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64(1)話★

 翌日、生徒会長にはみごと櫻木さんが選ばれた。龍泉寺は昨日のうちに選挙を辞退したらしい。

 後から、七海たちから事情を聞いたところ、どうやら龍泉寺たちは半年ぐらい前から不正会計を行ってきたらしい。なんでも、部費を私的流用していたのが明るみにならないように、会計報告の虚偽記載を行ったのがきっかけだったとのこと。この私的流用には野球部もバスケ部も絡んでいたので、彼らは協力して不正会計を行っていたそうだ。

 そして、俺たちの予想通り、今回の会長選立候補の理由は不正会計の揉み消し。もちろん、利害が一致する野球部やバスケ部も龍泉寺に協力していた。

 ちなみに、討論会で龍泉寺のサクラとなるため立候補したテニス部の佐藤は、龍泉寺と仲が良かったから彼に頼まれて立候補をしただけで、テニス部が不正会計を行っていたわけではなかった。

 なにはともあれ、この大規模な不正会計については教員や生徒会によって徹底的に調査がなされるだろう。


 選挙当日の放課後、俺と櫻木さんは生徒会室に残っていた。牧原さんや細谷先輩はすでに帰宅している。そのため、この部屋にいるのは二人だけだ。

 傾いた日の光がブラインダーを通して室内に差し込む。

「櫻木さん、この一週間はお疲れ様」

 俺は、櫻木さんに自販機で買ってきた緑茶を渡した。

 すると、櫻木さんは優しく微笑んでそれを受け取る。

「ふふ、桂くんこそお疲れ様です。そして、本当にありがとうございました。私が生徒会長になれたのも桂くんのおかげです」

「えっ、そんなことないよ。生徒会長に選ばれたのも櫻木さんが頑張ったからだし」

 俺は大したことしてない、と笑い飛ばす。


 しかし、櫻木さんは静かに首を振った。

「いいえ、桂くんのおかげです。私が龍泉寺くんに言われて落ち込んでいたときに、もう一度立ち上がらしてくれたのは桂くんです。討論会で弱気になっていた私を励ましてくれたのは桂くんです。選挙活動期間中、ずっと私のそばにいてくれたのは桂くんです。私は、桂くんがいなかったら、生徒会長になることなんてできませんでした。だから、全部、桂くんのおかげです」

「少しでも櫻木さんの役に立てたようでよかったよ」

「もうっ、桂くんは謙遜しすぎです」

 櫻木さんが頬を膨らませる。

「これで、明日から生徒会長だね」

「はい、私を選んでくれた皆さんのためにも気持ちを引き締めて頑張らなくては」

「あはは、でもあまり無理はしないでね」

 ふんす、と張り切りを見せる櫻木さんに苦笑する。


「にしても、これで終わりか……」

 俺は西日が差し込む窓の外を見つめた。

 そう、これで、櫻木さんとの選挙活動も終わり。俺ももうお役御免だ。なんだか終わってみると、この一週間は本当にあっという間だった。そして、終わったことに対する多少の空しさを感じた。

 これから櫻木さんは生徒会長としてみんなを引っ張っていかなければならない。おそらく、また以前のように落ち込んだり、弱気になったりすることがあるだろう。

 しかし、彼女ならその度に困難を乗り越えられる。なぜなら、それが櫻木叶耶という少女なのだから。


 すると、

「桂くん」

 名前を呼ばれた。

「ん?」

 俺は櫻木さんの方へ振り向く。

 櫻木さんはどこかもじもじしていた。

「そ、その、選挙はたしかに終わりましたけど、これからも私を支えてくれませんか?」

「えっ?」

「ほ、ほら、私がまた落ち込むときとかあるかもしれませんし。そのときに桂くんがいたら心強いなぁって……」

 俺は思わず笑みをこぼしてしまった。そんないじらしくお願いをされては断れるわけがない。

「か、桂くん?」

 櫻木さんは心配そうにこちらを見つめてくる。

「うん、俺にできることだったら」

 俺はそんな彼女を真っすぐ見つめて、そう口にする。

 その言葉に彼女は、

「ありがとうございます!」

 今まで見た中で最も満面な笑みを浮かべたのだった。


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