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第11話

*今回からちょっとシリアス戦闘&グロ表現ありにつき注意





■side:大宮 泉






「どうだろう?キミにとっても非常に良い提案だろう?」


 私、大宮 泉は、船見国際高校に通う女子高生だ。

 施設長が『高校ぐらいは出ておくべきだ』というので通っている。

 両親は既に死に、親戚は両親の遺産を奪っていったロクでもない連中。

 そこの長男なんて強姦魔。

 それでも適合者としての能力で何とか学費を稼ぎ、必死にやってきた。

 最近では良い相棒に恵まれて、お金を稼ぎまくれている。


「―――という訳で、条件も完璧だ!」


「はぁ」


 ちょっと現実逃避をしてみたが、やはり現実は変わらない。

 せっかくの休み時間に屋上へと呼び出されたのも面倒ならば、上から目線の口上も気に入らない。


「だからキミがどうしてもと言うのなら―――」


「ああ、じゃあお断りします」


「―――パーティーに入れてあげなくも……えっ!?」


「要件はそれだけですね、ではこれで」


「え、あ、いや、ちょっと待ってくれっ!!」


「別に気を使って頂かなくても大丈夫なので」


 後ろから未だ何か聞こえるが、放置して教室に帰る。

 しかしよくもまあ、ああも都合の良いことばかり言えるわね。


「あ、泉。おかえり~」


「はぁ」


「モテモテじゃないですか、泉さん?」


「欲しいならいくらでもあげるわよ」


 私がそう言うと周囲の子達は笑い出す。

 そう、世の中に適合者が現れて以降、適合者の価値は鰻登り。

 何せ命がけではあるが未知のアイテムや鉱石を持ち帰ってくる存在だから。

 そうした未知のものが技術革新を起こして今や空前のブームといえる。

 しかもその対価は何百万では済まない。

 何千万、何億にもなるのだから一攫千金を夢見るものが後を絶たない。

 そして適合者は年齢に関係なく、強い者は強い。

 だからこそ私のような学生で適合者として働く者も少なくない訳で。


「鈴木くんだっけ?彼、稼ぎは悪くないんだけどねぇ~」


「そうそう、ちょっと上から目線なのがさぁ~」


「3年の飯田くんとかどう?」


「顔は悪くないんだけど、女癖悪いって聞くし~」


 先ほど声をかけてきた奴も、年収700万ぐらい稼いでいるらしい。

 学生でそれなら専業になれば……と考えれば今から手を付けて置こうという子もそれなりに居る。

 でも私からすれば論外だ。

 昔ならスキルを使って手駒にしただろうけどリスクを考えれば、もうそれをする理由がない。

 それにアイツと一緒に居れば1日で1億以上稼げることもある。

 だから人の胸やふとももあたりをガン見してくる欲望丸出しの男なんて比べるまでもない。


「そうだ、放課後みんなでカラオケ行かない?」


「いいね~!」


「泉も行くよね?」


「私は―――」


 何気ない日常。

 よくあるクラスメイトとの会話。

 今日もそんな日になるはずだった。



 ブワッ!!!



 いきなり生ぬるい、何とも言えない風が教室を……いや学校内を駆け抜けた。

 その瞬間、窓から見える空が急に赤色へと変化する。

 そして血生臭い、何とも言えない腐ったような空気が充満していく。


「これは―――」


 思わず立ち上がり、声を上げようとした瞬間



 キャァァァァーーー!!!


 グワァァァァーーー!!!



 様々な叫び声が聞こえてきて一気に周囲に緊張が走る。


「な、何ッ!?」


「え?何かあった?」


「何なのッ!?」


 クラスメイト達も不安がり始めた。

 すると廊下を大量の生徒達が悲鳴を上げながら走り抜けていく。

 何事かと何人かのクラスメイトが外に出て……そして何かを見つけて声を上げ逃げていった。

 教室に残ったメンバーは、恐怖で動けずにいる。

 そうしているうちに、廊下から何か水のような音と血の臭いがしてきた。


 グガガッ!!


 成人男性ぐらいの人型。

 頭だけオオカミというウルフマンと呼ばれるランクCの敵だ。

 人間より素早く力があるため、集団になるほど難易度が上がると言われている。

 それが誰かの頭を手にしながら出てきたのだ。

 口が血だらけなのは、人間を食ったからだろう。


 一瞬にして恐怖から叫び声があがる。

 それを合図にウルフマンが教室の中に入ってきてクラスメイト達を襲おうとした。


「ああ、もうっ!!」


 装備を入れ替える指輪を使用して一瞬でダンジョン用の装備に着替える。

 そして左手に持つ魔力ボウガンを撃つとウルフの左腕に命中した。

 すると私を敵と認識したのか、こちらを向くと腰を落として飛びかかる体勢になった。

 時間にして僅か数秒。

 睨み合いの末に飛びかかってきた相手に対し、装備に魔力を込めて速度を上昇して回避する。

 スグに左手の魔力ボウガンを撃って相手の足に矢を命中させた。

 それでも勢いを落とさず再度こちらに向かってこようとする相手に右手のショートソードを構えて牽制する。

 相手の動きが止まった瞬間、またボウガンを撃つ。

 先ほど足に当たったせいか、回避が出来ずにボウガンが命中する。

 なのでひたすら魔力を込めて矢を生成してボウガンを連射すると、矢がドンドンと刺さって弱っていく。

 しかし流石はランクC。

 このままいけると思った瞬間に最後の力を振り絞って突撃をしてきた。

 それを右手のショートソードで受け止め、追撃が来る前に前蹴りを入れて僅かに距離を取ると、そのまま相手の頭に向けて矢を放つ。

 吸い込まれるように相手の頭に命中したことで、相手はゆっくり倒れて―――消滅した。


「はぁ、はぁ……」


 アイツの言った通り、一人で戦う訓練をしていて助かったわ。

 それに装備も更新してなきゃ負ける所だったかも。


「だ、大丈夫?」


 クラスメイトの1人が恐る恐る声をかけてきたことでハッとする。

 そうだ、まだ安心できない。


「とりあえず、安全な場所を見つけてそこに隠れましょう」


 私の言葉に誰もが無言で頷いた。

 その時、ふと思い出して腰のポーチを漁る。


「確かコレだったよね」


 手のひらサイズの小さな箱を開けると中から緑色の宝石が出てきた。

 それに魔力を込めると薄く光った後に砕けた。


「何かあればこうしろって言われたけど、何の意味があるんだろう?」


 そう思いながらも慎重に廊下を見渡す。

 ホラー映画もビックリなほどに血まみれの廊下。

 しかも定期的に色んな方向から悲鳴や何かの声が聞こえてくる。


「―――もしかして浸食?」


 浸食。

 大氾濫とも呼ばれるダンジョンが限界を迎えて周囲を取り込む現象。

 こうなると巻き込まれた周囲はダンジョンの一部となり、その場に居た人間は全て強制的にダンジョン内に入れられることになる。

 そうなると戦う力を持たないものにとっては地獄だ。

 そして例えここに適合者が居たとしても場合によっては更なる地獄となる。

 巻き込まれた側は、ここの適性レベルがわからないからだ。

 ランクDレベル相当とかなら良い。

 もしランクBやA相当のダンジョンなら―――私は生きて出ることなど出来ないだろう。


 そしてこの学校には一応Bランク適合者が2人居る。

 屋上でどうでもいい話をしていたのと、学校内で人気ではあるものの女癖が悪い奴。

 あの2人で何とかなるレベルなら良いのだけど……。

 私が倒したウルフマンの立ち位置次第。

 流石にあれがボスということはない。

 ボスは基本的にボス部屋と呼ばれる場所から出ないから。

 それにボスなら倒した瞬間にダンジョンは崩壊していくはず。

 そうなっていない以上は、ボスではない。

 ただもしアレが一般雑魚程度で無数に湧く場合は―――


「ダメダメ。希望は持たなきゃ」


 自分自身を鼓舞しながら、みんなを誘導して視聴覚室へと入る。

 ここは手動で鍵をかけることが出来るし、準備室には色々なものがおいてある。

 ある程度の人数なら隠れることも出来るだろう。


 みんなを視聴覚室に入れて隠れるように促すと、私は外に出ようとする。

 するとクラスメイト達が声をかけてくる。


「泉もここで隠れよう?」

「そうだよ、危ないよ」


 私だって出来るならそのまま隠れていたい。

 でもそれをするには情報が少なすぎる。


「私だってそうしたいけど、外がどうなってるのか確認しなきゃ」


 そう言って私は外に出る。

 ……もう少し引き留めてくれるかな~と思っていただけにちょっと残念だなぁ。


「でもそうは言ってられないよね」


 もしこれが本当に浸食なら、適合者を集めて対策を練らなければ。

 そうじゃなきゃいつ来るかわからない救助を待っている間に皆殺しにされる可能性の方が高い。

 何故なら先ほどから遠吠えのような声が煩い。

 獣系の敵は現実の獣と同じで臭いによる探知が優秀で隠れても見つかる確率の方が高いと聞いたことがある。

 それでも隠れた方がマシなのだが、制限時間の無いかくれんぼはこちらが不利。


「さて、みんな生きててくれるかな」


 普段アレだけ偉そうな連中だ。

 口だけではない所を存分に見せて貰おう。

 そう考えながら慎重に廊下を走り抜け、階段を下りた。




 一方、協会に連絡が入ったのは浸食が始まってから1時間以上経過してからだった。

 明らかに遅い初動に怒りが込み上げてくる会長だったが、それを何とか抑えて協会員を現場に急行させる。

 その頃、現場では協会よりも先に到着したマスコミや一部保護者が浸食の知識も無しに学校に入ってしまい、無意味に犠牲者が増えてしまうのだった。









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