63話★
ドンドンッ
放送室の扉が勢いよく叩かれた。
「龍泉寺~、そこにいるのかぁ?」
部屋の外から先生の声が聞こえてくる。
龍泉寺、佐藤候補、櫻木さんたちは一体何が起きたのかときょとんとする。放送部の人たちも同様だ。
しかし、放送部の一人がすぐに我に返る。
「み、みんな、先生だ。至急、放送を止めてっ」
はい、と言って放送部員が放送を止める。
「はいるぞ~」
ガチャッ
放送部員がどうぞ、と言ったタイミングで先生が部屋に入ってきた。入ってきたのは男の先生と女の先生の二人だ。
放送部員が先生たちの道を開ける中、先生たちはゆっくりと俺たちの前まで歩いてくる。そして、俺たちの前まで来ると立ち止まった。
放送部員たちは先生の後ろで事の成り行きを見ている。室内には物々しい雰囲気が漂っていた。
ごほん、と男の先生が咳ばらいをした。
「龍泉寺、野球部の南やバスケ部の服部たちと部の不正会計をやっていたらしいな?」
その時、その場にいるほとんどの者が先生の言葉に驚愕する。龍泉寺も一瞬、その表情から驚きが見て取れた。しかし、すぐにその動揺の色は消える。
「いやですね~。僕がそんなことをするわけないじゃないですか~」
龍泉寺は、さもそんな疑いをかけられるのは心外だといった感じで首を横に振る。
「そうか? 今、号外の学内新聞でお前たちが不正会計をやっていたという記事が流れているぞ」
先生が詰問するも、龍泉寺は余裕な表情を崩さない。
「新聞部がガセネタでも流しているんじゃないですか? 彼らも話題取りに躍起でしょうから。あっ、もしかしたら、僕の足を引っ張りたいのかも。たしか、新聞部の笹瀬さんって、そちらの桂くんと仲がいいですよね?」
「桂くんがそんなこと―――――」
怒って立ち上がろうとする櫻木さんを俺が手で制する。
「あれ、黙っているということはもしかして図星ですか? いやだなぁ、いくら選挙のライバルだからといってもやっていいことと悪いことが――――」
「もういいっ」
龍泉寺の言葉は先生の怒鳴り声によって遮られた。龍泉寺は怒気をはらんだその声に勢いをそがれる。
「龍泉寺、お前たちが何もやっていないと言うならこれはなんだ?」
先生は右手に持っていたノートらしきものを龍泉寺にかざす。その瞬間、龍泉寺の顔から一気に血の気が引いていくのがわかった。
先生が持っていたのは、龍泉寺たちが隠していた裏帳簿。先日、俺たちが見つけ出したものだ。
「そ、それは……」
龍泉寺は動かぬ証拠を前にして何も言い返すことができない。
「ここには、お前の名前と野球部の南、そしてバスケ部の服部の名前がある。これ以上言い訳を続けるつもりか?」
先生が龍泉寺を睨む。すると、龍泉寺は観念したのかぱたりと首を垂れた。
「ぼ、僕たちがやりました……」
その声はとてもか細く、今にも消え入りそうだった。
「南と服部はすでに生徒指導室に呼んでいる。お前もすぐに来い。ゆっくり事情を聞く」
それだけ言い残すと、先生たちは放送室を後にした。




