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第7話






 目の前では中世ヨーロッパの騎士同士の戦いのような何かが繰り広げられている。

 まあ片方は悪魔騎士で片方は首無し騎士なんですけどね。 

 何て馬鹿なことを考えていたら3体の悪魔騎士のうちの1体が首無し騎士の突撃によって見事ランスの串刺しとなった。

 悪魔騎士にはラスト・カース能力がついてないからそのままさようならだ。

 ……サクリファイス用のストック化はしたけどね。 


 首無し騎士ことデュラハン。

 同じく首無しの馬に乗る首無しの亡霊騎士。

 意外と強いのよ、コイツ。

 ネクロマンスでも召喚出来るのだが、コストが高い。

 ランクで表現するなら

 亡国騎士がネクロマンス2

 悪魔騎士がネクロマンス3

 デュラハンはネクロマンス5

 いくら悪魔騎士が3体居るからと言って単純にネクロマンス9相当になる訳ではないからな。

 一瞬でも1対1な状況が生まれれば一気にやられることもある。

  

 ああ、また1体やられたな。

 これはもう悪魔騎士くんの負けだね。


 俺はスキルレベル上げのためにチュートリアルダンジョンの奥にあるチャレンジダンジョンの中に居た。

 こっちは様々な条件のチャレンジが出来て、達成すると色んな恩恵がある。

 ただし結構凶悪なものが出てくるため気軽に挑戦した初心者をぶっ殺す初心者キラーと呼ばれた場所でもあった。

 実際、首無し騎士なんて明らかに初心者では手に負えない相手が出てきてる時点で、如何にここが殺意に溢れた場所か理解してもらえるだろう。


 ……という訳で1対1になった時点で悪魔騎士くんに勝ち目などない。

 健気に頑張っていたけど最終的に首無し馬の後ろ蹴りが綺麗に入って壁に激突して消えていった。


「さて……どうしようかな」


 ここで同じ溜まった分を使用すればサクリファイスでデュラハンを呼び出すことも出来るが……


「うん、たまにはアイツを使ってみるか」


 何を呼び出すか決めた俺は手を前に突き出す。


「サクリファイス:理不尽な生贄」


 地面に魔法陣が現れてそこから人が現れる。

 ただし両手が後ろ手に手錠で縛られており、顔には汚い袋が被せられ、足には鉄球のついた足枷までついている。

 更に胸の中心には、不気味に脈打つ心臓のようなものが埋め込まれていた。

 夜道でこんなのが出てきたら誰だって叫ぶだろう。

 そんなグロテスクで、戦闘能力が無さそうなのが登場する。

 出てきたソイツは、重い鉄球を引き摺りながらデュラハンの方へとよろよろと移動しようとしていた。

 対してデュラハンはそんなの関係ねぇとばかりにランス片手に騎馬突撃で突っ込んでくる。

 そして手始めと言わんがばかりに突撃しながらランスで生贄くんの不気味な心臓っぽいものを綺麗に貫く。


「ラスト・カース」


 汚い袋の中から僅かにそんな声が聞こえた気がした。

 すると生贄くんは爆弾でも爆発したかのように身体が爆発四散してデュラハンに大量の血肉をぶちまける。

 こっちの足元まで血肉が飛んできて、ちょっと焦った。

 流石にアレは食らいたくない。

 亡霊故に気にしないのか突撃を更に加速させたデュラハンは、そのまま今度は俺を串刺しにするつもりでこちらに来る。

 そして目の前まで迫ってきて、ランスを構えた瞬間だった。


 ―――ッ!?


 その瞬間、確かにデュラハンの焦りが見えた気がした。

 奴のスグ後ろの地面が何時の間にかバケツに入った墨汁をぶちまけたような真っ黒な水たまりのようなものが広がっている。

 そしてそこから無数の真っ黒な手がデュラハンに絡みついて動きを完全に止めていた。

 あの勢いがついた状態の騎馬突撃を一瞬で完全停止させたのだから、そりゃデュラハンも驚くだろうよ。

 だが、これこそ生贄くんのラスト・カースだ。


 理不尽な生贄

 かつて寒村で両親を失い孤児となった子供が、神の怒りと呼ばれた流行病を止めるためと称して生贄にされた子供の霊。

 その身体には無数の拷問傷があり、無抵抗で死を受け入れるようになるまで躾けられたらしい。

 ……というゲームでは胸糞悪い設定だったコイツ。

 死の間際に放つ、己の命を贄とした最後の呪詛であるラスト・カースで子供が願ったもの。


『みちづれ』


 己を死に追いやった者への憎悪。

 それこそが理不尽な生贄の持つ、唯一の武器。

 無数の黒い手を振り解こうとするも振り切れず、むしろ更に増え続ける手にどうしようもなく黒い水溜まりの中へと引きずり込まれていく。


「未練のある騎士でもやはり―――というかそうなったからこそ逆に耐性など無いか」


 このラスト・カースは即死判定。

 つまり『呪術と即死』のどちらか、もしくは両方の抵抗値が高くないと逃げ出すことは出来ない。

 そして―――デュラハンには耐性などないのだ。


「まあ即死耐性なんて上位クラスじゃないと持ってないから仕方が無いんだけどね」


 そうこうしているうちにデュラハンは、そのまま黒い水溜まりのような何かの中に完全に呑み込まれる。

 すると水溜まりのようなものも跡形も無く消えた。


「―――やっぱり貴方、アイアンじゃないよね?」


「盗み見なんて随分な趣味だな。……やっぱストーカーか?」


「こんなに可愛いストーカーなんて居ないわよ!」


 後ろには、最初見た時とは明らかに違う恰好をした泉が居た。


 羽飾りの付いた帽子

 フリルの付いたポンチョ

 魔力の宿ったプリーツミニスカート

 明らかに魔物の素材で出来たロングブーツ

 右手にはミスリルのショートソード

 左手には魔力矢が装填されているボウガン


「ん? 何? あ!似合ってる?」


 呆然としている俺を放置してその場でくるっと回って見せびらかす泉。


「……お前、その装備どうしたよ?」


「あの店の使っていいっていったから」


「俺が使えっていったのはチュートリアル用の貸出って書いてるコーナなんですが?」


 コイツ……店に売ってる方の装備品をフルセットで装備してやがる。


 ……あれ?

 そもそもならコイツどうやってここまで?


「お前、トークンなんて持ってないだろ? どうやって店出たんだ?」


 ゲーム内のショップは、金を払わないと出れない。

 一応万引きみたいなことも出来るのだが、それをすると怖いお仕置き部隊に追い回されるハメになる。

 一時期ゲーム内では、このお仕置き部隊をどう攻略するかという謎なことに情熱を燃やした連中が居たっけか。

 あいつら結局、お仕置き部隊を攻略出来たのだろうか。


「え? まいどありって言われて普通に出れたけど?」


「―――まいど、あり……だとッ!?」


 俺は急いで手持ちにある預かりカードを確認する。

 このカードは、大量のトークンと呼ばれるお金を持ち運びするのが面倒だという声から生まれたアイテムだ。

 文字通り銀行のキャッシュカードみたいなもので商人にお金を預けておける。

 便利な点は、どの店でもお金を入れたり出したり出来るということだろう。

 誰かに取られても本人以外は使用出来ず、無くしても再発行代を支払えば再発行して貰えて非常に便利なアイテムとなっている。


 で、そんなカードの残高を確認すると―――


「思いっきり減ってるじゃん!!」


 俺から回収したのかよ!!

 てか何で―――あっ!

 パーティーか!?

 俺とアイツでパーティーとして認識されたのか!?


 商人のエグイ所は、パーティー内の買い物で片方が支払いをしない場合は強制徴収で仲間から回収してくる所だ。

 これで野良PTを組んで他人に支払いを強要する極悪プレイが多発して、かなりトラブルになったことがある。

 そのため特に野良PTは組んだ後には買物に一切行かないという暗黙のルールが出来てしまう元となった。

 そんな経緯があるものだが、ここが別世界ということもあり、すっかり忘れていた。


「まあ、いいじゃない。私も可愛く、強くなったことだし」


 何となく状況を察した泉が、そんなことを口にする。

 いやお前、そういう問題じゃないんだよ。


「―――はぁ、もういいや。返品なんて機能無いんだし」


 もう過ぎてしまったことは仕方が無い。

 コイツを働かせて使った分ぐらいは回収しよう。


「そういやお前、スキル取得はどうしたよ」


「あ!そう!聞いて聞いて!」


 そう言って自慢げに初期の武器スキルを覚えたと言い出した泉。

 俺は気にせず鑑定眼で確認する。


・大宮 泉


 職業:アドベンチャラー


 生命力:90

 精神力:180


 力:7

 知力:21

 体力:5

 素早さ:9

 器用さ:11

 抵抗値:8%

 運:18


◇スキル

 親和力:レベル2


 魅了:レベル2


 逃走術:レベル4


 警戒心:レベル2

 

 財宝探知:レベル3

 

 剣術(片手剣):レベル1

 

 弓術ボウガン:レベル1



 思わず泉の頭にチョップを入れる。


「―――でさ~、あいたっ!」


 頭を押さえて苦しむ泉に俺はため息を吐きながら説教する。


「せっかくの武器適性潰して何で片手剣とボウガンに絞ってるんだよ! 全ての武器を効率的に使えるようになっとけって言ったのに! そしてどうして逃走術がレベル上がってるんだよ! お前さてはほとんど逃げ回ってたな!?」


 全てがある程度使える武器適性スキルは、育てると全ての武器で達人級の腕になるのでかなり後半に活きるスキルだ。

 確かに1種に絞った専門スキルの方がその武器に対しては強いのだが、かといってせっかくの武器適性を潰す必要はない。

 このエリアはスキル変動が起きやすいため、そうならないように満遍なく色んな武器を使えと言ったのに……。

 しかもよりにもよって片手剣とボウガンってお前それ完全にアサシンコースだろ。

 いくらアベンチャラーが自由でどの系統にもいける職業だからって自由過ぎるわ。

 更にどうして逃走スキルが、もうレベル4なんだよ、使い込み過ぎだっての。

 散々説教していると反発してきたので、その辺の雑魚相手に戦わせてみる。


 動きの速い狼や、タフなゾンビなど色々な敵が登場するも意外と綺麗な立ち回りをしていた。

 ミスリルの剣は非常に軽いというのもあるが魔力と相性が良く、魔力を流すことで切れ味が増すため非力な女でも片腕で振れて雑魚なら綺麗に両断出来る。

 魔力矢を撃つボウガンは、魔力で矢が自動装填されるためボウガンでありながら連射可能だ。

 そのため矢の装填問題が無く片手で気軽に使用でき、魔力がある限り矢が撃つことが出来る。


 ボウガンで処理しつつ接近してくる敵を剣で対処する。

 スキルの恩恵もあるためだろうか、動きもまあ素人にしては悪くない。

 だが完全に動きがシーフなどの軽装隠密の一撃必殺系だ。

 まあ、戦えなかった頃に比べればマシか。

 よく見ればブーツのおかげで速度上昇してるっぽいな。

 他の装備は防御系か?

 どちらにしろなかなか戦えるようになったなと思った。


 ……10分前ぐらいまでは。


「もう、ぜぃ、ぜぃ、無理……」


 10分後ぐらいには肩で息をする泉の完成である。

 当たり前の話だ。

 魔力量なんて基本的に増えない。

 装備で容量を増やすなんてことも出来るが、それぐらいしかない。

 あとは転職するとか永続上昇の秘薬を飲むとかだろう。

 そして調べた限りでは、この世界では恐らく転職を再覚醒と呼ぶらしい。

 しかも順当な手順を踏んだ転職ではなく、戦闘中に特定の条件を達成しての強制転職と呼ばれる転職の方だけみたいだ。

 ゲーム内では転職しない方が補正が入って無双出来る謎状態が一時期流行ったことがある。

 その対策として強制転職が実装された。

 どうやらこの世界でもあるらしい。


 で、何が言いたいかと言えばだ。

 そこまで魔力量がある訳でもないのにミスリルソードに魔力を使い、ボウガンに魔力を使い、更にスキル使用で魔力を使えばそりゃ早々に枯渇するよと。

 せめて魔力回復薬ぐらい用意しておけと言ったら―――


「アレ1本いくらすると思ってるのよ!」


 と言われてネットで調べると初級魔力回復薬で1本100万らしい。

 まあ命のかかった場面で魔力を少しでも回復出来ると考えれば安いのか?

 それともここは高いと文句を言えばいいのか。


 ぶっちゃけ回復量が微妙な割に1本使用ごとのクールタイムが回復アイテム全般にかかるというクソ仕様。

 しかも売っても大した値段にならないからと自動アイテム整理を利用して倉庫に蹴り込んでいたアイテムだ。

 確認すると863個もあった。

 ちなみに初級体力回復薬も922個ある。

 初心者向けの最初しか使わない……下手すれば最初でも使わないアイテムだからなぁ。

 全部売ると8億超えになるのか……なんて思いながらも1本取り出して泉に渡す。


「ん? は? え?」


「魔力枯渇でしんどいんだろ?」


「いやだからこれ1本100万はするんだけど……」


「まだまだあるから心配するな」


「そういう問題じゃ……」


 うんうんと唸り、100万がどうこう言っていたが結局飲んだみたいだ。

 おかげでかなりマシになったと言いながらも複雑そうな顔をしていた。


「ラストエリクサー症候群で死ぬタイプだな、お前」


「何それ?」


「貴重なアイテムだからと使い渋って、結局最後まで使えずに終わる奴のことだよ」


「失礼ね、ちゃんと使う所では使うわよ」


 そう返事を返す泉を見ていて思う。

 ……コイツを使いものになるレベルまで育てなきゃならんのか、と。

 







*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。

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