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デミゴッドの導き ~少年は神学校で成り上がる~  作者: サケ/坂石遊作
2章 神学科の生徒たち

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 アイルたちが神学科に編入して一週間が過ぎた頃のある日。

 午後から課外授業を始めると聞いたアイルは、休み時間になると近くに座っていたレクスに声をかけた。


「レクス、課外授業って何をやるの?」


「知らねぇ。俺たちも初めて受ける」


「え、そうなの!?」


 アイルは目を輝かせた。


「なんで嬉しそうなんだよ」


「いや、だって……やっと同じ足並みで授業を受けられるから」


 思ったよりも無垢な回答が返ってきたためか、レクスは唇を引き結んだ。

 神学科にとって初めての課外授業は、あと二時間後に始まる。




 ◆




 昼休みが終わると、アイルたち神学科生は学園の外に案内された。

 校舎の外ではなく学園の外だ。校門を抜けて敷地の外に出たアイルたちに、シスター・ロゼッタが振り向いて課外活動の説明を行う。


「聖職者の仕事の一つに、宣教があるのはご存知ですね?」


 アイルたちは頷いた。


「宣教とは、イシリス神の教えを広めることですが、見ず知らずの人たちに話を聞いてもらうことは簡単ではありません。赤の他人に耳を傾けてもらうためにはどうしたいいでしょうか?」


 ロゼッタの視線がアイルに注がれる。

 少し考えて、アイルは答えた。


「まずは友達になるとか……?」


「友愛は大事ですが、一人一人と友達になるのはキリがありませんね」


 ごもっともだ。

 ロゼッタは答えを告げる。


「私たちが、人々に好かれる人間であればいいのです」


 端的な事実をロゼッタは口にする。


「イシリス教徒は素晴らしい。そう思われるような振る舞いを日頃から心掛ければ、宣教の際、人々は自ずと心を開いてくれます」


 なるほど、とアイルは思った。

 主語はあくまでイシリス教徒。つまりアイルたちがイシリス教徒として人々に好かれれば、ここではないどこかまた別の国のイシリス教徒の評判もよくなる。宣教とは、そうして先人たちが積み上げてきた評判を土台にすることで成り立つ仕事なのだ。


「というわけで、本日の課外授業は人助けです。この街で困っている人を助け、感謝されてください。誰かと協力しても問題ありません。皆さんの行動は私たちが見守っていますので、自由に動いてくださいね」


 私たちと言うように、ロゼッタの後ろには数人の修道士がいた。

 彼らが神学科生たちをこっそり監視するのだろう。


「自由にって、言われてもな……」


「困っている人って、どうやって探せばいいんだよ……」


 課外授業というだけあって、型破りな課題が提示された。

 頭脳明晰な者が多い神学科生たちも、流石に困惑している。


「ねえ、アイル。労働斡旋所は駄目なのかしら?」


 アイルの隣に立つクララが訊いた。


「……駄目だと思う」


「どうして?」


「労働っていうのは、人助けではなく取引なんじゃないかな。目的のために人を雇う依頼主と、お金のために雇われる労働者。双方の利害が一致していることで生まれる関係だから……」


 勿論、依頼主が労働者に感謝するのは大事なことだが、今回の趣旨からは逸れている気がする。


「その通りです、アイル様」


 話を聞いていたロゼッタが頷いた。


「人助けは必ず無償で行うこと。この条件を守ってください」


 他に補足はないらしく、ロゼッタが再び口を開くことはなかった。

 とにもかくにも、まずは街へ繰り出すしかない。神学科生は王都の街へ足を踏み入れる。


 石畳を歩きながら、アイルたちは視線をきょろきょろと動かした。立ち並ぶ露店、買い物したり散歩したりする人々。穏やかな風、揺れる木々、建物から聞こえてくる賑やかな声。馬車が通る時は歩行者が端に寄り、御者も気を使って速度を極力落としている。


 王都は平和だった。

 自分たちの出る幕はないんじゃないかと思うくらい。


「困った人って、探してみると全然見つからねぇな」


「意外としっかりしてるんだな、この街って……」


 レクスとウーヴェがそれぞれ呟く。

 背後を見ると、ロゼッタを含む修道士たちが距離を空けてついて来ていた。監視されていることを実感したレクスは、緊張を紛らわすように視線を彷徨わせる。すると、丁度アイルがどこかから帰ってきた。


「アイル、どこか行ってたのか?」


 便所か? と思いながらレクスが尋ねると――。


「さっき、合格って言われたんだけど……」


「……は? え? なんで?」


「あそこにいるお婆ちゃんと雑談してたら、話に付き合ってくれてありがとうって言われて……」


 アイルが視線を向けた先には老婦がいた。

 アイルと老婦の目が合うと、老婦がにこやかに笑い、ひらひらと手を振ってくれる。


「……そんなのアリかよ」


 レクスは頭を抱えた。

 アイル自身も「これでいいのかな?」と困惑している。別にあの老婦が困っているように見えたわけではない。偶々、露店の向こうに路地裏の入り口を発見したアイルは、この先には何があるんだろう? ちょっと覗いてみようかな? と気軽に近づき、そこであの老婦とばったり出会った。そのまま話し込んでいたら、いつの間にか後ろに立っていた修道士に「合格」と言われたのである。


「ふっ、流石アイルね」


 クララが何故か誇らしげに言う。


「いや、ほんとに今日の晩ご飯を一緒に考えてただけなんだけど……」


「それが流石だって言ってるのよ」


 というわけで――課外授業、最初の合格者はアイルだった。

 まさかの結果に、神学科生たちは焦りながら王都を歩く。



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