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デミゴッドの導き ~少年は神学校で成り上がる~  作者: サケ/坂石遊作
2章 神学科の生徒たち

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 降り注ぐ豪雨は、荒れ狂う風に運ばれて校舎の中にも入り込み、火のほとんどを消し去ってみせた。


 屋上のドアを開けて校舎に戻ったアイルは一息つく。その隣では、エリーゼが半ば放心した様子でアイルをまじまじと見つめていた。


「アイル……貴方は、一体…………」


 先程まで、夜空には雨雲一つなかったことをエリーゼは知っていた。

 だからこの雨は有り得ない。決して自然の産物ではない。


 有り得るとしたら、きっとそれは正真正銘の神の御業である。

 エリーゼはアイルを見つめながら思い出していた。この少年が、柔らかい光の粒子を纏っていたことを。まるで聖女のように……。


「エリーゼ、あの鳥に会いに行こう!」


 アイルが元気よく告げた。

 切り替えの早さにエリーゼは目を丸くするが、やがて視線を足元に落とす。


「でも、ピースケはもう…………」


 あの鳥、ピースケっていうんだ……。

 反射的に出た感想を、アイルは胸の内に仕舞う。


「大丈夫だよ。リリスが見てくれているから」


「……聖女様が?」


 それはどういう意味だろうか。

 真意を訊こうとしたその時、二人は階段の下から足音が迫っていることに気づいた。


「アイルさん、エリーゼさん」


 二人に声をかけたのは、司教のラウレだった。


「話があります。ついて来てください」


 ラウレの真剣な眼差しに射貫かれ、アイルは弱る。

 冷静さを取り戻した今のエリーゼは、罪の意識も正常に感じているだろう。火災の原因は自分であると躊躇なく告白するはずだ。しかしそうなればエリーゼは長い間、拘束されるかもしれない。


 ほんの少しだけ猶予が欲しい。

 エリーゼはこの僅かな期間で、小鳥を失ったと思い、信心も壊されたのだ。

 だから、今だけは、エリーゼには自分の心を優先してほしい。


「エリーゼ!」


 アイルはラウレの前に立ち塞がり、言った。


「ここは僕に任せるんだ!」


「は?」


 いきなり前に立たれたエリーゼは困惑する。

 しかしアイルは、振り返って力強く声をかけた。


「ピースケと会いたいなら、早く行くんだ!!」


 アイルの叫びが、エリーゼの心を揺さぶる。

 自分でもよく分からないまま、エリーゼは走り出した。




 ◆




 廊下を走る足音が、次第に強くなっていく。

 最初はアイルの勢いに流されるように走り出してしまったが、いつしかエリーゼは自らの意思で走っていた。呼吸が荒れ、肺が痛みを訴えても走り続ける。


 会いたい。

 いつも傍にいてくれた、あの夕焼け色の小鳥に――会いたい。


 講堂に向かい、聖女を探したが見つからなかった。

 土砂降りのグラウンドの中を探しても見つからなかった。


 あの銀髪に美貌だ、視界が悪くても見落とすことはない。次は学生寮の方を探そうと思い、再び廊下を走り出したエリーゼは、中庭を挟んだ向かいの廊下に聖女の姿を見つけた。


 すぐに中庭を迂回して、聖女がいた場所へ向かう。

 そこは保健室だった。

 ドアを開くと、中にいた養護教諭が振り返る。


「あの、こちらに聖女様は……」


「先程出て行かれましたよ」


 すれ違いになってしまったようだ。

 落ち込むエリーゼは、その時、保健室の机の上を見た。


「あ…………」


 机の上に、一羽の小鳥がいた。

 夕焼け色の羽を伸ばし、のんびり眠っている鳥が……。


「神学科の女子生徒に、この鳥を渡すよう言伝を預かっていました。貴女がこの鳥の飼い主ですね?」


 養護教諭が優しく微笑みながら尋ねる。

 エリーゼは緊張した面持ちで机に近づき、眠る小鳥を両手でゆっくり抱え上げた。鳥は傷だらけだが、丁寧に手当てされている。


 死んでいなかったのだ。

 生きていて……でも瀕死だったから、聖女が治してくれた。

 小鳥の身体は、微かに光の粒子を帯びている。


「…………違います」


 エリーゼは涙を零しながら否定する。

 涙が小鳥の羽に落ちた。眠っていた小鳥が、エリーゼの掌の中で身体を起こす。

 小鳥は円らな瞳でエリーゼを見た後、幸せそうに彼女の掌に頭を擦り付ける。


「この子は……私の、家族です…………っ」





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