15 不穏な影
注意※
R-15ぽい展開がございます。残酷描写が苦手な方はご注意下さいませ。
ベルモンド家の中は一時、戦争時のように大いに荒れた。
殺気立つサラドールとジャンドールを前にルノワールは頭を抱えた。
それは数年前の事。
ベルモンド家の長男と次男が家長であるジン・ベルモンドに続いて異例の出世を遂げた年、突如としてやってきたルーモフォレへの魔族、魔物達の襲撃の日のようであった。
自然に発生する場合ももちろんあるが、隣国の魔族を使役する国が魔物を嗾しかけ、妖精の加護のもと、魔法が息づくこの国を崩落させることが目論みだったと言われている。
ルーモフォレに宿る妖精達によって得た魔法とは遥か昔と比べて薄くなりつつあるとはいえ、それほど良く国を守っている。
鬼神の如く腕を振るい、魔物を薙ぎ払い、魔族を殲滅した時の勢いは相当なものだった。
その時の様子を見たことのあるルノワールは、思い出すだけでブルリと震えた。
剣術の心得のあるルノワールも、必ずご家族を連れて帰るとティナと約束をした事もあり、ベルモンド家の執事として、必ず生かして家族全員を家に戻すことを誓って息巻いて戦地に同行したものの、劣勢であったはずの陣営はあっという間にひっくり返ったのだ。
その時のことを思い出させる現状に、再びルノワールは頭を痛めた。
サラドールは、ソファに深く腰掛け、腕を組んだままそれをチラリと視線だけで見やった。
同じようにサラドールの向かいに座るジャンドールも、苛立たしげではあるものの、ルノワールを労わるような視線を向けた。
「ルノワール、お前はティナの指示に従っただけだ。そう悩むな。私が連れ帰ればよかったのだ」
「ジャンドール、お前がティナに最後にあったのは昼間だな。その時ファルマン殿と一緒だった。それで最後だな」
「はい兄上。その後は仕事で学生の相手をしに演習場へ戻りました。何やらファルマン殿と話をしていたようですが内容までは……すみません」
「いや、ティナももう大人だ。兄があれやこれやと口や手を出すものでもないが…しかし、何かしらの連絡を取ることはするはずだが」
「お嬢様はファルマン・ルフトクスト様と会われた後、少しの時間お話をされたようですが、そのまま帰路につかれたそうなのです。念の為と使者にルフトクスト公爵家に怪しいところはないか探らせましたが、寝耳に水のご様子でした。万が一公爵家内に閉じ込められた可能性を考慮致しましたが、メイド達や公爵家内に怪しいところはございませんでした。」
ルノワールが、早々に連絡をとったのはファルマンの家、ルフトクスト家であった。
早馬を向かわせ急ぎ確認を済ませたのだった。
「そうか」
「ふむ。何か事件や事故に巻き込まれているようならおそらく騎士団または兵士団に報告があるはずだ。そちらに向かおう」
「わかりました。父上も今王城勤務に就かれているはずです。ルノワールも一緒に来い。父上への伝達を任せる」
「承知いたしました。メイド達にもしお嬢様がお帰りになられたら騎士団の詰所に早馬を出すよう指示しておきます。馬を用意いたします。少しお待ちください」
騎士の制服を羽織り、サラドールは妙な緊張感と胸騒ぎの中にいた。
「何もなければいいんだが」
◆◆
「あー、ちょいと、嬢ちゃん、これ以上は追加料金だ」
「お金はたくさん払ったじゃない!しっかり奥まで運びなさいよ」
「へーへー」
闇に包まれる森の中、ハニーカスタードの髪の少女が苛立たしげに喚いた。
「俺はそろそろ、準備があるもんで」
「準備ですって? 何があるというのよ」
「いやぁ、今回の嬢ちゃんの依頼ともう一個ございまして、後は自分で頼んます」
「なんだというの?最後までやるのではないの?薄汚れていて臭いし本当に最悪だわ。裏街の人間ってほんと役立たず」
「はぁ、そうでしょうとも。見張りの兵士の喉潰して動けないように足を潰させといて役立たずとは。嬢ちゃんは最後ちゃんとこの森なんとかしてくださいよ、そうすればお喜びになる方がいらっしゃるもんでさぁ」
「ふふ、森ね。わかってるわ。それでわたくしが妖精になるのよ。楽しみね。楽しみだわ」
「そうでしょうとも」
天使のように可憐な少女の口から醜悪な侮辱の言葉が溢れるたびに男は怪訝そうに顔を歪めた。
しかしぐっと堪え、最後貰えるであろう多額の報酬を慰めに、ついうっかりこの少女を殺してしまわないよう気を払っていた。なにせ、この少女の計画が肝なのである。
後はこの担いでいる大きな麻袋を置き、国境に向かうだけ。
ヨイショと、人ほどの大きさのある麻袋を担ぎ直す。うまい具合にくの字に曲がったそれは、うんともすんとも動きはしない。
小さな広場に出ると、ドスン、と乱雑に麻袋を床に落とす。
「じゃあ、予定通りお願いしますよ。もうしばらくは目を覚まさないはずなんで、やりたいようにやってくだせぇ」
「ふふ、ふふふふ……ああ楽しみ、楽しみねぇ、早く起きないかしら、ふふふふ」
鼻歌でも歌い出しそうな少女を見届けると、男は駆け出した。
先ほど奇襲をかけ、声が出せないように喉を潰し、仲間を呼ばないように足を切った兵士を蹴飛ばし、さっさとこの場を去る。
国境に近づくと、そこに一人の男の姿を見つけ、あたりに人がいないことを確認すると、コソコソとその男に近づく。
「準備整いましたぜ、あにさん」
「そうか」
「もうすぐあの森が燃えるんで、それで宜しいんで? 」
フードを深く被った男は、一つ頷いた。
「金は、金はもらえるんで? 」
「……」
ぽんと投げ渡された小さな袋には男が要求した金額が収められていた。
投げ渡すには多額すぎるその金を、まるで紙切れや小石のようにあつかうこの男はおそらく貴族だろう。
よく見れば投げ渡す時に見えた腕には高級そうなリングや指輪がジャラリとついていた。
男はゴクリと喉を鳴らし、慎重にフードの男を伺った。
騎士ほどの装備はおおよそ持っているようには見えない。
フードのついた薄い外套だけを纏い、肌の見えるような服がチラリと見え、腰には短刀はおろか、武器の一つも見えない。
その代わり、大きく膨れた革袋が一つ、二つとぶら下がっているだけだ。
今しがた渡された金の入った袋もまた革袋だった。
兵士すらも身動きが取れないようにするのはいとも容易かった。
丸腰の男と金が目の前に転がっていれば、到達する考えは一つだ。
「ヒ、ヒヒ、あにさん、悪く、思わんでください!よ! 」
まずはさきほどの兵士同様、喉と足を潰そう。
そうしたら、命までは奪わない。
高そうな衣服はいただいてしまおう。きっと高く売れる。
男は鋭いナイフを振り翳し、強く地を蹴った。
あっという間に縮まった距離に、ナイフを喉にむけて突き立てる。
そうしようとした。
いや、していたはずだった。
「へ? 」
パシャっと何かが顔にかかる。
生臭い。
錆び臭い。
嗅ぎ慣れた匂い。
生ぬるい何か
「ああ、ああああああああ」
そこにあったはずの肘から先がぽっかりなかった。
訳がわからず、無くした腕にカタカタと体が震える。
距離を取ろうと、身を引くも、耳元から生温かい息が吹きかかった。
生臭い息が頬を掠めていく。
ゴロゴロ、グルグルと、肉食動物のような声に、恐ろしくて振り返ることができず、やっとのことで顔を上げると、そこにはフードの男が微動だにせず居た。
その背後に暗闇に紛れ、いくつものぼんやりと光る目が数十、数百と浮かび上がる。
「は、はっ、許してくれ、許してっくれ、あ、あああ、うわああ」
男の声がぷつり、と不自然に、跡形もなく途切れ、カシャン、と金貨が床を転がり落ちる音だけ響く。
「ばかめ」
馬鹿馬鹿しそうに、どうでも良さそうに、なんでもなかったかのように、吐き捨てるようにフードの男が言った言葉だけが、静寂の中響いた。
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