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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
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★全国制覇 後編


「早くベタ塗れよぉらぁっ!!!!」


「ひぃっ!!!」



 ウキウキでバイトをしにきた俺を待っていたのは、絶望ヘラだった。俺は大量の色紙に囲まれた中に正座させられると、机に向かってひたすら余白を黒く塗りつぶす作業をヘラに強要されていた。



「契約書にサインしたとたん豹変しててまぢこわい……もう無理。二重人格かよ。アットホームって書いてあったのに! つかそのメガネどしたん?」


「これ? このメガネはゼウスとオソロなのーへへ。良いでしょ? そんなことより早くベタ塗れよおらぁ!」



 ヘラはメガネの縁を指で上げて一瞬だけ微笑むと、再び俺に詰め寄ってきた。



「ひぃいんっ!」


「契約書にサインしたんだからもう逃げられないわよ」


「怖すぎだろwww。こんなパワハラじゃ他の社員は辞めちまうぞ!」


「いないわよ」


「は?」


「社員兼取締役執行役員はアタシ」


「ほぇ? つまり??」


「そりゃアタシとゼウスしかいないわよ〜。ここに他のやつが入ってきたらぶち殺すつもりだったし」


「は?」


「ま、あのチラシは急遽昨日作ったやつだし、あの内容で人が来るわけないけどね」


「は?え、あ、は?? お前、俺様を最初から狙って!?何てことをっ!!!」


「そりゃそうでしょ。アタシはゼウス以外興味ないもん」



 くそぉこのババアのトラップにまんまとハメられちまったってことかよ。俺様もついに焼きが回ったか。



「いいから早くベタ塗れよぉらぁ!」


「ぐあっ!」



 ヘラは俺が動揺する間もなく、背後から二の腕を回し首を締め上げてきた。



「分かった分かったやるから! とりあえず塗ればいいんだろこんなの! えっと、ここの細かい部分……つーか、ベタ塗りのやりかたを教えてくれよ」


「OJTって言葉があるでしょ? まず手を動かして。やりながら身につけていけばいいのよ。てことで、早くベタ塗れよおらぁ!」


「いやいやいやwwwちゃんと教えろw」


「考えるもんじゃないのよゼウス。いい?感じるものなのこういうのは。パッションよパッション」


「お前さすがにテキトーすぎんだろ!w。せめてやりかたを教えて」


「こんなんドバーッ!とインクを隙間にグワって塗って、あぴゃぁっ!って感じに仕上げれば綺麗に塗れるわよ。簡単でしょ?」


「いやいや説明の中のフィーリング占める要素多すぎだろ!」


「いけるでしょ〜ゼウスは全知全能なんだし」


「全知全能でも無理なものは無理なんです」


「しょうがないわね。こんな感じよ」



 ヘラは色紙を1枚取ると、あっという間に必要な箇所を塗りつぶした。



「こんなもんかしら?」


「はー、すげえな。お前マジでどこでこういう技術身につけてんの?」


「独学」


「ふーん、やるじゃん。ま、お前に出来んなら俺にもできるはずだよなw」


「何言ってんの!当たり前でしょ!アタシのゼウスは何でも出来るんだから!てことで、これ全部お願い。あとこれとこれとこれもお願い」



 ヘラは机の周りに色紙の山を築きあげた。



「ファッ!? この量は無理だろ!初日の新人がやる量じゃねえだろ」


「無理というのはですね、嘘吐きの言葉なんですよ」


「クソブラック企業やめてwww」


「いくらゼウスだからってナメたムーブかましたら容赦しないからね! アタシ本気で全国制覇狙ってるんだから!」


「お前は一体何と戦ってんだよwww」


「いいから早くベタ塗って頂戴。全国がアタシたちを待ってる」


「待ってねぇよwww。しかも何で俺も頭数に入ってんだよ。オメェ一人でやってろ!」


「あ〜そう言う事言うんだー。じゃあ、バイト代はなしね」


「くっ、ぐぬぬ! くそぉ、ペンと色紙を寄こせ!やってやるぜ!!!」


「ふふ、そうこなくちゃ!」



 忌々しいが金のためだ。致し方ない。



……………



「あー! そこ0.5mmインクがはみ出てる! 給料から差し引いておくから」


「はぁ!? こんなん誤差だろ!」


「ちょっと滲んでるじゃない!あーあ、これはお蔵入りね」


「厳しすぎんだろ……」


「あっ、次のその色紙一番大変だったやつ! 失敗したら怒るから!」


「え?」


「もしそこの塗り間違えたら、いくらゼウスでもこのベレッタM12で蜂の巣にしてやるからね?」


「お前何でサブマシンガン持ってんだよwwwwww。えっ?マジ本物!??」


 

 ヘラはどこからともなくサブマシンガンを取り出すと、俺の額に突きつけてきた。



「ふふ、知りたい?試してみようか今ここで!」


「ひん!やりますやります!ちゃんと塗ります」


「もし塗り間違えたらこのインク胃にぶちまけてから蜂の巣にしちゃるけんね?」


「は、はいん!」


「あ、あとこの万年筆を鼻から突っ込んで脳みそ引きずり出してやるからね?」


「いや、さすがにこえーよwww」


「仕事はね。一度引き受けたのなら全力で、死ぬ気でやるもんなんです。命かけろオラ!」


「アットホームどこいったんだよwwwwwwww」


「アットホームでしょここは。アタシたちの」


「いや、そういうことではなくてですね」


「いいからベタ塗れよおらぁっ!!!」


「ぬわぁっっっっ!!!!!!」



 ヘラは俺の弁明を待たずに飛びかかってくると、腕ひしぎ十字固めをしてきた。


「痛い痛い痛いギブギブギブッ!!!」


「仕事っていうのはねぇっ!一度受注したらねぇっ!死ぬ気で終わらせるしかないんですよぉっ!!!」


「分かった分かったやります!やりますから!」


「ふふん。分かればよろしい」


「はぁはぁ、しんど」



 あー糞。マジ糞。何でこんなことになってやがんだ。とりあえず定時までやったら金もらってとっととトンズラしてやるからな!

 俺は苦々しい気持ちを抑えながら、ベタ塗り作業に戻った。



………………



「よーし、ふぅ」



 俺は積まれた色紙を丁寧かつ迅速に処理した。気がつくと定時の3分前になっていた。



「いやぁ今日は働いたぁ〜頑張ったなー俺様偉い! さて、じゃあそろそろ〜っと」


「え? まだオフィスの明かりついてるわよ?」



 俺が身支度をし始めると、ヘラが不思議そうにこちらを見てきた。



「は? オフィスの明かり?」


「まだ明かりついてるけど新人が先に帰るの?」


「いやいやwww。定時で上がります、今日は。この後もえみとデートの約束があるんで」


「は? もえみとの約束?? ダメに決まってるでしょ。そんなのでノルマ達成出来ると思ってるの?」


「ノルマ?? そんなん知らねぇよw! 俺のもえみが帰りを待ってんだ」

 

「もえみとの浮気は許さないわよ! もえみじゃなくてこの後はアタシとデートの約束だったでしょ!!!」


「してねぇだろそんな約束www!勝手に捏造するな!」


「きゃっ、思わず嘘ついちゃったてへ」


「お前テンションおかしいよマジで……」



 俺は舌を出して照れるヘラを見て背筋が凍った。

 いい歳こいたババアがやっていい挙動じゃねぇだろマジで。施設ろうじんほーむに即ぶち込まれてもおかしくないレベルだろこれ?



「はぁ、ノルマとか言ってたよな? そもそもこんなにたくさん何に使うんだよ?」


「これ? 同人即売会でファンに売るの!」


「ファンだ〜? お前そんなのもやってたのかよ。そういえばこの色紙って全部お前が描いたの?」


「そうよ」


「お前、マジで多才だなw」


「ゼウスに褒められた! やったー!」


「ちなみに同じ顔の男ばっかだったけど、こいつ誰なの結局?」


「え? 全部ゼウスだけど」


「は?これが俺?」


「うん」


「……お前、俺を美化しすぎじゃね?」



 俺は少女漫画風に描かれた自分を見て小っ恥ずかしくなった。



「いやいや、ゼウスはこんなもんじゃなくてもっと果てしなくかっこいいから!」


「あ、そう? いや、なんかありがとな」


「えへへ」



 ヘラは屈託のない笑顔を俺に見せた。



「仕方ねぇ。まだ少し残ってるし、キリがいいところまでやってやるか」


「うへへへありがとう」



………………



「ふぃー、やぁっと終わったぜぇ」


「よく頑張ったねゼウス。さすがアタシの大好きなダーリン、ふふん」


「あー、もう一生分のインク使ったわー。てことで、金頂戴!」


「今日は頑張ってくれたから、奮発しておくね。はい今日の給料!」


「マジ!? お前なかなか分かってるじゃぁん!…………は?」



 俺が両手を差し出すと、ヘラは数枚の小銭を置いた。



「計580円になります」


「は? なぁにこれ、時給??安すぎんぞ! 何かの間違いだろ?」


「時給じゃなくて出来高払いだから。1枚10円ね」


「はぁ?????1枚描いて10円?!ふざけんな、こんな単価じゃうんまい棒もロクに買えねぇじゃねぇか!」


「買えるでしょ10円だし」


「今消費税アップで11円だぞ」


「消費税なんて知らないわよ」


「嘘だろお前、非常識かよ。いやそもそも!58枚どころか数百枚くらい、いやもっと塗ったはずだぞ! この金額はおかしい!」

 

「はみ出し違反1枚100円天引きで、27枚はみ出しだから−2700円よ」


「はみ出し1枚で100円引かれるの!? 10枚の成果物が1枚の小さい失敗でかき消されるの理不尽過ぎて草」


「世の中って理不尽よね〜」


「いやおめぇだろ!www。つか違法だろこれ!そもそも募集の張り紙と内容ちげぇwwwどう考えても詐欺だこれwww」


「張り紙には書いてたでしょ」


「は?どこに」


「ここ!」


「はぁ?? どこだよ!」



 俺はヘラが指さした募集ポスターのクソほど小さい注意書きを目を細めて凝視した。



「あ? こんな米粒より小せぇ字誰が読むんだよふざけんなこらw。つーかここに大々的に年俸2000万も狙えるとか書いてやがったなきちげぇが!嘘八百も大概にしろ!」


「もーゼウスぅ〜ちゃんと注意書きを読まないから〜。やっぱりアタシがいないとだめね、うふ。ま、そんなうっかりさんなところもダイシュキなんだけどね」


「いや、知らねぇよwww」


「分かった。しょうがないわね。ならこうしましょ。あ、アタシにき、き、キスしてくれたら特別に100万あげる!」


「……さて、帰るかー。全国もえみが俺を待ってる」


「は?帰さないわよ!浮気は許さないニダ!」


「帰るニダ!」


「やだ!」


「帰ります!」


「ムリ!」


「無理ってなんだよwww帰るぞ」


「そんなすぐ帰ろうとしにくてもいいじゃん……一緒にいてよ」



 ヘラは俺の服をつまむと、うつむいた。



「お前、何で急にそんなしおらしくなってんだよ」



 俺はその時のヘラがいつもより小さくて、か弱く見えた。いつの間にか俺はヘラを抱きしめていた。



「ぜ――ゼウスっ!??」


「いつでも俺のところに来ればいいじゃねぇか。嫁なんだからよ」


「そ、それが出来ればどんなに、、、いや、何でもないわ」


「ん?」


「い、いい?! また必ず行くけど、その時は覚悟してよね。あと、たまにでいいから、遊びに来てよ」



 ヘラはそう言いながら、引き出しから封筒を取り出すと俺に渡してくれた。



「何だよ、、、お前これ、10万も入ってるじゃねぇか!」


「ガチャ回すんでしょ? アタシの計算だとこれくらいないとあれコンプリートできないから」


「お前最初から……なぁ。この金でさ。今から一緒になんか食いに行かね?」


「えっ!?? いいの!?」


「お前も今日頑張ってたろ。なんか一緒にうまいもんでも食おうぜ」


「ゼウス、、、はぁ。シュキィ」



 俺はヘラの頭を撫でてやった。久々に触れた彼女のぬくもりとどこか懐かしい気持ちに心地良さを覚えつつ、俺達は飯を食いに出かけることにした。



………………


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