ふわもぞって感じ
その後もぬいぐるみ部は開門直後と比べればかなり繁盛した状態が続いた。甲斐先輩のぬいぐるみがあった去年の方が人がいた気もするけど、とりあえずよかった。
やがて、二回目のぬいぐるみ劇の公演が近づいたので、僕たちは、来てくれたダンス部の人たちと交代し、文化祭を回っていたりすとやまねとえりかと合流した。
「やっぱり小学生は元気いっぱいですね! 私、ついていくのが大変でした! でもすごくすごく楽しかったです! 今度は、もっと羽有先輩のように、プロを目指して頑張りますね! では、私は料理部の方に戻ります!」
いや浜辺さん、ついていくの大変とか言ってるけど充分元気だから。
「みて! 私たち、輪投げ全部入ったんだよ〜」
「海のいきものトランプ、もらった」
「もっと点数が高いところにたくさん入れたかったんだけどねー、でも満足したー」
「お、すごいじゃん」
僕は三人からトランプを見せてもらう。
54枚全て描いてある生き物が違うやつだ。しかもそれぞれ体長や特徴が書いてある。
「それで、うみがめさん」
「うん、どうしたえりか」
「うみがめさんのぬいぐるみは、誰か買ってくれたの?」
えりかは僕がかなり下を向かないと目が合わないところまで近づいて来て、心配そうな目で見上げて来た。
えりか……そんなに心配してくれていたのか。
「買ってくれた人、いるよ。そんなに多くはないけど」
「……よかった、うみがめさん、よかったね」
「おお……」
僕の反応は思わず微妙なものになってしまった。えりかが抱きついてきたのだ。小さくて、ぬいぐるみを抱いた時とは違ってなんだかもぞもぞした。ふわもぞって感じ。でも、美雨の優しさと同じくあったかかった。
「うゆゆ〜よかったね!」
「私たちもうれしいよー!」
「おおおお……みんな、ありがとう……」
りすとやまねも混ざり出して、僕頭の中で高山のお花畑の映像が流れ始めた頃、
「うん、私も嬉しいよ、優」
さらに美雨がそう言ってくれた。しかし、その美雨の顔を見ると、
「なんでそんな不機嫌そうというかつらそうというかなんというかって顔をしてるんだよ美雨は。疲れてるなら直前の呼び込みは僕と稲城でやるから少し休んだ方が……」
美雨の童顔な顔は表情の変化が少なくとも僕にとってはわかりやすい。
「大丈夫です」
「というか、自分はHPの修正を入れたいからここに残りたい。できれば海瀬と羽有で行ってくれると助かるんだが」
と、ここでパソコンしか見てなくてなんも聞いてなかったと思っていた稲城が口を挟んだ。
「わかった、そういうことなら、僕と美雨で行くよ。三人と、あと美濃が戻ってくると思うから人が集まってきたら待機列整理よろしく」
僕は稲城にそう頼むと、ゴムで束ねられたビラを手に持って階段へと歩き出した。
「よし! いくよ優! 目指せぬいぐるみ劇満員!」
気がつけば、美雨がいつの間にか元気になって隣を歩いていた。




