私はただあの方の幸せだけを
『霊廟の森』での、密やかな・・・
私は地の精霊王様の御息女様が司る『霊廟の森』に住む水の・・・元・第五高位精霊でございます。
本来ならば、水の精霊王様のお傍にあり、あの方を支えることを至上の役割としておりました。
けれど、新しき風の御方と出会われた・・・あの方は変わってしまわれた・・・
風に愛された、まだ人であられたアリシア様は世界の為に旅をなさいました。
学園の実習で、悪しき心を持って世界の歪みを増やす要因となる者たちと戦いになり、この世界の危うい状況をお知りになると、その優しき心を痛ませ、精霊王様方の前で世界を救いたいと旅に出ることを誓われました。
先の風の御方が封じられ、他の御方がたが力を弱らせたが故に歪みが増えてしまった先の時代とは真逆に、今度は風の力が弱まり歪みが増える事態となりました。
それでも、風の精霊たちの努力により世界に危ういまでも平穏が戻ったのです。
いえ、戻ったと思われたのです。
私たちが気づかぬ内に、いいえ気づきたくなかっただけなのでしょう。私たちも、御方がたも。
密やかに増えた歪み
それによって煽られた人間たちの負の感情
魔物たちが次第に増えていきました。
先の時代には稀であった魔人や邪精霊までもが多く見られるようになりました。
風のものたちからは西の海の果てには魔人たちだけの大陸があると聞くようになりました。
私の同胞たちも西の海へは行きたくないと言い出す始末。
世界は確かに壊れようとしていたのでしょう。
アリシア様は旅立たれました。
アリシアに賛同する人間の子等も、そして精霊やエルフの方も一緒でした。
時には悪しき人を。
時には悲しみに捕らわれた精霊を。
アリシアは涙を流しながらも戦いました。
火の御方も、あの方も、それはもう気にかけておられて・・・
よく御顔を見に、助けに行かれておりました。
でも、火の御方はどうかは分かりませんが・・・
あの方は水を司る方。
水は世界のあらゆるところにございます。
川に湖、そして海。
それらには多くの命が息吹いていますし、それを糧とする人間もいます。
ましてや、水が無くては人も動物も植物も生きることは出来ません。
・・・風の・・先の御方が封じられていこう、先の御方が管轄としておりました天候も、あの方が引き受けておりました。
・・・・・あの方は、アリシア様が気にかかるあまり・・・・・・
そうですね。
あれは、他の方々にアリシア様を取られたくないと思われたのでしょう。
あの方にとって、アリシア様を孤独を癒してくれる唯一の存在だと、口にしておりましたから。
私たちも努力いたしました。
あの方がアリシア様のお傍にいる事で癒されるのだというのなら、と。
ですが、あの方がお戻りになることは次第に減り、
ついには上位精霊が一人、また一人と力の消耗で眠りについたり・・・消えてしまったり・・・
私は許されぬことだとは思いましたが、あの方に進言することを決意しました。
お戻り下さい、と。
お役目を果たしてください、と。
頭を下げ、願いでた私に投げられたのは、アリシア様のお言葉でした。
『水の精霊王様は今までお一人で頑張ってこられた。
水の精霊王様にだけ何でもかんでも押し付けるなんてよくないわ。
少しくらいお仕事を休む時をあげてもいいでしょ』
酷い
そう思いました。
あの方をこれまで私たちは支えてきたつもりでした。
あの方が望まれるならばと快く送り出し、身を粉にして代わりを果たしていたつもりでした。
何よりつらかったのは
あの方がそれに感動され、涙を流し、アリシア様を抱きしめられたことです。
それは、アリシア様の言うことを肯定したということ。
そして、あの方は私に仰られました。
そんなに仕事を果たしたくないというのなら何処へなりとも行けばいい。
私は止めない。
勝手にしろ。
この身が砕け散るような衝撃でした。
それは私の存在を否定する言葉です。
それからの事は、はっきりとは覚えていないのです。
私を拾ってくださった方によれば
私は崩れゆきそうな身体で空を漂っていたのだそうです。
水の精霊王に存在を否定された水の精霊など、その場で消え去らなかっただけ僥倖というもの。
その方は私を『森の姫』へと預けて去っていったそうです。
どなたなのかは知りません。
『森の姫』も教えてはくれませんでした。
それから私は『森の姫』により『霊廟の森』に流れる小川と小さな池と在るものとされ、
ここまで回復することが出来ました。
『霊廟の森』の中にあるものは、それが水であれ、闇であれ、光であれ、『森の姫』に全てが優先されるのだそうですね。
だから、あの方は私がここにいることはご存知ないのでしょう。
いえ。
もう、私のことなど忘れておいででしょう。
ですが、私はあの方を恨んでなどいないのです。
ですから、どうか。
お願い申し上げます。
全ては『森の姫』より聞き及んでおります。
『森の姫』をお叱りにはならないで。
私のことを思って、教えてくださったのです。
この度の事が滞りなく進みましても、
あの方を、水の精霊王様を、お助け下さいますよう。
確かに、疲れておいでだったのです。
水の領分は他の方がたよりも命に関わることが多く、あの方はその性分故に何事も手を抜くことができなかったのです。
私たちは、それを手伝うしか出来なかった。
私たちが出来るものだけでも、お任せ下さいと願い出れば、無理やりにも奪ってしまえば良かったのです。
確かに。
先の御方がいらっしゃれば、本来の水の領分だけで、手に余るなんてことにはならなかったのでしょう。
それについては、罰を受けます。
私たちも一緒に。
だから、どうか。
よくお考えになってください。
どうか、
どうか・・・・
魔物
力のバランスの崩れから『歪み』、人々の負の感情や欲望から『瘴気』が生まれ、それらが凝り固まって命と結びつくと魔物が生まれる。
魔物は、その生まれのせいで整ったものや生き物を襲います。
『歪み』『瘴気』+動植物=魔物
+人間=魔人
+精霊=邪精霊
魔王は、長い時を経たり共食いをしたりで誕生する最強の存在。
ラスボスの邪精霊は精霊王が元なので魔王より強い(別格)
まぁ、つまりは自業自得な感じってことで。




