59通信しちゃった
最近、よく誤字報告をいただいております。お手間なことですのに、わざわざお知らせくださいまして、どうもありがとうございます。大変、大変助かっております!
と同時に、誤字の多さに申し訳なくなります。
今後もできるだけミスのないように努めますが、また何かお気づきのことがありましたら、ご報告いただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたしますm(_ _)m
その時、突然私の胸元が淡く光り始めた。見下ろしてみると、守りの石のネックレスが白く輝いている。さらには、そこから白い光の線が伸び、天井近くにある小さな窓を抜けて外へと飛び出していってしまった。光ファイバーを思い出させるものがある。
しかも、よく見ると、光は強くなったり弱くなったりを不規則に繰り返していた。まさかモールス信号的なヤツ?! ネックレスにこんな隠された仕様があったなんて聞いてないよ。でも、これはきっと守りの石が私と外を繋ごうとしてくれているにちがいない。私は、生まれた希望に胸が高鳴り始めた。
ここから状況は急に好転する。
まず、意識がどんどんクリアになってきた。あ、守りの石から漏れ出ている白の魔術が、私の体調不良を治してくれているのだ。すると、どこからか誰かの声が響き始めたではないか。
『エース!』
この声は――。
『クレソンさん?』
『エース?! 無事なのか?!』
確かに、これは彼の声。マリ姫様との脳内通信のように、頭へ直接響き渡っているのだ。通信の魔道具が発見されていないこの世界で、こんなことが起こるなんてとても信じられない。
『牢屋みたいな所へ閉じ込められていますが、一応無事です』
『よかった。すぐに助けに行くからね!』
『え、でもどうやって。それに、なぜ私、クレソンさんと通信できるようになってるの?』
『守りの石は、一つじゃなかったんだ。そして、びっくりするぐらい身近な所にあったんだよ』
私は予想外の答えに目を丸くする。そうだ。カモミールさんの話では、そもそも守りの石は二つあって、王と王妃が一つずつ持っていた物だって。でも長い歳月の中で王側の石は失われてしまい、行方不明になっていたはずなのに。なぜこのタイミングで運良く見つかったのだろう?
『どこにあったんですか?』
『国宝の短剣。柄の芯の方に埋め込まれてたんだ』
私が白の魔術を重ねがけした、あの短剣。私がわざわざあんなことしなくても、元々白の魔術の力を備えていたなんて!
クレソンさんによると、短剣は夜会の間も胸ポケットの中に忍ばせていたらしい。それが、突然光り始めて、白い線が夜空へ向かって伸びていったらしい。それ、私がつけているネックレスと一緒だ。
『僕達を繋ぐこの線を辿れば、必ずエースを助けられると思う』
彼は今、マリ姫様の差配で用意された王家の馬車に飛び乗り、光を辿って王都よりも南へ下っているところらしい。まだ少し時間がかかりそうだということで、私が知らない今回の顛末について説明を聞いた。
まず、夜会の途中で突然赤く光った天井。あれは、魔物襲来を知らせるものだそうだ。夜会の雰囲気を壊さずに一大事であることを素早く伝える手段になっているらしい。これは、毎年春にある騎士の定期採用をくぐり抜けて入隊した人は、初めのお勉強会で学ぶことらしいのだけどね。
その合図に気づいたクレソン達第八騎士団第六部隊の皆さん、そしてアンゼリカさんやミントさんを含む『我は戦闘できる者也!』と自負してる人々は、すぐさまホールを出たというわけだ。そこへやってきたのは、魔物を北門の方で見たと慌てふためく貴族達。これを信じ込んで早速現場へ急行したそうなのだけれど、鼠一匹いやしない。騙された!と皆が思った時には、もう遅かった。ホールへ慌てて戻るも、武装した男達と私の姿はすっかり消えてしまった後だったのだ。
『エース。君が姫乃として夜会に参加していたことは僕とアンゼリカ、ミントさんの三人しかいない。だから、本当はエースを優先して救出したいのだけど、建前上、宰相が雇った傭兵を捕えることを優先しなくちゃいけない』
『クレソンさん、私なら大丈夫です。私、こうやって声が聞けるだけで本当に生きた心地がしました。後でいいので、クレソンさんが迎えに来てください』
『うん。必ず』
ここで通信は終わった。でも、守りの石から伸びる光の線は徐々に太く、強くなっていく。クレソンさんが、どんどんこちらに近づいている証拠に違いない。私は祈るような気持ちでその光を見つめ続けた。どうか、クレソンさんが無事にこちらへ辿り着けますように、と。
牢屋の外から馬の蹄の大音量で聞こえてきたのは、それからしばらく経ってのことだった。
すぐに、私を捕えた男達の慌てたような大声も上がり始める。戦闘はすぐにスタートした。誰かの金切り声や、剣と剣がぶつかり合う鋭い金属音。時たま小爆発もあり、私は石が崩れて生き埋めにならないか不安になりながら小さくなっていた。
後から思えば、体調は良くなっていたのだから、結界を駆使して脱出し、加勢に向かえば良かったのに。悲しいことに未だ動転していた私は、ただの震える女の子でしかいられなかったのだ。
◇
翌朝、槍を持って練習場へ行くと、ディル隊長が剣の手入れをしていた。刃溢れしていないかチェックするために、柄と視線を同じくして朝日を反射させている刀身を睨みつけている。
「お、エース。お前、大丈夫か? まだ顔色悪そうだな」
えっとね、昨夜はあれから間もなくして、クレソンさんが私を救出してくれた。その後は、遅れて駆けつけてくれたアンゼリカさんに引き渡され、彼女のお屋敷へ。ようやく城にある騎士寮に帰ってこれたのは、草木も眠る時間になっていた。
となると、さすがのクレソンさんも青薔薇祭の疲れもあるだろうし、先に休んでると思うじゃないですか。でも彼はそんなに甘くはなかった。部屋に入った途端抱きついてきて、開口一番言い放ったのは――。
「エース、約束のご褒美ちょうだい!」
満面の笑みの彼。その背後では、青薔薇が一輪挿しに生けられている。それを見て、すげなく断ってしまう程私は鬼ではない。優勝しただけでなく、攫われた私をすぐに見つけて助けに来てくれた、まさしく「王子様」だ。労いたくもなるわけ。気づいたら、私は首を縦に振っていた。
その結果が、案の定の寝不足だ。別にやらしいことは何もしていないし、されてない。以前ミントさんからもらったネグリジェ的なものを着て、クレソンさんの腕の中で眠っただけ。でも寝付きが超悪かったのは仕方ない。耳元で「エース」と「姫乃」を交互に、色気たっぷりの寝言で聞かされ続けたら寝付けなくって。図らずも、ちょうど病み上がりみたいな顔つきになってしまったのである。
「はい。アンゼリカ副団長のお屋敷で介抱してもらったお蔭で、昨夜の遅くには寮へ帰って来れました。もう大丈夫です」
「そうか、良かったな。昨夜は大変だったんたぞ? 夜会に傭兵が乗り込んでくるとか、人が攫われるとか、聞いたこともねぇよ」
はい。よく存じております。ほら、攫われた女の子がここに! と言うわけにもいかず、ぎこちなく驚いたような演技をしておく私。
「でも、宰相もいよいよやべぇんじゃねぇの? あんな派手な真似しちまってさ」
「宰相の仕業だともう判明してるんですか?」
「いや、正確には宰相の取り巻きの仕業だ。お前を自分んとこの陣営に取り込んで、宰相にいい顔したかったらしいが、運良くお前は参加してなかったし、あいつらも気の毒なこった」
ディル班長は悪い顔をしてニヤリと笑う。
確かに最近の宰相の動きは、若干失敗ばかりに終わっている。これといって政策にも目立ったことがないし、あったことと言えば、彼の屋敷が不自然に火事になり、さらに新しい家も倒壊。彼自身の逮捕事件もあった。
さらには、マリ姫様が自身の姿を見せたばかりか、世界樹の次期管理人だと宣言し、宰相よりも大きな威光を示して、国民はの人気が宰相から一気に彼女へ傾いてしまった。そして極めつけが、青薔薇祭。宰相の天敵とも言えるクレソンさんが映えある優勝をもぎ取り、その実力が一躍有名になってしまったことも、取り巻きの焦りを煽った原因と思われる。
このままでは、次に何を仕掛けてくるか分かったものではない。窮地に追い込まれた人程、とんでもないことをしでかしたりするのは、どこの世界でも同じだろう。
背中が薄ら寒く感じたその瞬間、背後に人の気配を感じた。
「朝から勤勉なことだ」
「ステビアさん」
彼は、青薔薇祭で私と対戦した人。赤紫の騎士服は、闘技場で会った時よりも少しくすんで見える。強気な口調とは裏腹に、ステビアさんはどこか元気がないようだ。
「なぁ、お前。結界の魔術とやらを使えるんだろ?」
「はい」
「やっぱり、気に入らない。こんな奴に……」
朝から何しに来たんだろう、この人は。何か言いたいことがあるみたいだけれど、こちらを睨んだまま。今日はアンゼリカさんと一緒というわけでもないし、青薔薇祭では私が負けた。未だに目の敵にされている意味が分からない。
「イライラが収まらないんですか? それなら二度寝か美味しい朝食をとるのがオススメですよ。私はあなたと違って弱いので、これから槍の練習に励みます。では」
「おい、待てよ!」
私が踵を返すと、腕を思いっ切り掴まれた。これ、絶対に地肌が赤くなってるよ。めっちゃ痛い。不意を突かれてうっかり涙目になりそうになってしまう。けれど、その直後のステビアさんの行動に、出そうになった涙も引っ込んでしまった。
「エース、頼む! 俺の剣を何とかしてくれ!」
ステビアさんは、私の方を向いてきっちり九十度、腰を折っていた。
彼の剣は、私との闘いの中で砕けてしまっている。白の魔術で補強された私の槍の強度が、彼の剣を上回ってしまったからだ。
私はちょっと負い目を感じてしまい、彼の後頭部から目を逸らす。
「一応、話ぐらいは聞きましょう」
顔を上げたステビアさんは、ちょっと泣きそうな顔をしていた。平凡顔なのだ、この人。そして、少し日本人っぽい彫りの浅さ。何となく親近感が湧いてしまうのは、きっとコレのせいにちがいない。私達は練習場の脇にあるベンチに座った。
「まず、うちの実家のことから話そう」
ステビアさんは、男爵家の長男だ。そしてあの砕けた剣は、男爵家が代々引き継いできた家宝の一つだったらしい。ステビアさんは現当主を務める父親から、絶対に優勝するように言い含められてあの剣を託された。けれど、ものの見事に粉々になってしまう。試合には勝ったけれど、家宝を金屑に変えてしまった彼は、実家で針のむしろとなった。
「しかもお前、負けたっていっても魔術が本領なんだろ?」
「そうですね。結界が一番得意です」
「嫌味かよ。白の魔術なんて、存在自体が幻みたいなレベルなんだぞ?」
「でも、他はからっきしですよ」
「親父が言うんだ。俺はお前に勝ったけれど、本気のお前に勝ったわけじゃない。しかも、家宝は粉々だ。つまり、俺は負けたのと同じなんだよ!」
ステビアさんは唾を飛ばしながら叫ぶ。そして、ギュッと握った拳を一瞬振り上げたけれど、結局ゆっくりと膝の上に下ろしてしまった。
「俺には弟がいる。優秀な弟だ。俺はアイツに負けたくない。そのためには、親父に良いところを見せなければいけない。だから俺は、もう一度家宝の剣で本気のお前とやって、勝ちたいんだ」
ステビアさんは、ここへ来た時からずっと左手に持っていた紐で縛るタイプの麻袋の口を広げてみせた。覗いてみると、銀色の粉や金属の破片が砂に交じってたくさん入っている。
「これ、もしかして……」
「家宝の剣の欠片だよ。エース、お前はアンゼリカさんによくしてもらっていて、調子にのってる嫌な奴だ。でもな、奇跡を起こす天才だって皆言ってるぞ」
「それ、たぶん別人です」
「こら、ちゃんと真面目に他人の話聞けよ! 俺は真剣なんだ」
「でも……」
私は白の魔術を使って武器を魔道具化することはできる。でも、武器屋ではない。ドワーフみたいな鍛冶の素質も無い。どうにかしてあげたくても、打つ手が無いのだ。
「例えばだ。お前、剣の形をした小型の結界とか作れないのか?」
「剣の形?」
「そうだ。その結界の中に、この金屑を入れる。お前は結界を圧縮する。そうすれば、あっという間に剣が復活だ」
私はちょっとステビアさんを見なおした。
「平凡な顔に似合わず、発想は天才肌なんですね」
「やっぱお前、許さねぇ!」
などと喧嘩が勃発しそうにもなりつつ、これも乗りかかった船だ。私は彼の剣の復活に向けて、できることをすることにした。






