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64(3)話

「高坂篤志……」


 次の日、七海はクラスメイトの桂昂輝から昨日の犯行現場で高坂篤志の学生証を拾ったことを聞いた。

 結局、昨日は現場の近くを探し回ったけど、怪しい人物を見つけることはできなかった。そのため、適度な時間で切り上げて、現場に戻ってくると、桂昂輝と彼が呼んだ警察の人たちがそこにいた。

 どうやら、警察もついさっき集まってきたようだったので、自分と彼は警察に事の経緯を説明した。警察に色々と聞かれ解放された後、彼から学生証のことを聞いたのだ。

 高坂先輩のことは聞いたことがある。たしか、サッカー部のキャプテンで、学年を問わず、女子からの人気が高いイケメンの先輩だ。以前、志藤綾女にちょっかいを掛けていた女子生徒たちも、その発端は、彼女が高坂先輩を振ったからだったと聞く。


「でも、なんで高坂先輩の学生証があんな場所にあったんだろう……」

 七海は口元に手を置きながら考え事をする。

 すると――、


「――――笹瀬さん」


「ッッ⁈」

 突然背後から声を掛けられた。

 考え事をしていた七海は肩をビクつかせる。とっさに後ろに振り返った。

「……櫻木さん?」

 振り返ると、そこにいたのは現生徒会長の櫻木叶耶だった。

「すみません、驚かせてしまいましたよね?」

 彼女は申し訳なさそうにしていた。

「うわー、びっくりしたぁ。櫻木さんかぁ」

 七海はすぐに学園モードに切り替えた。

「で、どうかしたの? もしかして新聞部に何か依頼?」

 行事の告知といった生徒会の依頼で記事を書いたことが、今まで何回もある。もしかして、今回もその類のお願いだろうか。


 しかし、七海の予想に反して、櫻木叶耶は首を横に振った。

「いいえ、今回は新聞部ではなく、笹瀬さんとお話したいことがあって声を掛けたんです」

「えっ、私に?」

 七海は櫻木叶耶の言葉に面食らった。

 新聞部と生徒会というつながりを除けば、二人の間に特別の接点はない。今まで同じクラスになったことすらない。強いて言うならば、クラスメイトの桂昂輝や牧原友愛が櫻木叶耶と親しいという程度だろうか。

 新聞部という属性をなくせば、自分は彼女にとって友達の友達といった関係にあたる。そんな自分に一体なんの用だろう。

 そんな七海の疑念を察しているのかは分からないが、櫻木叶耶は一度、にこっと微笑んだ。

「二人きりで話したいので、ちょっと生徒会室に来てくれませんか?」

「……ええ、もちろんいいわよ」

 なんの話か気になったので、七海は彼女について行くことにした。


 廊下で何人もの生徒とすれ違いながら、七海は櫻木叶耶の後をついて行く。道すがら、彼女は自分に話しかけるようなことはしてこなかった。こちらも彼女の意図が読めなかったので、特に話しかけるようなことはしていない。終始、お互いに無言で廊下を歩いていた。


 そして、しばらくして、


「……着きました」


 彼女が立ち止まった。


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