★英雄達の過去~純情~
※大幅な修正の必要あり(2022年現在)
修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。
――――ある春の日、ヘラとゼウスはお花畑に来ていた。
「ぜぇ~うぅしゅ~くぅ~んあ~そぼぉ~」
ヘラは鼻水を垂らしながら、寝転がるゼウスの隣に寝そべった。
「お、おい。あんまりくっつくなよヘラ。兄貴達にじろじろ見られるだろ」
「――えぇっ」
「そもそも俺、花とかよくわかんねぇし、キャラじゃねぇよなぁ。花畑来てもなんか遊ぶって感じじゃないしさ~」
ゼウスは難しい顔をしながら、傍らの花を愛でるように優しく撫でた。
「……ぅ、ぅ」
「あ……」
ゼウスは瞳にみるみる涙を溜めていくヘラの姿を見て、自分の発言を後悔をしたがもう遅かった。
「――――ぴぇええんぇぇええんうわあぁえああぁぁあああああんんんっ!!!!!!!!!!!!!!!」
「あわわわゎわわわわあっ――やべぇ!」
「うぇえええええええええええええええええええええええええええええええええん」
「うるさwwwwってか――鼻水! おいっ鼻水つけんなよヘラ!」
「えぁ……」
「えっ?」
「うぇうええええええええああ”ぁあぁっ”あぁああ”あええええぇぇぇんんっっっぅtぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ヘラが大泣きをするとその声によって辺りの空間はねじ曲げられ、空には暗雲がどこからともなく集い始めた。
「うわぁあああやめろヘラァっ、それ以上気を高めるなwww! わっわっ――わかった、俺が悪かったからごめんごめんっ!!!」
ゼウスはヘラの頭を腫れ物に触るかのようにそっと撫でてやった。
「ひっぃひっ……ありがとうゼウス君、へへ」
泣き叫んでいたヘラは、ゼウスに撫でてもらうと途端に泣き止んだ。それに伴って、辺りは再び元の景色へと戻っていく。
(ふぅ~ひやひやしたぜぇ……ほんととんでもねぇ能力だ)
「……っ」
ヘラは空を見上げるゼウスの腕に抱きついた。
「お、おい! ば、ばかっ急にどうした!?」
「ごめんなさい……わ、私、と――友達いなくて、ゼウス君にも嫌われちゃったらもう誰とも遊ぶ友達いなくなっちゃうの……」
「はぁ……またその話か。大丈夫だって、友達もすぐに出来るって」
「でも、いつも迷惑かけちゃって……それに、私なんかが人気者のゼウス君を独り占めにしちゃって」
ヘラはそう言うと、人差し指の先同士をつついて下を向いてしまう。
「別に人気者ってわけじゃないさ。ただ何もしてなくても注目されちまうだけだよ」
「すごいよぉ~ゼウス君は、今日もこうやって一緒に遊んでくれてることが夢みたい」
「俺がすごいんじゃねぇよ……まぁ、確かにハーデス兄さんから言われなかったら今日は来てなかったけどな」
「そ、そうだよね……私ったら一人で舞い上がっちゃって」
「……いや、そうでもないぞ?」
「え……?」
「実は俺も、お前と話してみたかったんだ」
「え――ほ、ほんと?」
「おう」
「それは、とってもとっても嬉しいな、へへっ」
「それと――」
ゼウスはヘラに向けていた体を少しそらすと、
「ゼウスでいいぞ。俺もお前のこと『ヘラ』って呼ぶから」
と、少し頬を染めながら呟いた。
「えっ、ほんとにいいの?」
「おう!」
「あ――ありがとう、ふへ」
ヘラはゼウスから特別の許可をもらうと、顔をほんのりと紅く染めてもじもじし始めた。
「やっぱりだ、お前笑うと可愛いんだな。いつも暗い顔してるからさ、せめて俺の前だけは笑っていろよ、な?」
「――っ!?? きゃ、きゃわいいなんて、そんなぁ……だよ?」
「いや、可愛いよ。俺、お前のこと好きかもしれねぇ」
「じぇ――じぇうしゅくん……も、もにゃぴぉ」
ヘラはゼウスの告白を聞くと、両手で顔を覆い縮こまる。一方のゼウスも、頬をかきながら少しばかり照れていた。
そんな微笑ましい二人の様子を、少し離れた小高い丘の上で二人の男達――ポセイドンとハーデス――が見守っていた。
「いやぁ実に微笑ましいですなぁ。うんうん、青春してるねぇ……おい、なに拗ねてんだよポセイドン」
振り向くとあさっての方向を見ていたポセイドンに、ハーデスは疑問を投げる。
「……だってよぉ、いっつもいっつもゼウスゼウスってみんなゼウスのことばっかりだ。あの子は神の子だ、選ばれし子だって、周りから何でもかんでもちやほやされちゃってよ」
「なんだ、妬んでいるのかポセイドン?」
「そうじゃないけど……そりゃあ、あいつはいいやつだけどさぁ。なんか不公平だよなぁ~ヘラちゃんみたいな可愛い子に思われちゃってなぁ。俺なんかまだ女の子と手を繋いだこともないんだぞ! 俺より年下の癖に生意気だ!」
「……なるほどなぁ。確かにゼウスは、我々よりも幾分か幼い。しかし年齢をもってして、その者の真価を見定めてよいのだろうか。たとえ幼児であれ、物事の本質を理解している者もいる。年齢や経験といったものさしでその人物をはかってよいだろうか?」
「……兄者の言いたいことは分かってるよ。あいつの努力も重責も考えたら、あれくらいの役得があったって良いとは思ってるよ」
ポセイドンは腕を組むと、下を向いて目を瞑る。
「まぁまぁ、ポセイドンよ。お前にも良いところはたくさんあるんだから、慌てる必要はないさ」
「じゃあ聞くけど、俺の良いところってなんだよ兄者??」
「え……えーっとだな、んーと、その~ですね」
「ないならいいよ!!!!」
「……すまん」
「……別にいいけどよぉ」
ポセイドンは明らかに不機嫌な顔をすると、再び愚痴を言い始めた。
「ゼウスもそうだけどさ~良いよな~兄貴もイケメンでさ?」
「いやぁ、俺はそんなことないぞ」
「とか言って、この前も女の子に言い寄られてたの見たぞ!」
「あー、まぁあったっちゃーあったけどな」
「ほらみろ、あーあ! 結局はどんなに努力をしたって中身より見た目が全てなんだよなぁ。だったら生まれてきた時点ですでに勝敗が決まってるじゃん。生まれながらに勝ち負けが決まってるってどんな糞ゲーだよ! くそっ!!!」
「あのなぁ……ポセイドン。一ついいか?」
ハーデスはいじけるポセイドンを見て一つため息を吐くと、真剣な表情で彼を見つめた。
「……なんだよ、改まって?」
「いいか、お前の言う通り外見が大切なものであるのは確かだ。だがな、それだけがその者の価値を決める本質じゃない。あくまでそれは魅力のひとつではあっても、絶対的なものではないのだ」
「そうかもしれないけど、結局はそれも綺麗事だろ。皆、口を揃えて言うよ。見た目より中身だって。でもその言葉の通り行動してるやつを俺は見たことがない」
「確かに、俺も綺麗事だと思っていた。だがな、形あるものはいつか必ず滅ぶ。器よりも中に入るもののほうが価値があるのだ。外面的美しさも大事だが、それ以上に志、愛情……そういった目に見えないものにこそ価値を置くべきなんだよ」
「志、愛情……今の俺にはどっちもないな」
「ないなら生み出すまでさ。見た目を変えることは出来なくても、志を持つことは出来る。誰かを愛することだってそうだ。そう、我々は思い立ったその時から変われるんだよ」
ハーデスはポセイドンの肩に手を置くと、軽く叩いて鼓舞した。しかし、ポセイドンはその手を払いのけると
「兄者はもう既にそういうの持ってるからそんなことが言えるんだよ! 持たざる者……俺の気持ちなんかわからないだろ!」
と叫んだ。彼はそのまま立ち上がると、そのままその場を立ち去っていった。
その姿を見送るハーデスは心の中であることを思っていた。
(分かるさ、ポセイドン……今は理解出来ないかもしれない。だが、いつかきっとお前にも分かる時が来る。かつての俺がそうなれたように……)
………………




