第12話
■side:大宮 泉
「キャーッ!!!」
「助けてぇー!!!」
いつもの見慣れたはずの学校は、もはや地獄のようになっていた。
ロクに抵抗出来ない学生達は単なる餌でしかない。
一方的に捕まり、嬲り殺しにされる。
むしろ一撃で死ねた連中の方がマシだろう。
そんな地獄を駆け抜ける。
道中の雑魚なんて相手してられない。
目指すはボス。
こいつを倒さない限り出られないし助からない。
救助を待つ?
あり得ない。
協会が救助チームを派遣する時は、いつも浸食から12時間以上は経過してからだ。
それだけの時間があれば中に居る人間はとっくに皆殺しにされている。
だったら疲労しきらないうちに、ワンチャンスに賭ける必要がある。
「くそっ!どうなってやがる!?」
ボスを探していると2階の廊下でB級自慢していた奴を見つけた。
いつも引き連れている取り巻き連中と共に腕に怪我をしながらも、剣を振り回して戦っていた。
それを見つけた瞬間、躊躇わずにボウガンを撃つ。
こちらに気づく間もなくオオカミ男が2体倒れる。
一瞬それに意識が行った隙を狙って、B級男が剣を振り抜いて残りの敵を倒す。
「まだやれるよね?」
貴重な回復アイテムをB級男に投げると躊躇わずにそれを使って腕を治療した。
しかし、これでB級ねぇ。
というかそんな程度で私に声かけてきてたの?
あり得ないんだけど?
状況も見れてないし、格下の私でも倒せる相手に苦戦してるとか。
とりあえず力を使い過ぎたので私も魔力回復薬を飲む。
何で魔力なのか知らないけど、アイツがそう言っていたからそのままそう呼んでいる。
これも貴重なんだけどなぁ。
「大宮、お前……その姿……」
「アンタと違って万が一のために準備はしていたのよ」
学校に申請さえすれば適合者は装備を持ち込める。
国に届ければ街中で武装も出来る。
だが大半はダンジョンに行く以外では装備は邪魔でしかないため持ち歩かない。
しかし大体は武器だけ持ち歩くという適合者が多かったりする。
この男もそれで剣だけは持っていたようね。
回りの取り巻き達も槍や斧など、武器だけ持ち込んでいるようだった。
「これってやっぱり浸食だろ!? くそ!協会は何やってんだよ!!」
「文句言っても仕方が無いでしょ。 さっさとボス部屋探すわよ」
「は? 何言ってるんだよ! 雑魚ですらこの強さだぞ? ボスは確実にA級クラスだ! 俺らじゃ勝てない!!」
「ならあの全然来ない救助を何十時間もこんな中で待つ気?」
「勝てない勝負をするより良いだろ!?」
「だからって隠れててもいずれ見つかって終わりじゃない。それよりも戦えない連中が皆殺しにされる方が早いわね」
「と、とにかく俺は死にたくない!」
そう言うとB級自慢男と取り巻き達は、逃げるように去って―――
ドォーンッ!!!
校舎の壁が破壊されたかと思えば、巨大な斧を持った牛頭の姿。
「―――ミノタウロスッ!?」
3mを超える巨人。
しかしその頭は牛であり、足もどことなく牛を思わせる。
だが手に持つのは、その巨体と同等のサイズの巨大な大斧。
かつてヨーロッパのA級ダンジョンに出現したボスモンスターで、当時のハンターを殺しまわったことで有名だ。
「な、なんで……!?」
B級男が目の前に飛び出してきたミノタウロスを見て震えながらも声をあげる。
ミノタウロスは、明らかにボスクラスだ。
それがボス部屋以外に居るとは思えない。
かといってこれが雑魚扱いなら周辺に出てくる雑魚はもっと強くても良いはず。
……つまり
「―――徘徊型ボってこと?」
基本的にボスはボス部屋という自分の部屋の中から出てこない。
そのためボス部屋を見つけてから万全の準備をして攻略するのが通常の手順だ。
場合によってはこの段階で鉱石など取れるものを取りつくしたりもする。
だが、極稀にだが……ボス部屋から出てダンジョン内を徘徊しているボスも存在する。
『徘徊型』と呼ばれるそのボスタイプは、過去に3回ほど確認されただけであり、宝くじの1等に当たる確率よりもなお低いとされていた。
「か、勝てっこないッ!!」
「死に、死にたく、ないッ!!」
取り巻き4人のうち2人がミノタウロスに背を向けて逃げ出す。
「あ、馬鹿ッ!!」
思わず口から罵声が出た瞬間、ミノタウロスは足元に落ちていた瓦礫を片手で掴むと、それを投げる。
握り潰された瓦礫は無数の塊となり、まるで発泡スチロールで出来ているかのように軽々と、そして高速で飛んでいく。
そして逃げ出した2人に命中すると、命中した部分は貫かれて、吹き飛ばされて原型を留めていない肉塊へと2人を変えてしまった。
さながら投擲によるショットガンだ。
あまりの出来事に私も無意識に1歩後ろに下がってしまう。
幸いというべきか、相手は私ではなく残りの男達の方へと向く。
「ひぃ!」
短い叫び声を上げながら、ガタガタと震える取り巻き2人。
そんな中でも何とか剣を構えているだけB級男はマシだと思う。
周囲の壁を軽々と破壊しながら大斧を構えたミノタウロスが彼らに向かって走り出す。
「ああ、もう!」
剣を仕舞って魔法石を取り出すとボウガンにセットする。
そして狙いを付けてボウガンを発射した。
大斧を天井を破壊しながら斜めに振り下ろそうとしている相手の右腕に矢が命中するとスグに爆発。
そのせいでバランスを崩して斧の軌道が逸れる。
「今よッ!!」
私の声にハッとした男共は、動き出すが取り巻きの1人が呆然としていたことで、軌道の逸れた大斧で破壊された天井の瓦礫が命中。
その下敷きになってしまった。
だがB級男は剣でミノタウロスの足を切って傷を負わせることに成功する。
生き残った取り巻きは、斧を振りかぶって頭に攻撃しようとして―――空中でミノタウロスに掴まれてしまった。
「た、たすけっ―――」
握り潰されて肉塊へと変化した取り巻き。
それを見てか、ジワジワと距離を取ろうとするB級男。
さっき取り巻きが逃げようとしてどうなったのかをもう忘れたらしい。
「とりあえずここじゃマズイ」
狭くて周囲が壊れまくるような場所、こちら側からすれば不利過ぎる。
魔法石を装填し、ボウガンを連射する。
狙いは相手の足元だ。
こちらを向いていないこともあってか、綺麗に足元に刺さった矢が連続で爆発して床を破壊しミノタウロスを下の階に落とすことに成功した。
「広い場所に出るわよッ!!」
気の抜けた返事をする男の声を聴いてスグに運動場を目指す。
多少雑魚が居るだろうが、狭い場所で戦うよりはマシ。
「何で私がこんな目にッ!!」
そう言いたくなるほどの不幸な偶然である。
しかしどうしてこんな街中にあるダンジョンに誰も気づかなかったのか?
考えてもわからないし、そんなことを考えている暇もない。
ボウガンの威力を強化する魔法石の数を確認しつつ、移動する。
この石も超高いんだよねぇ。
完全に赤字じゃない。
協会に慰謝料名目とかで請求出来ないかしら。
*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。




