ちゃんと買ってくれてる人いるよ
「アンケート満足度か。狙うならそれだろうな」
甲斐先輩との話(賞に関する部分だけ)を聞いた稲城はそう言った。
「稲城もやっぱりそう思うか。まあ、でもとりあえず、あんまり賞のことは考えずにやっていこうかな」
こだわりすぎると良くないし。
ただ、アンケート満足度一位を去年とった未確認生物同好会は「校門付近でやっているアンケートに答えてください! お願いします!」と、ほぼ全てのお客さんに言っていたらしい。
去年はそれが功を奏し、小学生からの人気が高いこともあり、見事一位となった。
今年は予算が大幅に増え、未確認生物の模型などをたくさん作った上、完全自費ではなく予算で一部を出すという形で、ネス湖まで行って来たらしい。こうして一気に弱小部活脱出を果たした。
本当に狙うならそれなりにアピールが必要なのかもしれないとも思う。
そうこう考えて歩いていると、陶芸室にたどり着いた。そして気づいた。
「お客さんいっぱい来てる!」
ビラ配りの効果か、HPの効果か、ポスターか看板の効果か、よくわからないけど、お客さんが部屋にそれなりの密度でいた。女子小学生とその親が多い。いやそれでも多分人気のある科学部とか生物部とかもっと言えばステージ付近の方が密度は高いと思うけど。
「優! 稲城くんも来た! こっちこっち手伝って」
忙しそうにあっち行ったりこっち行ったりしていた美雨が動きながら手招きする。
そういや美濃がいない。
「つばき、放送部の急の仕事が入っちゃったから」
そういうことか。美雨一人で会計をやっていたというのも人がたまっていた原因かもしれない。まあでも、どう考えても開門直後の時よりは来てるので嬉しい。
って考えてる暇もない。仕事をしないと。
僕と稲城は、待っている人の会計をどんどん進める。僕のところには、僕のぬいぐるみを持ってやってくる人はいなかった。僕のぬいぐるみが陳列されているところを見ると、朝とぬいぐるみの配置が完全に一致しているようだった。
しかし、忙しすぎて残念がる暇もない。
そして、その調子でしばらくお客さんしか目に入らない時間が過ぎてしばらくして、
美雨とちょうどすれ違ったタイミングで、美雨が僕にささやいた。
「優のぬいぐるみ、ちゃんと買ってくれてる人いるよ」
え? ほんと? と返す前に、美雨はすでに通り過ぎていた。お客さんが相変わらずいる中美雨を追って話すわけにはいかないので、僕はもう一度、自分のぬいぐるみが並んでいるところを見てみた。
ちょうど一人の小さな女の子が僕のつくったうさぎのぬいぐるみを手にとっているところだった。
おおおおおお! まじか。小さな女の子が宇宙一可愛くて綺麗な妖精に見えるよ。しかも改めて見れば少し数が減っている気がする。
美雨や美濃のと比べれば少ないのかもしれないが、ちゃんと買ってくれた人ががいるってことだ。配置が変わってないように見えるのは、きっと美雨がこまめに並べ直してくれていたからだろう。一人しかいなくても、こまめにぬいぐるみをこまめに並べ直してくれたり、僕にそっとささやいてくれたり。美雨の優しさで、僕はふわふわのぬいぐるみに包まれたかのように、温かい気持ちになった。




