表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/168

64(2)話

「これで四件目……」

 七海が悔しそうに呟く。

 俺も血が出そうなくらい拳を握りしめていた。

 目線の先には、干からびた若い女性の姿があった。恐怖で顔が歪み、肌が骨にぴったりとくっついている。


 俺たちは未だにこの一連の事件の犯人を捕まえられずにいた。先日、犯人と思しき吸血鬼と遭遇し、逃げるあいつを七海が必死に追いかけたのだが、上手く逃げられてしまったとのことだった。

 あのときの七海は平常心を失っていたので、そのままあいつと戦闘するのは危ないと感じていたのだが、こうして新たな被害者を前にすると、あのとき是が非でも捕まえておくべきだったのかもとか少し後悔してしまう。


 七海は被害者の首元を確認するため、腰を下ろし、遺体に触れる。

「やっぱり、首元には牙の跡が二つ付いている。それに……」

 そこで、彼女が言いよどむ。

「どうかしたか?」

 言葉を途中で止めた彼女に問いかける。

「遺体がまだ温かい……。もしかしたら、あいつがまだ近くにいるのかも」

「えっ?」

 七海の言葉に驚きが隠せないでいると、彼女は静かに立ち上がった。

「桂君、探しにいこう」

「あ、でも、警察には連絡しないでいいのか?」

 俺はそう言いながら、遺体に目を向ける。このまま遺体を放置するのも忍びないと感じた。

「それもそうか……。それじゃあ、桂君は警察に連絡してくれる? 私が周囲に怪しい人がいないか調べてみる」

「そうだな。俺は警察に連絡するよ。七海も気を付けて」

「うん」

 そう言うと七海は大通りとは逆方向に走り去っていった。


「……さて、早く警察に連絡するとするか」

 七海の背中が見えなくなった後、俺は自分のポケットからスマホを取り出す。ただ、スマホを取り出すと同時にポケットから何かが飛び出した。

 その何かはカランカランという音を立てて地面を転がる。

「ん、なんだ?」

 俺はそれが転がった方向に足を向け、その場で腰を下ろす。

「これは……」

 拾い上げてみると、それは玩具の鈴だった。最近はやっているアニメのキャラが鈴の側面にプリントされていて可愛らしい。

 そういえば、今朝、妹のゆめからお守りだって言われてもらった気がする。これをもらったのが登校する直前だったから、部屋に置きに行くこともできず、そのままポケットに突っ込んだんだったけ。

「あぶな、あと少しでゆめを悲しませるところだったな……って、あれ?」

 そこで鈴があった地点の近くに一枚のカードが落ちていたのに気がつく。

「なんだろ……」

 気になってそれを拾い上げる。

「ッッ⁈」

 拾い上げてそれを確認した瞬間、言葉を失った。

 青い二筋のラインに見慣れた校章。そして、カード表の右枠にはすっかり見慣れた制服に身を包む十七歳前後の少年の顔写真が貼られている。

 そう、それは俺と七海が通っている星華学園の学生証だった。


「なんで……」

 驚きを隠すことができない。

 学生証に目立った汚れや傷はない。そのことから、これがここに放置されてからあまり時間が経過していないことが分かる。

 俺は学生証の氏名欄に目を通す。

「……高坂篤志」

 その人物は、サッカー部のキャプテンで、女子から大人気の先輩だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ