弱小部活らしくていいよね
「ただいま。そっちは何人来た?」
ダンス部に売り場を任せ、ぬいぐるみ劇の舞台裏に僕たちが集まっていると、美雨と美濃が戻って来た。
「四人……」
「少ないです……」
美濃がちょっと残念そうに小さく言った。
「劇の方は?」
「今待機列には五人」
「五人……」
陶芸室の前の廊下に設けた待機列スペース。そこに五十人くらい並べるようにしたんだけどな……。あと五分くらいで始まるから、増えてもほんの少しだろう。
まあ現実とはそういうものなんだろうなきっと。
結局、ぬいぐるみ劇は、親一人子一人が二組と、親一人子二人が一組の七人で始まった。
文化祭前日、ぬいぐるみ部プラス小学生三人で約束したことがある。
どんなに、お客さんが少なくても、来てくれた人には全力でぬいぐるみの魅力を伝える、ということだ。
そして僕たちは、それを実行した。今までの練習のどの時よりも、一番うまくいった。
ぬいぐるみはかなり自然に動かせたと思うし、セリフと動きのタイミングもほぼぴったりだった。照明も完璧で、最後の方の、ライチョウが一匹で夜空を飛ぶシーンはかなりよかったと思う。
その甲斐あってか、全員大きな拍手をくれた。合わせても、児童館の時よりも小さな拍手だったわけだけど。
その後、さらに、ぬいぐるみ劇に来てくれた子供達は、ぬいぐるみも買って行ってくれた。お母さんの一人は、手芸が趣味と話してくれ、ぬいぐるみ製作パンフレットをもらって行ってくれた。さらに、劇の最中にも数人お客さんが来たらしい。
「お客さんは少なかったですけど、来てくれた人には楽しんでもらえたって感じで良かったですね!」
美濃の口調からは残念さが消えていた。
「こういう感じも、弱小部活らしくていいよね」
「うん、確かにそうだよな」
僕は美雨の言葉にうなずいた。一つ、また僕のぬいぐるみは買ってもらえなかったっていうのは残念だけど。それは仕方ない。まだ来た人数も少ないし。うん。
ダンス部の人たちと交替して、美雨と美濃が売り場の仕事。
僕と稲城はビラを配りに行くことになった。
途中、料理部まで小学生三人を送る。
「じゃあ、三人とも、楽しんで来てな」
「うん〜! まずは縁日で遊ぼうってことになったんだよ〜」
「スーパーボールすくいで二十個くらいとりたいなー」
「私は輪なげ、がんばるよ」
盛り上がっている三人を案内してくれるのは、料理部の人たち。最初は、高一の、浜辺さんという人になった。
「三人をよろしくお願いします」
僕は浜辺さんに丁寧にお辞儀する。料理部は本当に忙しいはず。その中でやってくれるわけだから感謝の気持ちをしっかり表さないと。
「いえいえ! 全然オッケーです羽有先輩! 羽有先輩が小さい女の子のお世話の能力に長けているのは田植先輩から聞きました! それには敵わないと思いますが、しっかり案内します!」
すごい元気に、そしてテンション高めに浜辺さんは返してくれた。ただ、小さい女の子のお世話ね……田植は何を話したのか少し気になるな。




