11海里目 転換
「ふう…今日はこの辺までかな」
進水から数週間後のある日。上部構造物もほぼ出来上がっており、あとは装備の微調整をするのみとなった。
上部構造物の建造もなかなかに大変だった。いくら能力があったとしても修正できないような部分が多くあって、いちいち変えなきゃなんなかった。
そもそも元の世界のようにボイラー焚いてタービン回すような工業要素の塊を、ただの高校生が造れたもんじゃない。この世界に合わせて、魔力で動くように研究に研究を重ねた。結果出来たのは、特別な処置を施した箱に超高密度の液状魔力を貯める技術と、ボイラーとタービンを一体化させた装置だ。
まぁこれが終われば、ドックから艦を出して公試運転に移ることが出来る。そうすれば無事に就役だ。…そういや、「吹雪」を係留する場所、作ってなかったな。
「あー、今日はもう寝よう」
簡単にシャワーを浴びて、リフレットさん宅の自室に飛んで戻った。
翌朝、1,2時間しか寝てない体を無理矢理動かしてリフレットさん達のDPにエサを与える。サラとカイ君は一緒に小屋の掃除をしているようだ。
「グァァ…」
「朝の分は終わりだよー」
人に懐きにくい性格だというドースレイン、俺にはすぐに懐いてくれた。これにはリフレットさんも驚いていた。
「おーよしよしよしよし」
「グァッ」
「なんでそんなに仲良くできんのよ?」
奥からサラが掃除を終えて出てきた。
「んー、なんでって言われてもねぇ…」
「普通に考えて、この子達がこんな簡単に懐くなんてありえないんだから」
「あっそうなんだ」
本来ならもっと時間がかかると。
「何か隠していることとか、裏があるんじゃないの?」
「いや別に何もしてないから」
「兄ちゃんは優しいからきっとトロ達も分かってるんだよ!」
カイ君が根拠もないような発言をしている。
小屋から出てきても、サラの疑いは晴れなかった。
その日の午後、俺を含めて島民全員が島長さんに呼び出され、集会所に集まっていた。
「皆集めて、何話すんだろ?」
「島の方針でも話すんじゃない?でも昨日の今日で開くってのはちょっと気になるわね…」
そんな中、島長さんが姿を現す。しかしその姿はいつも通りではなく、暗く沈んだような雰囲気だった。
島長さんは部屋の中をグルリと見渡すと、話し始めた。
「皆、揃っているな?急な呼び出しで申し訳ない。じゃが、それだけ差し迫った用件であることを分かってほしい。簡潔に言うぞ…。『12日後に島を出ていく』事になった」
島を出る…。その言葉に一瞬どよめきが起きる。
「一昨日、ベルグラが持ってきた通達の中に、『今回限りで定期船の運航を停止する』とあった。儂は通信で抗議したんじゃが、既に国王の認可を貰った決定事項になっておった。決して覆せん。…残念ではある。じゃが、いずれこうなるはずじゃったから、落ち込むことはないぞ。皆、12日後までに必要最低限の荷物をまとめておいてくれ」
そうして、島長さんは去った。
いつか起こるはずだった。頭ではわかっていても、やはり現実は簡単に受け入れられるものではない。
そのため、話が終わった直後は誰も動けず静かだったが、一人、また一人と現実を受け止めた人が次々と集会所を出ていく。
最終的には皆がそれを認知し、最後の日常を送るべく、それぞれ帰路についた。
「島でずっと暮らしてくってのは出来ないのかな?」
家に戻る時、俺はふとそんな事を呟く。
しかし、隣にいたサラは否定した。
「それは無理ね。ここは自給自足に向いてないわ」
「でも水や畑もあるし、漁もすることだって出来るじゃんか」
「それは見た目だけ。痩せた土壌に種を植え、天敵の増加で捕れる量が減少したのがこの島の現実よ。外からの供給がなければ、ここには住めないわ」
サラの反論で、俺は黙ってしまった。
資源のない島。
まるで日本のようだ。
それから数日の間、島全体が少し沈んだ空気になった。
しかし、誰もこの島に残ろうとは思ってないようだ。おそらくサラが言った『現実』を考えれば、移住もやむを得ないのだろう。
俺の場合、島での生活は日が浅いため、離れられないほどではない。
だが、それ以上に問題なのが…
「これをどうするかなんだよなぁ…」
施設の中に停泊中の「吹雪」である。
仮に「これを荷物として持っていきます」なんて言って、この世界にはない船を出して来たら、頭の心配をされるだろう。一週間後にでも島長さんに話しとくか。
いや、そしたら何か文句の一つでも言われるかもしれない…。
偶然を装うしかないのか?
「後で考えよう…」
問題を後回しにして、今は公試運転の事に集中しよう。
公試運転とは、完成した軍艦が正常に機能するかを確認する、竣工前の航海のことだ。単に性能をチェックするだけでなく、各兵装の限界まで試す必要がある。
本来なら時間をかけてやるものだが、それが出来ないため巻きでいく。
「じゃあハッチ開放」
昼過ぎの施設の中、ドックの扉が開く。基本的なプログラムを組んだ事により、遠隔操作のような振る舞いが出来るようになったのは大きい。これによって起倒式の開閉扉を半自動で開けることが出来る。このようにしたのは島の中にドックがあって外からは完全に隔離されたような構造をしているために、上下で分かれて開くようにしなければならなかったからだ。一応外側は崖の色に似せるように塗っていて、一目見ただけでは分からないようにしてある。
ハッチが完全に開いた所で、ドックの中から「吹雪」を引っ張り出す。このような大型の艦艇なら、タグボートを使ってドックから出るのだが、今回は能力を使う。そっちの方が正確だしね。
「よし、機関始動」
ボイラーとタービンを一体化させた動力機関、「タ号魔術式可変速主缶機」がうなりを上げる。本来なら、ボイラーに火をいれ水蒸気を発生させてタービンを回すといった面倒な工程があり、エネルギーの損失は膨大なものになる。一方でこの主缶機は、魔力からエネルギーを直接取り出すためエネルギー変換効率は発電機並の99%以上だ。
そしてこの主缶機の燃料である魔力は、船体の両舷と底に高密度の貯蔵庫を構え、それを「高魔力変換機」でエネルギーに変えたり、魔力を船体のあらゆる場所に送り出している。
「機関…問題なし。回転数…良好。シャフトは…正常に接続。よし、動力伝達開始、微速前進」
チェックシートの項目に印を付けながら動作確認を行う。能力のおかげで、舵輪や機関の制御盤を弄らなくても動かせるというのは、本当にありがたい。その分、それらのチェックはしなくてはならないけど。
こうして日が沈むまで、船体運動のテストを行った。一通りチェックが終わってから、一度家に戻ってリフレットさん達と夕食をとる。
そして夜がふけ、再び施設に戻ろうとした。
「電探と測距儀と兵装のチェックしなきゃ…。後、射撃と雷撃の調整も…」
「他にやることは?」
「艦内通話の確認と羅針盤の…え?」
残りのやるべき事を口にしていたら、いつの間にか部屋の入口に立っていたサラに聞かれていた。
「あ…えっと、サラさん…?」
「昼間とか夜中にコソコソと何かしてると思ったら、とんでもない事してるじゃない?」
不敵な笑顔でこちらに近づくサラ。
「いや、あの、違うんだ、これは…」
「んー?何が違うのかしら?」
サラは後退りする俺にピタリと付いてくる。必死になって言い訳を考えたが、何も出て来ずに部屋の隅へと追い込まれてしまった。
「何してたか、丁寧に説明して貰おうかしら?」
頭が真っ白になった。もう何も思い付かない。
正直に話そうと口を開いた。
カンカンカンカンカンカンッ!
甲高い鐘の音が響く。
「これ…まさか、クレバイルが来たの!?」
「え、マジ?」
外から誰かが叫ぶ声がする。
「全員島を脱出だ!クレバイルが攻めてきた!最小限の荷物だけ持って港に行け!」
「ウッソだろ、おい…」
「逃げなきゃ…行くわよ!」
「ごめん、先行ってて!」
「はぁ!?何…言って…」
サラが絶句しているが、無理もないだろう。なぜなら、俺が窓から身を乗り出しているからだ。
「じゃあ、また後で」
「え、ちょ、え?」
サラの制止もむなしく、俺は施設へと全力で向かった。
「まず設計図類の持ち出しと、施設の封鎖に、抜錨作業か…。大変だ、こりゃ」
施設にある必要な荷物を持ち出し、島の北側約1kmのところで係留している「吹雪」に乗り込む。
艦橋の下にある艦長室に荷物を置き、出航準備にかかる。
「うし、行くか!」
駆逐艦「吹雪」、初出撃だ。
『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』
駆逐艦「吹雪」要目概要
基準排水量:1600t
全長:118.5m
全幅:10.4m
速力:38ノット前後
機関:タ号魔術式可変速主缶機1基2軸
兵装:
50口径12.7センチ連装砲3基6門
7.7ミリ単装機銃2基
61センチ3連装魚雷発射管3基




