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俺ゼウスの生まれ変わりなんだけど、無双してたらボッチになった件について  作者: 紅羽 慧(お神)
すねはかじれるだけかじるのが当たり前じゃね?編
28/63

第二十五話 凡俗な息子 後編

※大幅な修正の必要あり(2022年現在)

修正が完了したら前書きの文言を消します(前書きのないものは基本的に修正の必要なしです)。それまでは隙間時間でちょこちょこ修正するので、修正完了版のみ読みたい方は前書きの有無で判断してください。よろしくお願いします。



「はぁ、はぁ」


「ぜぇはぁっぉっほっゴホッゴホッ!」



 アレスの懸命の抑え込みにより、十分ほど暴れていたゼウスは大きく咳き込むとようやく暴れるのをやめた。



「もう気が済んだかよ?」



 アレスは汗だくのゼウスを見ると、うんざりとした様子でそう呟いた。



「あぁ、このクソ暑い中暴れまわるもんじゃねぇなぁ?」


「ほんと、ちょっとは時と場所を考えて行動してくれよ。あー、しんどかったぁ。なんでバイト中の俺が、オヤジの面倒見なきゃいけないんだよ! もはや介護だろこれw。もう欲しいもん買ってとっとと帰ってくれよ!」


「何だよ~その言い方は、チェッ。久しぶりの父ちゃんとの会話だってのによ~」



 ゼウスは息子からの強めの拒絶に少し寂しさを覚えつつも、商品の積まれた棚の方へと体を向ける。

 そして目線を端から端へと移動させると、ウンウンと唸りだしてなかなか商品を取ろうとしなかった。



「どうした? そういえばさっきも、なんか悩んでそうだったな」


「ん~いやさぁ、全部欲しいなぁと思ってさ。欲しくね?」


「へ? ごめん言ってる意味が分からない」



 さも当然であるかの様に言葉を返すゼウスに、アレスは苦笑いをする。



「は? 分かれよ。この棚にあるやつ全部欲しいって言ってんだよ!」


「強欲すぎワロタwww」


「でも、いちいち買って持ってくのめんどくさいしなぁ。それに、部屋に置いとくとアテナがめんどくせぇのもダルいわ」


「あーなるほど、そゆことね。ねーちゃんエロに対してすげぇ厳しいからなぁ~自分だってスケベなくせに」


「確かにあいつムッツリスケベだよな」


「でもさぁぶっちゃけ、今ならネットでいろいろ見れるからそんなにエロ本買う必要なくね?」


「あのさぁ、お前は何も分かってないなぁ?」


「あ? 何がだよオヤジ」



 ゼウスはチッチッと言いながら人差し指を左右に振ると、全く理解できていない様子のアレスに持論を展開した。



「いくらデジタルが凄くてもさぁ、アナログの良さも忘れちゃいけなくない? なんか最近スマホとかタブレットとかで、ションベン臭いガキの『お勉強のデジタル化』が進んでるみたいだけどさぁ? おれっちから言わせれば100億光年早いわwwwって感じなんだよね? やっぱ王道は紙と鉛筆だろ!」


「確かに、それは一理あると俺も思う。……でもさ、エロ本がアナログである必要ある?」


「エロ本はさ~『枕に丁度いい』んだよねぇ! 一冊が薄いから高さの微調整がきくしさっ! 読みたくなったらすぐ取り出せるし、マジ神アイテム!」


「うわっきもっ! 言いたかったのそれだけっ!? 期待して損したwww」



 ゼウスは一瞬、息子の感想に対して言い返そうとするも上手い反論が思いつかず、少し恥ずかしそうな顔をみせると、黙ってしまった。



「なにちょっと照れてんだよw。あんたにも羞恥心てもんがあったのかよ。驚きだわ」


「いやぁ、まぁ確かにちょっと自分でも恥ずかしいかなって思っててさw。でも、っちに来てからよく眠れない日が続いてたんだけどね。エロ本を枕にすると、なんかこう落ち着くんだよねぇ。これがいわゆる安眠枕ってやつなのかな」


「そのまま永眠してください」


「――んだとっこのクソガキがぁっ!」



 ゼウスは息子の冗談を真に受けると、顔を真っ赤にして彼につかみかかった。



「ジョ、ジョークだってオヤジ! そうカリカリすんなよ~、せっかくの色男が台無しだぜっ!?」


「なぁ~んだよ、ジョークかよタコ。偉大な父であるこの俺様に向かって永眠してとか、時代が時代なら拷問の末打ち首だぞこれ? ジョークならジョークって先に予告しとけよこのグズ!」


「ちょっとした遊び心だよw。いやいや、これジョークなんだけどって前もって言っちゃってたら面白くないだろ……で何だっけ? ――あ、枕か。つーかさ、枕に使うくらいならそんなに冊数いらんでしょw。どうせ既にアホみたいに買ってんでしょ?」


「それもそうだなw! いや、それがさぁ。アテナのやつがさ、ほとんどおれっちのコレクション燃やしちまってよ。あれは過去に類を見ない凄惨な事件だったよ」


「……あ~、ねーちゃんならやりそー。流石にそれはオヤジに同情するわ。……あの人、マジでうざいよなぁ? 最近なんか知らんけど、やたらと俺のこと煽ってくるしさ……。そんなんだから顔とかスタイル良いのに、彼氏出来ないんだよw」


「……ん~彼氏とかできたら俺が速攻で潰しにいくけどさ! まぁ、アテナがお前を煽る気持ちも分かるかなー。正直今のお前、ガチでダサいよw」


「ははっ、今のあんたがそれ言っちゃうw?」


「――は? やんのかてめぇ! タイマンはれやおらぁ、かかってこいよw?」


 

 ゼウスはまたもやボクシングの構えをとりだすと、アレスの目の前で自慢の拳を突き出し、披露してみせた。



「……やりません。いい加減その中高生のヤンキーみたいな絡みやめてもらえるかな? 大体、なんでそんな好戦的なんだよw?」


「ふふん、これがおれっちなりのコミュニケーションてやつよ!」


「……単なるコミュ症なだけだろ?」


「……カッチ~ンw。お前もう許さねえからな!」



 ゼウスは、自分の言葉に対して反抗的でトゲのある返しをしてくる息子に苛立つと、顔をアレスに押し付けるようにしてガン飛ばした。



「――近い近い! わ、分かった分かった。俺が悪かったよ!!! オヤジは強い強い! 最強だよ最強! 俺なんか戦っても足元にも及ばないから、許してくださいよ!」


「やっと格の違いが分かったかタコ! はっは~ん、やっぱりおれっちって強すぎるわぁ~w」



 ゼウスは両手を挙げて、降参のポーズをとるアレスを見て勝ち誇った顔をした。そんなゼウスの自慢げで調子に乗った顔がとても腹立たしく見えた彼は――


(くそっ、親だからって偉そうにしやがって……)


と、内心イライラをつのらせていた。



「……で、結局何買うんだよ?」


「んーそうだなぁ……めんどくさいからいっそ、この店ごと買っちゃおっかなw?」


「――ははっ、冗談は顔だけにしとけよオヤジwww。な~にが買っちゃおっかなw?だよ!!! ハーデスおじさんならいけるかもだけど、ゼウスの財政じゃ無理だろそんなの!」


「なんだなんだぁ~お前。男はなぁ、でっかい夢を抱いてこそ男なんだよw! はなっから諦めるとかそんなダサい真似、このゼウス様ができっかよ!!!」



 そう言うとゼウスはズボンのポケットからガマ口の財布を取り出し、クシャクシャに押し込まれた万札を数え始めた。



「ひーふーみー……ざっと13万か。ま、こんだけありゃあ値切れば店の一つや二つ買えるだろw。よゆ~、なんてったっておれっちはゼウスなんだからよ!」


「……」 


 もはや突っ込む気すら失せていたのか、アレスは腰に手をおくと呆れた様子でゼウスを見ていた。



「大体エロゲの初回限定版が一万円くらいだから…………さすがのおれっちでも、これだとちと厳しいかなアレスw?」



 ゼウスは店内の品揃えと手元の万札を交互に確認すると、明らかに厳しそうだということが分かり、彼に確かめるように聞いていた。



「当たり前だろw」


「だよなー。いくらおれっちでもこの手持ちじゃ厳しいか~くそぉ~……まぁ、今回は見逃してやりますかw。でもいつか絶対――この店をおれっちのもんにしてやっからな! 覚えとけよ極悪人っ!」



 ゼウスは少し残念そうに肩を落とすと、アレスにビシィッと人差し指を突きつけながらそう言った。



「いや、俺に言われても……えっ、ていうかちょっと待って!」


「あーん? 何だよ極悪人」


「極悪人て呼び方はほんとやめてw。いやっ、何でオヤジそんなに金持ってんのかと思ってさ」



 アレスは父の無駄な行為を失笑しながら見ていたが、財布に金をしまう父を見て思いのほか彼が大金を持っていた事実に驚嘆すると、その理由を聞かずにはいられないでいた。



「――あ? 何でってそりゃ、ハーデスニキからもらったんだよw」


「オジサンから……? なんで??」


「なんでって、そんなん小遣いに決まっとるやん? おれっちは全知全能の神なんだからそれくらい――」


「――ふざけんなよっ!」



 アレスはゼウスがさも当然かの様に返した言葉にいら立ちを隠しきれず、怒りを露わにした。



「――おいおい、急にマジギレしちゃってどうしたんだよアレスw?」


「どうしたもこうしたも……オヤジも母ちゃんも、俺が就活しながら必死にバイトしてるってゆーのに、遊んでばかりいやがって! ふざけんなよこらぁあ! これはどういうことだぁっ!」


「そんなに怒ることか? 前からそうじゃねえかw」


「俺がどんなに……どんなに大変な思いをしてると思っていやがる!」


「――おっ!! なんだなんだぁ~やんのかクソガキwww?」


「やっ――――」



 アレスはとっさにゼウスの挑発に乗りそうになったが、冷静に考え直すと口をつぐんだ。



(ここでオヤジとケンカをしても、何も俺にとってメリットなんかない……むしろ就活に支障が出かねない。落ち着け、落ち着くんだ俺!)



「ん? なんだよ??」


「やって……やらない。……今バイト中だから」

 

「なんだよやんないのかよ、面白くねぇな! すっかり良い子ぶりやがって……オラ知ってるゾ! おめぇみてぇな奴を『真面目系クズ』って言うんだ!」


「二回も言わなくていいからっw! そんなのはオヤジに言われなくても分かってるさ。でも、親父は『ガチのクズ』な分、救いがないけどなw。真面目な俺の方がまだマシだわ!」


「……へ~、昔と違って随分おれっちに食らいついてくるようになったじゃんw。遅めの反抗期かな?」


「別にそんなんじゃないけど……とにかく俺はやらないから。今、バイト中だから!」


「……ちぇー、面白くないやつ! しょうがねぇ~、帰ったらオナニーでもしてこの行き場のないモヤモヤを発散するか!」



 ゼウスは頭の後ろに手を回すと、退屈そうに言った。



「……オヤジってほんと性欲の塊だよな。若いときは今より凄かったってよく聞くけど、どんだけだよw」


「――おぉ~おれっちの武勇伝知ってんのか! ……そうだなぁ。おれっちの若い時は、『一日オナニー二千回』くらいはやったかな?」


「――はっ!? 嘘つけよwww。そんなんチンコ消えて無くなるわっ!」



 アレスはゼウスの衝撃的な言葉に驚くと、信じられないといった様子でツッコミをいれる。



「は? 別に無くならないんですが?? そもそも消えてたらお前生まれてねーだろぉがボケッw!」


「たしかにそうだけど、嘘だろ……オヤジ。アンタ、いろいろぶっ飛び過ぎだろ」


「お前のチンコが単に雑魚なだけだろ。――まぁな! 若いときは『絶倫の貴公子』と呼ばれたからな!」


「……ただのイかれたオナザルの間違いだろw?」


「……ふーん。上級オナニストにして、オナニー研究の第一人者であるこの俺にたてつくとか、こりゃあ学会追放あるでこれ? ……いいだろう、オナニーで鍛えあげられた右腕から繰り出されるこんしんの一撃、『オナニーパンチ』を味わってみるかw?」



 ゼウスは右腕の拳を突き上げながら、ニヤリとアレスの顔を見た。



「……いや、マジで遠慮しておくわw。汚ねえから常時手袋を身に付けてもらえるかな?」


「――汚いだとぉっ? ……おいおい、大自然の営みにケチつけるとか神にでもなったつもりかなw? はぁ……おまえオナニーしないの? えっちは??」


「一応、神なんだけどなぁ。……オナニーかぁ。ん~、そう言われてみれば最近は忙しくてさっぱりだな~。ていうかそもそもまだ俺……童貞だし」


「えぇえええっ!!! うっそだろおまw! ポセイドンニキかよwww。ちょっとこれ、いよいよ父ちゃん心配になってきたゾ~。お前なら……そこら辺の女なら寄ってくるだろ? 顔は悪くないんだしよぉ、うん」



 ゼウスは息子の顔をまじまじと見ると、うなずきながら言った。



「あのおじさんと一緒にすんな! まぁ、自分じゃよくわかんないけど顔は悪くないらしいよ? それよりも……」


「ん? それよりも……? 何だよ、あぁん?」


「……いや、何でもねぇわ」


「ハッキリしねぇ奴だなぁ!」


「と、とにかく俺はオヤジと違って本当に好きな女の子としかエッチなことしたくないんだよっ!」


「ふーん。――なら好きな子は出来たのかよ?」


「一応……大学で気になってる子はいる」


「へぇ~w。――――で? 告白はしたのかよ?」


「いや……まだちょっと話しただけ……」


「ダサすぎワロタwwwww。だからお前は童貞なんだよ! 『童貞の道程は険しい』ってかw? まぁ、精々悩めよ少年w。ハーハッハッハ!」


「――ったぞ……」


「あーん? 声が小せぇよw! もっとハッキリしゃべれや極悪人!」


「もう怒ったぞぉっ!! ――くそっ言いたい放題言いやがって……そんなに言うならやってやろうじゃねぇかっ!!」


「お、やっとやる気になったか! ははっ、それでこそ俺の息子だぁっ」


「仏の顔も三度までだぜオヤジ? 俺を怒らせたこと死ぬほど後悔させてやるよ!」


「な~にが仏だw。この極悪人がぁっ! かかってこいやぁ!」


「望むところだぁっ! 決闘だ、決闘!」


「そうこなくっちゃなぁっ!」



 アレスはとうとうゼウスの煽りに我慢できず、決闘をすることにした。



「……あ、一応決闘の前に軽くルール確認しとくけど、ケラウノス禁止ね? あれだけはダメ絶対。それから、全体的に反則技全部禁止ね!」


「はぁ? 当たりまえすぎワロタwww。男と男の熱い戦いに反則技なんか使うかよアホか! ケラウノスとか使うまでもねぇわ」


「いや、オヤジの場合さ。前もって言っとかないとほんと何するかわかんねぇからさ……」



 アレスは心当たりがあるのか、苦い顔をゼウスに見せる。



「はぁ……お前も随分タマのちいせぇ男になっちまったなぁ~w。父ちゃん情けないゾッ! しょうがない、お前のその腐った性根を叩き直してやんよ! あ、おれっちが勝ったらここのラノベ全部もらうからなw?」


「はっ上等だぜ! じゃあ俺が勝ったら就活で必要な金、全部負担してもらうからな!」


「お茶の子さいさいすぎワロタwww。――ま、テメェが勝てたらの話だがなw! 吠え面かくなよクソガキ」


「それは俺のセリフだぞ親父www。バイトは……あと一時間ちょいで終わるから、ちょっと待っててくれよっ!」



 アレスは腕時計の針の位置を確認すると、ゼウスにそう告げた。


 しかし、彼の言葉を聞いたゼウスは


「え……すぐやんないなら、普通に嫌なんだけどwww。待たせるのはいいけど、待つのはおれっちの仕事じゃないじゃん?」


と、急に乗り気ではなくなっていた。



「――えっ、さっきまでめっちゃ好戦的だったくせに何でっ!?」


「いや何でって、これからモエミちゃんのアニメの時間だからさぁ。家に帰って観ないと! ――じゃ、そゆことでまたの機会に!」


「はあっ!? ちょっと待てやwww何だよそれ?」



 まるで何もなかったかのようにその場を立ち去ろうとしたゼウスを、アレスは当然ながら引き留めていた。



「えっ、お前もしかして知らないのっ!? 激萌え美少女モエミちゃんを知らないとか――世間知らずのゆとり世代かな?」


「……いや知ってはいるけど、アニメの放送時間までは知らねぇよwww。ていうか、オヤジほどゆとりって言葉が似合うやつもいねえぞ」


「まぁな! おれっちは常に心にゆとりをもって堂々としてるイケメンだからな! モエミちゃんまじ神作なんだよね! あれ、もう必修教育にすべきだろwww。――じゃそゆことで俺、家帰って観なきゃだから!」


「はぁっ? そんな大事なら録画しとけよっクソ親父!」


「……何言ってんのかなアレス君w。録画してるに決まってんじゃん常識的に考えて? 非常識な子だなぁwww」


「はぁ!? 意味不明なんだけど……じゃあ何で帰る必要があるんですかね?」


「そんなんリアルタイムで見た後に、そのまま続けてもう一回録画で観るからに決まってんじゃん? 常識じゃね?? 録画の正しい使い方知らないとかw。――だから就活上手くいかねぇんだよオメーはwww」


「……もういいよ。ほんとめんどくせぇなw。……じゃあ、明日はどうだ? この店出て、右行ったところに公園があるからさ。時間は、え~っとシフトがないのは――」



 アレスは壁に張ってあるシフト表を見に行くと、指でなぞりながらしっかりと確認していた。



「……丁度今くらいの時間なら大丈夫だわ、うん。四時くらいだね」


「あぁ、分かった分かった四時な。――逃げんじゃねぇぞタコwww」


「そっちもな! ぜってぇ負けねぇからな! ボッコボコにしてやるよwww」


「おうおう、おめぇも言う様になったじゃねぇかwwwww。それでこそおれっちの息子だ! 遅れんなよタコwww遅れたらしばくからな?」


「……上等だぜ!」


「ははっ、震えて眠りやがれwww。じゃあな、クソガキィッ!」


「あぁ! 気を付けて帰れよクソオヤジィッ!」



 二人は喧嘩上等といったオーラを出しながら、口々に相手を挑発すると別れたのだった。



(へへっ、この勝負もらったわ! 力を失ったオヤジが俺に勝てるわけねぇことなんて、少し考えれば分かるのになw。……これで就活に専念出来る!)



 アレスが勝ちを確信して、微笑んだその瞬間――


「……アレス君。ちょっといいかな?」


と、彼は背後から強面こわもての壮年の男に肩を叩かれていた。



「あ~? 何だよ今良いとこなのに……て、てててて店長っ!?」


「アレス君。何をしていたのか――きっちりと説明してもらえるかな?」


「あ、あわわわわ……申し訳ありません」



 口調は優しいが恐ろしく気迫のこもった店長の声を聞いたアレスは、頭を下げて必死に謝るしかなかった。

 このあとアレスはスタッフルームに連れていかれると、店長にしこたま怒られ厳重注意を受けたのだった。




………………




「……はぁ」


 バイトが終わり、帰宅途中のアレスは店長に怒られたことを何度も思い出してはため息を漏らしていた。


(くそっ! なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ。……こうなったのも全部オヤジのせいだ! 明日は……やってやる! 俺はやってやるぞぉ!)



 アレスは父との戦いにより一層、闘志を燃やした。




~次の日~




「……遅いぃっ! あんのクソオヤジ、今どこにいやがんだぁっ!!! せっかく就活休んで来てやってんのにっ!」



 これでやっとバイトから解放される――と、並々ならぬ決意をもって戦いに臨んでいたアレスは、待ち合わせ時刻の三十分前に到着し、既に準備運動を終えていた。

 だが、決闘の時刻になってもゼウスはいっこうに姿を現さない……。



「嘘だろ……もしかして――道でも迷ったのか? いや、さすがにそれはないよな?」



 子供たちの笑い声が溢れる公園の中心で仁王立ちをしていたアレスは、あれやこれやとゼウスが来ない理由を考えては、ぶつくさと不満を口に出していた。



「さすがの親父も、まさか忘れてるってことはねぇよな? 貸したもんは忘れたとか言ってよく返さないことはあるけど、約束したの昨日だしなぁ……。自分から仕掛けたんだし、流石に来るよなw?」




 

 一方その頃ゼウスは――――


「ぐが~すぴ~」


と、腹を出しながら盛大なイビキをかいて寝ていた。彼はアレスと別れた後、徹夜でアニメを観ていたため寝る時間が遅くなっていたのだ。



「ぐぉ~ぐぉ~~」



――ジリリリリリリ……。



 部屋に時計のアラーム音が鳴り響く。彼は、目覚まし時計を四時にセットしていた。



「zzz……ん~? 何でこんな時間に時計が鳴るんだ? 今何時だよ……四時過ぎか」



 ゼウスは寝ぼけ眼で時計をみると、首をかしげる。


 いくら不真面目なゼウスとはいえども、息子との戦いには赴こうという意思は持っており、彼はちゃんと公園に行くつもりでいた。



「……んー、なんか約束してた気がするんだけど……ま、いっかw! どうせ大したことじゃないっしょ! あ~、二度寝さいこぉおおおおっ!!!」



 ゼウスはアレスと大事な決闘の約束をしていたが、思い出すことは出来なかった。彼はあまりにもあっさりと睡魔の甘い誘惑に負けると、再び眠りについてしまった。




………………




~三時間後~



「…………」



 アレスは公園の中心で、一人ポツンとたたずんでいた。少し前まで周りで遊んでいた子供たちも皆家に帰ってしまい、人気のなくなった公園で時折鳴くカラスのカーカーという鳴き声が、よりいっそうアレスの惨めさを際立たせていた。



「……帰るか」



 彼は力なく呟くと、夕闇の漂う中トボトボと家路についたのであった……。



………………

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