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デミゴッドの導き ~少年は神学校で成り上がる~  作者: サケ/坂石遊作
2章 神学科の生徒たち

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「これは……っ!?」


 洗礼堂に光が満ち、エメステリアは瞼を閉じた。  

 強い光を放つ水。その光景に、エメステリアは見覚えがあった。


(聖女様の時と同じ……!?)


 イシリス教における洗礼の儀式は、古来より湖の中で行われていた。その意図は先程アイルに説明した通り、身体にこびりついた欲を水に溶かすことだが、実は最初はそうではなかったという言い伝えがある。


 初めは、イシリス神の恩寵を受けている人間を見つけるための儀式だった。

 アクアフロリスの葉、エーテルリーフのオイル、ホワイトクリスタルの粉末、これらを混ぜ合わせて湖の中に入れると水質が変化する。イシリス神に選ばれし者がその水に浸かると、水面が輝くという伝承が記録に残っていた。


 聖典を読み解くにあたり、もっとも注意しなくてはならないことは()()()()の区別である。たとえ現実では起こり得ない光景だとしても、筆者の心がそのように捉えたのであれば、それは誤った事実ではなく正しい表現として認めるべきだ。信仰とは、そうした表現がなければ成り立たない。


 エメステリアは十年前まで、洗礼の儀式によって湖が光るという現象を、正しい表現として認識していた。


 だがある日、一人の少女がそれを変えた。

 その少女が目の前の水に浸かった時――光ったのだ。

 聖典に記されている通りの光が、エメステリアの前で放たれた。


 聖典にあった湖が輝くという現象は、表現ではなく事実だった。そのことをエメステリアが学び、そしてその少女が聖女と呼ばれるようになったのが十年前。


 今、あの時と全く同じ光景を目の当たりにして、エメステリアは――――混乱した。


 どういうことだ?

 聖女は既に存在している。


 では彼は?

 この少年は一体何者だ?


 ()()()()()()()()()()()()()――――?


 二度は見ないだろうと思っていた眼前の光景に、エメステリアは思考する。

 枢機卿という立場である彼女が、この光景を前にやらねばならないことは何なのか。それは確実に呆けることではない。


「……洗礼は終わりました。もう出てきて大丈夫です」


 エメステリアがそう言うと、アイルは状況についていけていない驚いた顔のまま水から出た。すると水の輝きも消える。光の原因がアイルであることは一目瞭然だ。


「ねえ、流石に今の説明はあるんでしょうね?」


「勿論です」


 クララの問いに、エメステリアは頷いた。


「偶にあるんですよ。気にしないでください。洗礼とは関係ありません」


「…………は?」


 そんなわけないでしょ、と言わんばかりにクララはエメステリアを睨んだ。

 だがエメステリアは黙秘した。


 エメステリアが選んだのは保留だった。何故なら彼女の立場上、最優先にするべきは聖女の未来だからである。


 聖女はいずれイシリス教を担う存在になる。だがそこへ、彼女と同じ資質を持つ人間が現れたという噂が流布されたら、どうなってしまうのか。


 下手すると――教会が割れる。

 エメステリアはこの最悪の未来だけは回避せねばならないと決意した。


 あくまでこれは最悪の未来である。アイルという少年が実際どれほどの資質を持っているかは不明であり、水の輝きが本当に何らかのアクシデントである可能性もゼロではない。


 エメステリアが選んだのは()()

 今はそうすることしかできないが……必ず、問い質さねばならない相手ができた。


(聖下……説明してもらいますよ)


 少なくとも、この少年に推薦状を送った教皇だけは知っているはずだ。

 アイルという少年の特異性。その正体を見極めねばならない。



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