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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭編
46/73

初めての来客


「羽有、始めは、あまり期待しないほうがいい」


 校舎に入ってくる人がどれくらいいるか確かめるために外を眺めている僕を見て稲城は言った。


 売り場には、僕と稲城しかいない。りす、やまね、えりかの三人はぬいぐるみ劇の舞台の裏側にいて、美雨と美濃は開門と同時に入ってくるお客さんを目当てにビラを配りに行った。一回めの公演の宣伝が一番の目的。


「始めは中庭でのダンス部や縁日、それと、東側の広場の大ステージでのイベントに客が集中する。校舎の中にまっすぐ入る人はほぼいない」


「まあ言われてみればそうか……」


 入り口に入ってから校舎に入るまでに、たくさんの魅力的な出し物がある。それらに見向きもせずに校舎に入ってくる人は少ないだろう。


「そうすると、開門直後に校舎内で客が集まるのは、始めから校舎内にいる人、つまり在校生や教員に人気の団体となる」


「ぬいぐるみ部は……」


「それには当てはまらないだろうな」


「ですよね……」


 僕は準備終了直後と変わらない部屋の中を見回す。一周見回して、視線が入り口に戻ったとき。二人の女子生徒が入ってきた。おそらく中等部。


 おお! ぬいぐるみ部にとって記念すべき初めての来客だ。


 そして、ここに来て、重大な事実に気がついた。売り場のは僕と稲城の二人だけなのだ。つまり、お客さん視点から見て、入ると、ぬいぐるみが並んだ向こうに、怪しい男子高校生が二人座っていることになる。もし僕が女子中学生ならびびる。そして帰るかもしれない。


「まずい」 


 僕はさっと立ち上がり、ぬいぐるみ劇場の方へ行った。


「ちょっと助けて欲しいことがあります」


 僕は可愛い可愛い女子小学生三人に助けを求めることにした。


「お客さん来たの〜?」


「私たち、手伝うよー」


「ぬいぐるみ、買ってもらいたいね」


三人とも快く手伝いを引き受けてくれるみたいだ。優しい……。


「それで、何を手伝うのー?」


「三人とも売り場にいて欲しいです。お願いします」


「うみがめさん、いるだけでいいの?」


「うん。いるだけで大丈夫だよ」


「そっか、じゃあ行こう〜!」


 りすが一番に出て、やまね、えりかもそれを追って出て行った。そして、僕もその後に続き売り場に戻る。


 売り場に戻ると、稲城が一人で座っている前で、女子中学生二人は困惑していた。よし、よく耐えた。帰ってなくてよかった。



 女子中学生たちは、三人に気づくと


「かわいい〜♡ 三人とも姉妹?」


「小学何年生?」


 と、緊張が解けたように親しげに三人に話しかけ始めた。


「姉妹じゃなくて、お友達ですー」


「そうなんだ。お手伝い?」


「そうだよ〜。あとね、私たち、ぬいぐるみ劇もやるんだよ〜」


 りすがそう言ったと同時に僕は心の中で喜びまくる。よし、ナイス宣伝!


「ぬいぐるみ劇……? 劇をやるの?」


「そう。公演時間とかはこんな感じなのでよかったら見に来てください」


 僕はビラを二枚とってきて、二人に渡した。


「おおー、じゃあ、時間があったら見ます」


 一人のショートカットの子がそう答える。在校生は自分の出し物の方でも忙しいから、そんなに時間がある人はいないはずだ。それに、時間があったら見ます、というのは断ると申し訳ないからそう言っているのであって、本当に来てくれるという可能性は低い。


「たくさん、ぬいぐるみありますね」


 もう一人のお団子結びの子は、並んでいるぬいぐるみを順に見て回り始めた。

 

「気に入ったのがあれば、ぜひ。一個二百円で、二つ以上だと二つ目から一個百五十円になります」


「これ好きかも」


 手に取ったのは美濃が作ったゴマフアザラシのぬいぐるみ。美濃はこのゴマフアザラシの目の位置にこだわり、何度も試行錯誤を重ねていた。


「あ、それいいね。私それ買おっかなー。……あ、でもこっちももふもふでいいな」


 ショートカットの子は、美雨が作ったひよこのぬいぐるみを眺め撫でる。美雨によってひよこのふわふわさが再現された。


「あ、じゃあ……私はこのアザラシで」


「私はこのひよこって決めた」


「あ、では、二人まとめてお買い上げということで、三百五十円です」


「あ、そうしてくれるんですか? ありがとうございます!」


 お団子の子が、三百五十円ちょうどを僕に手渡した。稲城が売り上げ記録等の会計処理をする。


 二人は、ぬいぐるみを抱えて、手を振る小学生三人に手を振り返しながら教室を出て行った。


「とりあえず、二つ売れたな」


 僕は二つでも売れたことが嬉しく思え、そう言ったが、


「でも、うみがめさんのぬいぐるみは売れてないよ……」


 えりかはぼくが作ったぬいぐるみが並んでいるところに立って小さく呟いた。


「いや、まだ二人しか来てないから。そんな気にしなくて大丈夫だって」


「うん」


 えりかはぼくを見てそれから、ぼくが作ったぬいぐるみ達を見た。


 その後、もう二人来て、それぞれ、美雨が作ったぬいぐるみと、美濃が作ったぬいぐるみを買って行った。


 このまま売れないのかな……去年みたいに。


 僕がそう不安になりかけた頃。店番をしてくれるダンス部の人たちが到着した。


 ぬいぐるみ劇の公演時間も近づいているので、僕たちは、ぬいぐるみ劇のセッティングに取り掛かることにした。



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