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10ファルマンの回想2

ファルマンの回想後編です。





 美しい装飾の施された豪奢な建物に、今日この日のために彩られた煌びやかな人たち。



 美しいシャンデリアが所狭しと天井を占領しているのをしばし見つめて、はぁ、と一つ呼吸を漏らす。



 こう言った場所は苦手だった。



 重い装飾のついた騎士の服を引きずり、気の乗らない足を無理くりに動かす。




 ジル第二王子はこうした催しを気に入っているようだが、自分には少し、刺激もきつい。


 煌びやかに華やかに見える場所は、そこに立つ人間の立場や役職によって変わるといえるだろう。



 様々な人間の思惑が如実に現れるような、願望と切望と怨念をぐちゃぐちゃに混ぜたような空間だ。


少なくとも、自分の周りはそうだったし今でもそうだ。



 王族の周りはもはや奈落の底だ。


 人の欲望は底が知れないもので、一つ叶えば100を願う生き物だ。犇めき合う鬼哭啾々の貴族達がまさにそれだった。それを上手く躱し、ヘラヘラと受け流すジル王子はまさに王族だ。


 巻き込まれでもしたら大変だ。




 好奇心旺盛な人々に取り囲まれないように人の群れをかき分け、建物内を歩き回る。

 それでも話だけでもと引き留める者も、やはりその目は欲と打算が滲み出ている。


「ファルマン様、わたくしにお時間を少しいただきたく存じますわ」


「ファルマン様、あの」


「すまないが、離れてくれ」


 しなだれかかってきたご婦人を跳ね除け、腕にねっとりと絡まる御令嬢の腕を振り払い、距離を取る。


 距離を取った先で強く手を引かれ、反射で危うく剣に手をかけそうになったが、そこに剣はなかった。


 ハタと夜会だという事で帯剣の許可が下りなかった事を思い出す。やり場のない腕を取られ、私の手を握ってきた。


 腕を引いたのはハニーカスタードの色をした髪の女だった。


 潤んだ瞳で見上げてくるその顔は謙虚な素振りをしているが、その瞳は確かな自信を持つようにギラギラと輝いている。


 いかに自分がか弱く可憐に振る舞っていても、無断で騎士の腕を引くような女だ。その傲慢な行動が物語っていた。




「ああ、あの!わたくし、貴方をお慕いしておりますの...!それにお父様には妖精様のようだと言われましたの!きっと貴方様の妖精様になれるとっ、きゃっ...」



「は?」



「あ、あの」



「貴女が?妖精...?」


「え?...そ、そうですわっだって、みんなそう言ってくださるもの...わたくしこそきっと貴方様の妖精でしょう?」


 戸惑うように、しかしその言葉に気をよくしたのか、ずいと近づき、上目遣いにこちらを見つめてくる。


「え、くろ...」



「え?くろ?黒?」



 傲慢な態度と喧しい口にうんざりしていると、ハニーカスタードの色の奥に、微かに。しかし確かに濡羽色の美しい黒が見えた。



 死にかけていた心が、急速に息を吹き返す。



 息さえもするのを忘れていたようで、息苦しい。



 見失ってはなるものか



 目の前の女を手で避け、一歩、また一歩とその美しい漆黒の髪の持ち主に近づいていく。


 その先は出口だ。待って、待ってほしい。

 まだ、どうか少し待って


 そう声を出したいのに、息が詰まって思ったように声が出ない。


 どくどくと心臓がうるさくて、自分が言葉を吐いているのかすらわからない。


待って。

待って。


 目に見えるほどの近さだというのに、ひどく遠く、長い道のりにさえ感じたが、ようやく手の届く距離まで来て、がっしりとその細い腕を掴んだ。




 細い肩が震えて、びくりと上下する。



 振り向いた女性を見た瞬間、心臓が打たれて、この世のものとは思えない程の衝撃を受けた。



 あの日、森で目撃した艶やかな黒髪、大きく見開かれた瞳にはキラキラと眩いばかりに星が輝く夜空が広がっている。



 心の臓が、震えては歓喜の声をあげているようだ。バクバクと指の先まで血が巡り、まるで雷に打たれたような衝撃を受けた。




 そこにいたのはまさしく私の妖精だった。





数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。


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