なクレバイルの艦は、最後に拿捕に成功したものがヒルノ海上国家に保存されている。もし興味があるなら、テラル島に帰った時に見学しに行くといい」
「はい。そうします」
観艦式が終わると、そのまま連合艦隊は次の目的地であるレイグル王国に向かう。
また長い航海が行われる。もちろんこの時間にも訓練などはちゃんとしているのだ。
だが、俺には一つ懸念要素とも言える事案が一つ残っている。
「魚雷、だよなぁ…」
そう魚雷の問題だ。大砲よりも高度な技術力と数学が要求される兵器であるが故に、今まで先送りにしていた。
だが、いつまでも放置しておくわけにはいかないというのが本音だ。
そんな訳で、レイグル王国までの航海で魚雷の整備を行うことにした。
「とはいうものの、一体どこから手を付ければいいんだか…」
旧日本軍では魚雷は高価な兵器の一つだ。その分そこに使われている技術も並大抵のものではない。
ではどうするべきか。
確か旧日本軍ではジャイロによる慣性航法で魚雷の進行方向を制御していたはずだ。正直記憶が曖昧だから、この辺の正しい方法は分からない。
ジャイロスコープを作るにしても、それなりのものが必要になるし、いっそのこと別の手法で制御するのもアリかもしれないな。
パッと思いついた限りでは加速度計を用いた方法だ。3軸方向に対応可能な上、角速度も計測可能である。まぁ、これは半導体に使われている技術であるが。しかし魔術として確立すれば大量生産出来るし、他にも応用が効くだろう。
よくよく考えれば艦の上でやることではない気もする。けど放置しておく訳にも行かないから検討だけはしておこう。
さて、実際に検討すると考えると、数学的な計算が必要だ。単純なら俺でもできるかもしれないのだが、それ以上の計算が必要になるならば俺一人ではなんともならない。
そこで、ダメ元で連合艦隊内にいる隊員に数学もしくは物理学を専攻したことのある人物がいないかを聞いて回った。するとありがたいことに一人、浅くではあるものの物理学をかじったことのある隊員がいたのである。
「それで、頼み事とはなんでしょう?」
「実は新しい兵器の検討をしようと思ってたんだけど、その兵器に使われる計算を考えてほしいんです」
「具体的には?」
「この魚雷というものなんですが、これの軌道計算や物理計算をしてほしいんです」
「なるほど。何か模型でもあればいいんですが…」
「あぁ、ちょっと待ってくださいね」
俺は素早く1/10ほどの模型を作った。
「こんなやつですね。中の機関系統は全く構築していないので大まかなものだと思ってください」
「うーん…。形状が対称的ですね。正面から見たとき円形だと重心の位置によっては回転するかもしれません」
「あり得ますね。ちょっと回転はさせたくないな…」
「そうなると意図的に重心を下げるなどの工夫が必要でしょう」
魚雷の物理的特性はなんとなく決まった。そしてここからが本題だ。
「この魚雷を発射したあとの制御が問題なんですよね」
「打ちっぱなしでは駄目なんですか?」
「うーん…。運用方法にもよりますけど、少ない本数でも命中確率を上げるために必要な処理だったりするんですよね」
結局この時に出た結論は、戦術にあった方法を選択するということだった。
一応、ロード演習作戦が終わったら魚雷の開発にでも着手してみるか。
それに、吹雪型4隻には形だけの魚雷発射管が存在する。いずれかは魚雷も正式には兵器として実戦に投入したいという願望があって設置している。
しかし魚雷発射管は長い間使っていなかったから、今動かそうと思ってもサビがあってうまく動かせいかも知れない。そこで整備をしようと考えた。ついでに原寸大の模型でも作っておこう。そのうち水雷戦の実験や訓練をするだろうし。
その翌日、珍しく海が時化た。もともとこのあたりの海域は荒れやすいらしいのだか、それ以上にひどいようだ。
俺はこの日の訓練を全面中止にし、操舵に注力するように通達した。ただでさえ転覆しやすい駆逐艦なのに、通常よりも重心が高くなっている連合艦隊の艦であるなら簡単にひっくり返ってしまう。
それは史実でいう友鶴事件や第四艦隊事件に準ずるものだ。そうなってしまえば失うものは果てしなく多い。
「見張りを増やせ。波に注目し、報告せよ。ここで転覆すれば確実に助からない」
「常に波に対して垂直に舵を切れ」
「後続艦も各自の判断で対処せよ。後で自分が空から捜索する」
各々の判断で波に対処するように言う。俺よりも海の上にいる時間が長いトーラス補佐官がいうのだからそうなのだろう。
それにもしはぐれたとしても、通信さえできれば俺が空から探せば艦上から探すよりはるかに見つけやすいはずだ。
その甲斐あってか、半日ほどで海域を脱出した。幸いにも各艦はそこまで離れておらず、すぐに艦隊を組み直す。
こんなことがありながらも、レイグル王国へと着実に近づいて行っている。
そこではどのような出来事が待っているのだろうか。




