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デミゴッドの導き ~少年は神学校で成り上がる~  作者: サケ/坂石遊作
2章 神学科の生徒たち

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 編入試験に合格したアイルたちは、翌日、エメステリアから直々に配られた白い制服を着て王立学園を訪れた。


 あらかじめ伝えられていた道順を辿り、教室に着いたアイルたちを、二十人の生徒たちが視線で迎える。その視線は決して好意的なものではなく、侮蔑の感情や困惑の感情、そして無関心の感情がひしひしと伝わってきた。 


「編入生を二人紹介します」


 修道女のロゼッタが教壇の前に立って言う。ロゼッタは、アイルがこの学園に足を踏み入れて最初に声をかけた相手だが、どうやら神学科の教師だったらしい。


「アイル=レイカーです」


「クララ=ウィービニスタです」


 ロゼッタに促され、アイルとクララはそれぞれ簡潔に自己紹介した。

 その途端、生徒たちの視線の先はクララに集中する。


「ウィービニスタ……?」


「確か、公爵領の軍人一家で……」


「鮮血将軍の……」


 口々に騒ぎ出す生徒たちを見て、アイルは目を丸くする。


(え、クララの実家って有名なの?)


 何も知らない。というか今、初めて家名を聞いたばかりのアイルは騒然とした教室の空気に置いて行かれた。


 隣のクララに視線を向けると、彼女はまるで他人事のようにケロッとしている。家名を自慢するような性分でないことは分かっているが、ちょっとくらい説明してくれてもいいのに……とアイルは思った。


「シスターのロゼッタです。二人ともよろしくお願いします」


 ロゼッタが教師としてアイルたちに軽く挨拶した。

 しかし気のせいだろうか? ロゼッタはクララの方ばかり見ており、アイルからはそれとなく視線を逸らしている。嫌悪しているというわけではなさそうだが、なんだか凄く気まずそうだ。


 避けられる心当たりがないアイルは、それならばと意気込んでこちらから声をかけることにした。新天地でやっていくためには交流を軽視してはならないだろう。


「ロゼッタさん。あの時はお世話に――」


「ひっ!? そそそ、その節は大変失礼いたしました、アイル様!!」


 アイルが何か言おうとした瞬間、ロゼッタは反射的に顔面蒼白となって謝罪した。

 しかし生徒たちが「様?」と首を傾げたのを見て、ロゼッタは「はっ!!」と我に返る。


 アイルが洗礼を授かった後、エメステリアは一つ約束を交わした。――教皇から推薦されたことは秘匿する。理由の説明は大雑把にしかされなかったが、教会や聖女を取り巻く状況的に、今はまだ公にするべきではないと判断したようだった。


 クララは若干不満そうな顔をしたが、アイルは問題ないと思った。推薦者が誰であろうと自分の実力は変わらないし、それに教皇が自分を推薦してくれたのは、きっとそのことを権威として振りかざしてほしいからではないだろう。


 教皇には何か意図があるのかもしれないが、それとアイルのやりたいことは無関係である。だからアイルはこの約束を受け入れた。


 現在、アイルが教皇に推薦されたという事実を知る者は、この校舎に五人いる。クララと、シスター・ロゼッタと、司祭と、司教のラウレと、エメステリア枢機卿だ。彼女たちもそれぞれこの事実を秘匿する旨を承知していた。


「で、では二人はそちらの席へお座りください」


 なんとか平静を装ったロゼッタが、アイルたちに着席を促した。


「こほん。……編入生もいますし、最初にこれまでのおさらいをしましょうか」


 わざとらしい咳払いをして失態を誤魔化したロゼッタは、とにかく視界からアイルを消したいと言わんばかりの俊敏な動きで黒板の方を向き、文字を書き始めた。


 アイルがノートを開こうとすると、夕焼け色の小鳥が肩に乗ってきた。

 昨日、神学科の生徒たちとすれ違う時にも肩に乗ってきた鳥だ。妙に人懐っこくて愛らしい。紺色の髪の少女が「おいで」と言っていたので、彼女が飼っているのだろうか? ノートを開きながらその少女の方を見ると、軽く視線が交錯した。


 少女はすぐに目を逸らす。

 当たり前だが、まだクラスには馴染めていない。これから頑張らないと、と思うアイルの前で、ロゼッタは文字を書き終えた。


「今、この国ではイシリス神に対する信仰が失われつつあります」


 ロゼッタが黒板に書いたのは、神学科を取り巻く環境についての説明だった。

 神学科が生まれた経緯が、時系列順にまとめられている。


「元々、魔法の発展によってその風潮は避けられないものとなっていました。魔法が研究され、使い勝手が向上することで、一人一人のできることが増えていく。そうすると祈りを必要とする者が減ってしまうのは仕方のないことです。しかしそれは人々の暮らしがよくなることでもあるため受け入れねばなりません」


 イシリス教徒としては複雑なことだが、人々の幸せを拒めばいよいよ民衆の敵になってしまう。それは誰にとってもよくない結果を生むに違いない。


「ただ、そこに加えて起きてしまった悲惨な事件……獄炎の日は、人々が信仰から離れる強すぎる切っ掛けとなってしまいました。人々が魔法によってかつてない万能感に酔い痴れている時、私たちは最大の醜態を晒してしまったわけです。人々の信心がひび割れていく様を見て、私たちは何もできませんでした」


 己の過去を悔やむようにロゼッタは語る。

 彼女は心が強いのだとアイルは思った。獄炎の日はイシリス教徒にとって最悪の出来事だったはず。それは彼らにとって本来なら災害に等しい事件なのに、ロゼッタはまるで己の怠慢であるかのように語ったのだ。


 本来なら、私たちが何とかしてみせたかった。

 きっとそういう言葉を飲み込んで、ロゼッタは続ける。


「ゆえに、この時代に神学科の生徒となったあなたたちには、明確な使命があります。――イシリス神の信仰を留めること。そして、イシリス神の信仰を広げること。これがあなたたちの成すべきことです」


 あなたたちは、失われた信仰を取り戻さねばなりません。

 その一言で、ロゼッタの話はいったん区切られた。


 神学科を取り巻く環境の説明は終わった。ここからは授業だ。 

 信仰を取り戻すという目標を果たすための技術が、今からアイルたちに教示される。


「では、授業を開始します。一時間目は聖典概論です」


 アイルはやる気を漲らせながら教科書を開いた。

 端から端まで内容がサッパリ理解できず、机に突っ伏した。



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