プリン!
それから、ぬいぐるみ部はさらに忙しくなった。りすとやまねとえりかが来るのは週三回。
三人とも家でも練習してくれているみたいで、来るたびに上手になって、憶えてきてもいるようだ。三人が来ない日も、作業は山のようにあるし、ついに、家に作業お持ち帰りも始まった。
今日は、三人が来ている日で、無事、練習も順調に進んで終わった。
でも、今日はここからがお楽しみの時間だ。
「よし、調理室行こう!」
「「「「「はい!」」」」」
五人そろってめちゃめちゃいい返事だな。今日は美雨と美濃も小学生ってことでいいや。僕も小学生になろう。
なぜなら今日は、田植のお子様ランチの試食会なのだ。パソコンいじるか早く帰るかしたいって言うと思っていた稲城でさえ、食べに行くと即決だった。それだけ田植の料理に期待しているってことだ。
調理室の中はレストランのような雰囲気になっていた。テーブルに丁寧にテーブルクロスがかけられていて、フォークやスプーンが入った箱が真ん中に置いてある。
「本物のレストランみたいだね〜」
とりすがいった通り、かなりリアルな雰囲気になっていた。
「五分ほどでお持ちいたします」
ウエイトレス役の料理部員がお盆におしぼりと水を乗せて持って来てくれた。田植は奥で頑張ってるんだろうな。
試食会には僕たち以外にも二十人くらい人がいた。予想外に人が殺到するといけないので、ここにいる人たちはみんな事前に申し込んだ人たちだ。まだお子様ランチがきている人はいない。さて、どんなのが来るか楽しみだな。
「お? そろそろっぽい」
いい匂いはずっと漂ってきているんだけど、それが一層増した気がする。そして、食器の音が奥でした後……ワゴンに乗せてたくさんのお子様ランチが出てきた。
遠くからみる限り、普通にご飯が半球状に守られていて、スープがついていたり、ハンバーグらしきものがある点も、普通のお子様ランチに見える。
ただ、実際、目の前に来てみると、細かいところに工夫があった。
まず、ハンバーグが一人一人形が違う。クマの形をしていたり、猫の形をしていたり、うさぎの形をしていたり、
さらに、添えてあるニンジンは桜やチューリップといった何種類かの花の形をしている。そして、特製ふりかけ。田植はお子様ランチに適切なふりかけを前々から研究していた。その成果が、ご飯の上に散りばめられている。
他にも……と語っていると冷めちゃうし、お腹空いたので、お子様ランチの鑑賞はこの辺にして僕は食べ始めた。
「おいしすぎる……」
僕はハンバーグを一口食べてそう自然に呟いてすかさず二口目。
よく耳をすませばみんな無言だ。食べることに夢中なんだろう。
そしてしばらくすると、デザートのプリンが出てきた。
「「プリン!」」
小三よりも早く反応する美雨と美濃。
このテーブルはお子様ランチを食べるのにふさわしい人材がいっぱいいるな。
「アンケートにご協力ください」
もうすぐ食べ終わるという頃、料理部員の人が紙を配りにきた。今日のお子様ランチをよりよくするために、アンケートを実施しているようだ。
アンケートはかなり細かいものだった。普通だったら、アンケートめんどくさってなりそうだが、今回はそうはならなかった。他の人も熱心に記入している。
りすとやまねとえりかも、紙と一緒に配られた鉛筆で、アンケートにたくさん何やら書いていた。三人とも鉛筆の持ち方が完璧。小学生の方が鉛筆の持ち方がが良かったりするのかもな。
「満足です! おいしすぎて、アンケートに全部めちゃおいしい以外書くことがなくて困っちゃいました!」
食べ終わってアンケートを提出し、調理室から出たところでそう美濃が言って、それに全員がうなずいた。しかし、僕はうなずきながら、少し不安だった。
「これに見合ったおまけのぬいぐるみを作らないとだからな……」
「それは、大丈夫。想いを込めることを忘れずに、今の私たちの技術を発揮すれば、きっとできるよ」
そう美雨が言ってくれた。
「……そうだな。よし! 家帰ってからぬいぐるみ作りだな」
「私も!」
「私もです!」
「わたしはもっと上手にセリフが言えるようにがんばるー」
「がんばるね〜」
「私も、練習する」
美雨と美濃、そして、やまね、りす、えりかが続いてくれた。
「自分も、HPに、ぬいぐるみ劇のあらすじやキャラ紹介、ぬいぐるみの作り方などを追加しようと思う」
最後に稲城も。
ぬいぐるみが好きなことが恥ずかしいと思うことが時々ある。
でも、今はこうしてぬいぐるみの魅力を伝えようと、ぬいぐるみ部と、三人の小学生で、準備を進めている。
そんな日々を過ごしているうちに改めて気づいた。
僕は逃げるためにぬいぐるみを作っていたこともあるかもしれない。
それでも。
僕はやっぱり、ぬいぐるみに魅かれている。




